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八章

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 建国祭前日、ソムファ侯爵家に王家から内密に物が届いた。

「……凄く素敵、なんだけど」
「とても華やかなドレスですね」
「……キナ、これはさすがに豪華すぎるわ」
「そうですね……確かにこちらは婚約者に贈られるドレス、というレベルの華やかさですね」
「それだと今回は駄目なのよ……」

 届いたのは私宛のドレスで、差出人はもちろんセドであった。
 セドが作ってくれた建国祭用のドレスはとても素敵なデザインではあるのが、その繊細で優雅なデザインは明らかに品質の良い高級感漂う一作であった。

「今回はあくまでも、ソムファ家でお世話になっているテリジア家の令嬢として参加するの。……これだと誰かの婚約者よね」
「はい……少なくとも初めて参加する社交界の装いとはちょっと違ってしまう気が」
「えぇ……」

 このドレスを知っていたから、シトさんは旅立つ前に助言をくれたのだろう。万が一があれば、ソムファ家で用意して構わないと。

 これを着れば社交界で浮いてしまう可能性まである。立場が難しい以上、厳しい視線が飛ぶかもしれない。

(けど……せっかくセドが作ってくれたドレスなのよね)

 ドレスを眺めながら頭を悩ませると、家の外から馬車が入ってくるのが見えた。

「来客かしら」
「あぁ。そう言えばご子息が本日戻られると耳にしました」
「それではシンかもしれないわね」
「お会いになりますか?」
「えぇ。せっかくですもの」
「ではドレスは私にお任せください。傷付かぬように移動して管理致します」
「ありがとうキナ。終わったらゆっくり休んでいてね」
「はい、ありがとうございます」

 キナを部屋に残すと、シンが帰ってきたであろう玄関に向かう。

(……あれ? 誰もいない。叔母様達は皆様忙しいのかな)

 少しだけ疑問に思っていると、すぐさま扉が開き懐かしい顔が現れた。

「あら! シーナじゃない!!」
「おかえりなさい、シン」
「やだ。出迎えてくれたの? うちの人達は薄情だから、普段帰ってきても知らんぷりなのよ。だから凄い嬉しいわ」
「喜んでもらえて良かった」

 侯爵とエディさんが出てこない姿が容易に想像できた。

「といってもお母様がいないと言うことは、今捕まってるわね」
「あぁ、侯爵様に?」
「えぇ、いつも大体そうなの。基本的に一度捕まるとお兄様が引き剥がしに来るまでは解放されないから」
「確かに……」

 いつも見る光景を思い浮かべながら、シンとの会話を続けた。

「帰ってきたと言うことは、シンも建国祭に?」
「そうなの。出席しようと思ってね」
「シンが居てくれたらとても頼もしいわ」
「あら。期待に応えられるよう頑張るわ」

 応接室に移動をすると、近況を報告しあった。
 
「あたしの方は特に何もないわね。いつもと変わらない日々を過ごしてた感じよ。シーナは何かあった?」
「私は最近卒業公演の準備をしてて」
「あら、もうそんな時期なの! 時間の流れって早いわね……」
「私もそう思う」

 強く頷きながら同意した。

「卒業公演は何をするの?」
「実は大まかな題目が決まってて。それが今回は悲恋なの」
「悲恋ってまた……難しい内容ね」
「うん。でも何とか答えにたどり着けそうな気がする」
「応援してるわ」
「ありがとう」

 和やかにお話をしていると、ノックが聞こえた。中に入ってきたのは叔母様だった。

「あらお母様。ただいま戻りました、ちなみにお兄様はもう来たの?」
「おかえりなさい。いいえ、自分で引き剥がして来たわ」
「まぁ。珍しいこともあるのね」
「明日は建国祭なのよ。仕事を片付けてもらわないと、ね?」
「確かにそうね」

 綺麗な笑顔でさりげなく言う姿からは、容赦なく引き剥がしてきた様子が伺えた。

「シーナ。先程ドレスを見たけ、どとても素敵なドレスね。さすが陛下だわ」
「あ……その、いささか華やかすぎではありませんか?」
「うーん……言われてみると確かにそんな気がしなくもないけど」
「私にとって、今回の建国祭がゼロ国初めての社交界なので……その、もう少し落ち着いたものの方が良いのかもしれないなと」

 先程まで浮かんでいた悩みを口に出すと、予想外の答えが返ってきた。

「あら。良いじゃない華やかなもので。だって建国祭よ? 年に一度の催しなんだから、多少華やかでも全然浮かないわよ。むしろ落ち着いたものだと地味になる可能性があるわよ?」
「そうなの?」
「えぇ。だから安心して着なさいな」
「ジェシンの言う通りね。確かに問題ないと思うわ」
「……それなら」

 二人の心強い言葉で、セドから贈られたドレスを着る決心をした。せっかくセドが考え抜いて作ったドレス。着れるに越したことはない。

 不安事がひとつ消えた私は、知らずに笑みをこぼしていた。




 ドレス、似合うと良いな。
 
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