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最終章
106
しおりを挟む雲一つない晴れやかな空。
これ以上ない良い天気の下、王城は賑わう声が響いていた。
セドからされた提案を笑顔で受け入れた私は、今真っ白に輝くドレスをまとっている。
セド曰く、新婚旅行及び蜜月期間に入れば社交場に顔を出さずとも問題なくなるとのことだった。
「お、お嬢さまぁ……とってもとってもお似合いですぅ……うっうっ」
「キナが泣くだけの価値はあるね、うん。姉様、よく似合ってるよ」
「ありがたい二人とも。それなら良かったわ」
大泣きで褒めるキナと、いつもと変わらない様子でいるラド。
「それにしても緊張してないの、姉様」
「もうそれ以上の緊張は経験したし、何より……」
婚約披露会の方が緊張する出来事だった。それに加えて、落ち着けている理由を目線でたどる。
「自分より緊張している人を見ると、全く緊張しなくなるものじゃない?」
「確かに。父様、いい加減落ち着きなよ」
「お、落ち着いてる。だ、大丈夫、なはず」
「大丈夫に見えないわ」
「うん、見えないね」
「み、見えませんっ」
口を揃えて事実を告げる先には、私と一緒に入場することに緊張がやまない父が座っていた。
その様子のおかげで、私の緊張は吹っ飛んだのである。
ノックが響くと、入場の時間だと知らされた。
「うっ、大丈夫……大丈夫……」
緊張が消えそうにない父が近付いて、エスコートをしてくれる。その様子を見たラドは先に行くと言って、キナを連れて部屋を後にした。
「ほら、行きましょうお父様」
「あぁ……」
「そう緊張なさらないでください。娘の門出だと思って、見送る気持ちでいいんですよ」
「……そう、だな」
「それに、この姿は今日しか見れませんからね」
「た、確かに……」
今日しか見れないという言葉が効いたのか、立ち止まると私の姿をじっと見つめた。
「……大きくなったな、フィナ。本当に」
「すくすく育ちましたね」
「あぁ。自慢の娘だよ」
「ふふっ」
最上級の言葉に、心の底からの喜びを笑みでこぼした。穏やかな雰囲気に包まれたおかげか、父の緊張は少しだけ緩和されているように思えた。
結婚式を挙げるにあたって、セドは私の望むことを全て行おうと言ってくれた。私は式を挙げられるだけで幸せだったが、もし願うのであれば、晴れやかな日に王城の美しい庭園に囲まれた場所で行いたかった。
その願いは叶えられ、数日で庭園に立派な舞台が用意された。
緑で出来た門を潜りながら、父と二人会場へと向かう。その先には、私とセドそれぞれの家族と親しい人が笑顔で待ってくれていた。
「きゃーっ!! シーナ! とっても綺麗よ!」
「確かに綺麗だが、少し音量を下げろ馬鹿弟」
「いいじゃない!」
「綺麗よ、シーナ。さすが自慢の姪だわ!」
「さすが舞台に立てる者はオーラが違うわね」
「ありがとうございます」
「……輝いてるな」
「お父様それシーナへの言葉よね?」
賑やかなソムファ家とニナ先生に迎えられ、笑顔で手を振る。
「先生っ! 凄く綺麗です!!」
「とてもお似合いですわ」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ナターシャ一家が祝福の言葉をくれる。
「うちの兄様をもらってくれて本当にありがとう、シーナが一番輝いてるよ」
「とっても素敵!おめでとうシーナさん」
「おめでとうございます、姫様」
「ありがとうございます」
シトさん、フォルス夫人、テオルートさんが暖かな言葉をかけてくれる。
「本当におめでとうございますお嬢様っ……」
「姉様の幸せだけを願うよ。おめでとう」
涙の跡が消えきれなかったキナと、穏やかだが幸せそうなラドの笑顔。
「ありがとう、本当に」
二人の表情と声に、我慢していたものが込み上げてきそうになった。二人の声を通りすぎると、目の前にはもう一人の主役が華やかな礼装をまとって立っていた。
「……セルネスド殿、娘を頼みました」
「……必ず幸せにします」
男性同士の思いが交差し終えると、私の手はセドの元へと移った。
「フィナがあまりにも美しくて、輝いていて俺は霞みそうだな」
「セドが霞むなんてあり得ませんよ。二人で一緒に輝いてますからね」
「確かにそうだな」
これ以上ない愛しげな視線をお互いに向けながら、向き合った。
「……フィナ、生まれてきてくれてありがとう。これからは隣に居続けてくれ」
「もちろんです。二人で幸せになりましょうね」
「約束だ」
ベールをゆっくりと上げれば、優しく頬に触れられる。愛しさが溢れて、嬉しくて笑みを満開にして向けた。
「愛してる。世界で一番大切な俺の番、フィリシーナ」
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