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八章

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 建国祭当日。

 叔母様やシンと比べて一足先に準備が終わった私は、二人にドレス姿の確認をしてもらっていた。

「まぁ。とっても似合っているわよシーナ!」
「本当、素敵ね。良くできたドレスだわ」
「あ、ありがとうございます……」

 華やかすぎると思っていたドレスも、いざ着てみると心なしか落ち着いた雰囲気がほんの少しだけ見える気がした。

 そして何よりセドが時間をかけて大切に作り上げてくれた一作を身に付けるのは、胸が暖かさでいっぱいになり、着て良かったと既に思えた。

「あれ、シーナは先に行くの?」
「うん。叔母様に教えてもらったのだけど、今日はラドとお父様もいらっしゃるみたいで」
「あら! だからお母様、王城からの手紙を読んだ時嬉しそうにしてたのね」
「ふふ、そうよ」

 昨日の夕方に差し掛かる時刻に、王城からソムファ家宛に手紙が来たのだった。
 ゼロ国の建国祭という大きな催しのため、サン国からの来賓という枠も踏まえて二人が来るみたいだった。

「二人を迎えるから、少しだけ先に」
「えぇ。あと、二人が来るならわざわざシーナがソムファ家として出る必要がなくてね。だったらテリジア家として出席した方が良いのではって、私が提案したのよ」
「さすがお母様。完璧ね」
「ありがとう。もちろんソムファ家との繋がりを見せるから、入場は一緒にね」
「はい、お待ちしてます」

 建国祭自体は既に始まっているが、王城で開催されるパーティーは夕刻開始。その前に到着するラドとお父様に会うために、もう少しで出発する。

「では装飾品を付けて参ります」
「気をつけて。今日は冷えるからショールも持っていきなさい」
「わかりました」
「何でも似合うわよシーナなら」
「ありがとう、シン」

 準備していた部屋に戻ると、耳と頭の装飾品を付けることにした。

「キナ、ショールはある?」
「こちらに。冷えるので少しでも寒かったら着てくださいね」
「うん、ありがとう」 
「……あっ」
「どうしたの、キナ?」
「お嬢様、大変申し訳ありません……装飾品が入ってると思って持ってきたのですが」
「あら」

 キナが用意した二箱の内、一つはレーネさんから託されたお姉さん宛の手紙が入った箱だった。

「……」
「お嬢様?」

 その中の一つに手を伸ばすと、少しだけ見つめて机に置いた。キナの声で弾かれるように意識を戻すと、慌ててショールを机に置き、装飾品を付けに動いた。

「大丈夫よ。あるもので用意しましょう」
「わかりました」

 問題なく耳と髪に装飾品を身に付けると、いつも通りセドから贈られたペンダントも身に付けた。

「とってもお似合いです」
「ありがとう……不安だったけど、着てみると凄く嬉しい気持ちになって」
「早く陛下にお見せしたいですね」
「えぇ」

 鏡に映る自分を見ながらその姿に満足すると口元を緩めた。

 圧倒的に迎えの馬車が来たため、急いでショールを持って馬車へと向かう。

「じゃ、また後でねシーナ。ごめんなさいね、お母様がちょうど準備を始めて」
「大丈夫よ、また後ですぐに会えるのだから。会場で会いましょうね」
「えぇ。気をつけていってらっしゃい」
「シンも。いってきます」

 シンと出立の会話を交わしながら、馬車へと乗り込むと思わぬ先客がいた。

「……」
「驚かせましたか? これでも王命でお迎えに上がりました」
「ご無沙汰しております、テオルート様」
「ご無沙汰してます、テリジア嬢」

 必然と重い空気で、馬車は出発するのだった。

◆◆◆

 
 フィリシーナが出発した数十分後のソムファ家にて。

「……あら?」
「どうした」
「お兄様、馬車が。誰か急用かしら」
「建国祭に尋ねてくる頭のおかしい貴族はいないだろう」
「そうよね、皆今頃準備してる時間よね……」

 そう会話をしながら、二人は玄関の扉を開けて馬車から出てくる使者を見つめた。

「フィリシーナ・テリジア様をお迎えに上がりました」
「……」
「……」
「待機しておりますので、ご準備整い次第出発致しますとお伝えいただければ」

 目の前の使者の言っていることが理解できずに、思わずジェシンは眉をひそめた。

「どういうこと?」

 
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