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九章
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しおりを挟む悲恋を題材にする舞踊。
これが舞踊学科の題目になっている。
ここ数日、たくさんの文献に目を通し、様々な人から悲恋について話を聞いた結果、私にとっての悲恋をテオルートさんが体現していると思ったのだ。
「テオルートさんの思い出を踏みにじるようなことは決してしないと誓います。私はテオルートさんの今までの心情を舞踊に落とし込みたいのです」
「これの……どこが罰なのですか?」
「罰になりますよ。だってご自身の恋愛が大勢の前で披露されるんですよ? テオルートさんはそういうの好むタイプじゃないでしょう」
「それは……」
「秘密にしておきたかったから、誰にも話さなかったのではないですか?」
「!」
「何となくの予想でしたが、やはり誰にもお話しされてないんですね」
「……えぇ」
シトさんやギルバートさんから話されるテオルートさんは、とても恋愛をしているようには聞こえなかった。
テオルートさんにとって、エリーさんとの思い出は誰にも触れさせたくない記憶だったに違いないと感じていた。それを公開処刑のように舞台で踊るのだ。これ以上ない精神的苦痛だと思う。
「……理解できました。確かに罰にはなるかもしれませんね」
「良かったです」
「……」
「一つ、誤解のないように告げるのですが」
「はい」
「あくまでも、テオルートさんをモデルにするだけです。エリーさんとの思い出を詳細に触れるつもりは微塵もありません」
「ですが、それでは舞台にならないのでは」
「ご安心を。元々一人で行う舞台ですから、一人二役にならないだけの話です。それに、テオルートさんという人をモデルにするだけで充分なので」
私が演じたいのは、あくまでも彼の悲恋に対する考え方の変化と終着地点。そこに大切にしまっていたエリーさんとの話を触れる必要はないのだ。
「……貴女はどこまでも寛大なのですね」
「そんなつもりはありませんが」
「貴女のような方なら、陛下の隣に立つのに相応しいと思います。……私の言葉は信用ならないと思いますが、本心です」
「いえ、素直に受け取りますよ。ありがとうございます」
苦笑いか呆れ笑いかわからないが、テオルートさんから笑みがこぼれたところで、ソムファ家一行と父とラドがこちらに向かってきた。
足早にラドが来たかと思えば、思わず抱きつかれた。
「姉様!!」
「ラド!久しぶりね!」
「久しぶりねじゃないよ!大丈夫なの!?」
「え?……あぁ、大丈夫よ」
そう言えばラドは、今集まった中で唯一テオルートさんの警戒をしていた人物だった。ラドにこっそりと呟いた。
「実はね、解決したの」
「本当に?」
「えぇ。文句無しの結果よ」
「……それなら良いんだけど」
ゆっくりと離れると、テオルートさんと私を交互に見ながら言葉をこぼした。
「シーナ、怪我はないのか?」
「お父様、お久しぶりです。この通りドレスも綺麗でしょう?」
「あぁ……それなら本当に良かった」
「それにしてもそのドレス、凄いね。華やかなんだけど凄い目立つわけでもない、良い案配のドレスだね。まさかセル義兄様から?」
「そのまさかよ」
「そっか、納得。似合ってるよ」
「あぁ、似合ってるぞ」
「ありがとうございます」
その後もローゼ叔母様達に同じ確認をされた所で、建国祭のパーティーへと向かったのだった。
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