フラグを折ったら溺愛されました

咲宮

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九章

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 手紙を読み終えたテオルートさんは、涙を流しながら微笑んでいた。

「……エリー、君には敵わないな」

 何度も読み返す姿に、私の胸まで暖かくなっていった。ようやく目線を手紙から外すと、心底大切そうに自身の内側のポケットに手紙をしまい込んだ。その表情は、憑き物が取れたような晴れやかな表情になっていた。

 コンコンと御者の方にノックをすると、馬車を止めさせた。
 そして真剣な眼差しでこちらを見つめる。

「……テリジア嬢」
「はい」
「貴女の言う通りでした。私が間違っていた。……自分の非を認め、深く胸に刻むと共に、許されないとわかっていますが謝罪をさせてください」
「……」

 静かに頷くと、彼は深々と頭を下げた。

「本当に申し訳ありませんでした」
「……」
「如何なる罰も受ける所存です。どうか、陛下と話し合ってお決めください」
(それは……)

 番であるセドに事の顛末をありのまま告げれば、確かにテオルートさんは厳罰に処されるだろう。……それはたとえ証拠がなくても。

「今からでは少し遅れた時間になりますが、全速力で飛ばせば開始時間に間に合います。急ぎ戻ります。私の処罰は、その際に」

 その言葉を最後に、王城から少し離れた場所にいた馬車は急いで来た方向を戻るのだった。

 様々な考えが自分のなかを巡りがら、彼の言う処罰について考えていた。

 馬車が出入りする王城の入り口にたどり着くと、馴染みのある人が集まっていた。

「シーナ!無事だったのね!!」
「シン……」
「お兄様、陛下にご報告を!」
「わかった」
「あ……」

 駆け寄るシンに、心配をかけてしまったと申し訳なさを感じながらも、もう全てが知られているのかとどこか歯がゆい思いを感じていた。

 テオルートさんの方を見れば、覚悟を決めた面持ちをしていた。

「それにしてよ良かったわ、シーナが無事で」
「うん……」
「本当にありがとうございます、フォルス公子」
「……え?」
「……」

 シンが感謝を述べた瞬間、疑問が一気に浮かび上がった。

「何きょとんとしてるの、シーナ!フォルス公子が助けてくれたのでしょう」
「た、助け……えっと、どういうこと?」
「あらシーナ、聞いてないの?」
「うん……」
「シーナ。貴女ね、誘拐されかけたのよ」
(……それは今では)

 シンの言葉が今一理解できずにいると、具体的な説明をしてくれた。

「実はシーナが出ていった後に、もう一組馬車がいらしたの。おかしな話でしょう?慎重に接して、調べてみれば正式な使者じゃなかったのよ」
「それって」
「そう。いないと思ってたごく僅かの陛下の敵が、今日貴女を狙ったということ。それを見事にフォルス公子が助けてくれたっていう話よ」
「……そう、だったのね」
「そうよ。……あ、私もお母様達を呼んでこないと。ここで待っててちょうだい!」
「えぇ」

 突然の情報に驚きながらも、テオルートさんが経緯を静かに教えてくれた。

「……元々はそうでした」
「……」
「偶然、計画を耳にしたので、これに乗じれば貴女を連れ出せると思いましたので」
「つまりそれは」
「はい。状況を利用しただけです。ですのでお気になさらないでください」
(…………でもそれなら)

 浮かんでいた考えがまとまると同時に、エディさんがセドとシトさんを連れて来た。

「フィナ!!」
「セド、っ」

 勢いよく引き寄せられると、力強く抱き締められた。

「無事で……本当に良かった。怪我はないか?」
「はい、どこにも」
「あぁ……良かった、無事で」
「ご心配をおかけしました」

 セドの奥には安堵の表情を浮かべるシトさんがいた。
 少ししてセドの胸から解放されると、遂に避けられない事を尋ねられた。

「テオルートが助けてくれたのか」
「……」

 テオルートさんは何も答える様子はない。私が告げるのをただ待っていた。

 処罰という言葉を巡ってたどり着いた答えを、私はセドに告げた。

「はい、助けていただきました」
「!」
「そうか、それなら本当に良かった。テオルート、恩に尽きる」
「…………は、はい」

 彼の動揺は当然の反応で、声色からも察せられた。

「フィナ、そのドレス……本当によく似合ってる」
「セドのおかげです」
「兄様、本当に申し訳ないけどもう時間だ。シーナもごめんね」
「いえ」
「……遅らせればいいものを」
「もう無理だからね。建国祭の開幕に国王がいないとかあり得ないから……ほら行くよ。テオ、引き続きシーナを任せたからね」
「フィナ、後で会おう。必ず」
「はい、必ずお会いしましょう」

 ゆっくりしていられないのは重々承知だったため、ただ二人の後ろ姿を見送った。

「シーナ、シンはどこへ?」
「叔母様達を探しに行かれました」
「わかった。念のため俺も行ってくる」
「はい」

 エディさんが離れたのを確認してからテオルートさんの方を見れば、未だに困惑を隠せない表情をしていた。

「……テリジア嬢、どういうおつもりですか」
「これが最善だと思いました」
「そんなわけが!」
「あるんです、実は」
「……?」
「テオルートさんが私にされたことは、とんでもない殺気を向け続けたことと、それを実現ことのみです。この二点、確かに事実ではありますが何分証拠がありません」
「……」
「……私は、セドに証拠もなしに重い処罰を下すような暴君のようなことはして欲しくありません。ですので今回は控えることにしました」
「いえ、充分私は罰される身です。私が事実だと認めれば貴女の証言だけではなくなりますから、確かなものに」
「未遂じゃないですか。その上再犯の可能性はない。……セドを守るに充分な能力を持たれている人をむやみに遠ざける理由はありませんし」

 本当に色々な要素を考えての決断だった。未遂とはいえ、散々な殺気を当てられたから。

 でも、自分の立場や状況、そしてエリーさんのことを考えると妥当な判断だと思ったのだ。
 当然ながら、未だにテオルートさんは納得の表情にならない。

「でも。許す許さないはまた別のおはなしです」
「もちろんです」
「正直、怖い思いはしましたから、その分くらい請求してもいいと思うのです。いかがでしょう?」
「当然の結果です。どのような処罰でも受ける所存です」
「ですので、セドだけでなく。私の影にもなっていただけませんか?」
「…………え?」
「といっても影というよりも……使いっぱしり、ですかね?」
「そ、その程度で」
「おや、舐めてらっしゃいますか?私的には激務だと思うのですが」
「げ、激務……」

 唖然とするテオルートさんに、私は更に畳み掛けた。

「それと。私的にこれはかなり重い罰になると思うのですがもう一つ」
「……何なりと」

 その言葉を聞いて、私はにっこりと笑みを深めた。



「私の卒業公演の、モデルになってください」
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