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最終章
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しおりを挟む舞台に上がる前は、家族やお世話になった方々を見つけたが故に緊張が増していた。
けど、いざ舞台に上がり舞踊を始めれば、驚くほど集中できた。自分が作り上げた世界に入り込むと、後は夢中で躍り続けた。
最後に流した涙が、入り込んだ世界の彼のものなのか、これが最後になってしまう寂しさなのかはわからない。確かなのは、ただ浮かび上がった感情に従ってこぼれ落ちたものだということだけ。
私の演目が終わると、こうして卒業公演は幕を閉じた。
会場の外は、生徒達が家族との再会を楽しんでいた。各言う私も、少しお直しをしてから向かったのだが、既に多くの人で溢れており、困ったことに自分の家族がどこにいるのかわからなかった。
(参ったな……集合場所でも決めておけば良かった)
なにも決めていなかったことを若干後悔しながらも、諦めずにひたすらセドを見つけようと周囲を見渡した。
(セドは目立つから見つけられるはず!!)
そう意気込むものの、なかなか見つけられなかった。頑張っていると、突然誰かに腰をとんとんと触れられた。振り向けば、そこには大きな花束があった。
「先生!」
「ナターシャ!」
「凄く素敵な舞台でした!! もう感激で感激で……!」
「ありがとう、これはもらってもいいのかしら?」
「もちろんです!!」
小さな少女からもらうために、さっとしゃがむと満面の笑みを浮かべてお礼を告げた。
「本当にありがとう」
花束を受け取った所で、あることに気が付いた。
「ナターシャ……ちなみに、ご両親は?」
「はぐれました!」
「はぐれたのね……!」
「会場から出たら凄い人だかりで、お父様達が皆こまってて。大人じゃ身動きとれないかなって思って、私一人で先生を探しに来たんです!」
えっへんと言わんばかりの表情は可愛らしいのだが、生まれた懸念をそのまま尋ねた。
「それは凄いわ。ところでナターシャ、それを誰かに言ってから来た?」
「……あ!」
「あらら」
「ど、どうしましょう」
「次からは一人で行動はしないようにね。するとしても、許可をもらってからよ」
「はい……」
「でも見つけに来てくれて凄く嬉しかったし、助かったわ。ここからは一緒に探しましょうか」
「はい!」
先生らしく、咎めることは咎めて、褒めるところは褒めて頭を撫でた。
花束を片手に、空いた方はナターシャと手を繋いだ。
「ナターシャ、どちらから来たのか覚えてる? 何となくで構わないわ」
「わかります!」
「良かった」
こうして小さな案内人と一緒に、皆が待つ場所まで人を掻き分けて向かった。その間、ナターシャはずっと私の舞台のどこが凄いかや、好きな場面を語り続けてくれた。頑張って準備した甲斐があったな、としみじみ感じながら笑みをこぼしていた。
今まで頑張ってきて本当によかった。ありがとう、ナターシャ。
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