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八章

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 建国祭が迫る中、今日はシトさんに呼び出されていた。

「失礼します」
「いらっしゃい、シーナ」

 自身の業務で忙しい中呼ばれたので、何か重大なことかと少し身構えながら席についた。

「お話とはどうされましたか?」
「再確認みたいなものだよ。建国祭のパーティーについてなんだけど、当日はいつも通りソムファ家にお世話になることが確定したからよろしくね」
「わかりました」
「それとこれ」
「……帳簿、ですか?」
「うん、レイティアからね。何でもうちの国での社交界上の要注意人物とか中心人物とかをまとめたものらしい」
「ありがとうございます……!とても貴重なものを」

 そこにはフォルス夫人直筆で書かれた貴族名鑑があった。

「何でも王城で暇みたいで。暇潰しだから気にするなって本人から」
「本当にありがたいです。後でお礼をもって会いに行きます」
「そうしてあげて。その方が妻も喜ぶから」

 フォルス夫人を思って嬉しそうにするシトさんを珍しそうに見ていると、どこか申し訳なさそうに続けた。

「本当ならソムファ侯爵夫人の仕事かもしれないんだけど……ほら、彼女あまり社交界に出られないから」
「あぁ……確かに侯爵はあまり」
「でしょ?だから勝手ながらうちの妻が用意したんだ」
「助かります」

 ありがたさを噛み締めながら笑みを浮かべると、続いて謝罪が始まった。

「その……シーナ」
「はい」
「本当に申し訳ないことをしてしまったんだ。先に謝っておきたくて」
「申し訳ないこと?」
「あぁ……」
「……?」

 一気に落ち込む様子を見せるシトさんに、何となくの言葉を返した。

「もしかして……セド、ですか?」
「……うん。実は、あの適当なアドバイスを本当に実現させはじめて」
「……まさかドレス」
「そう。建国祭といっても一種のパーティーに過ぎない。その上シーナは今回一介のご令嬢だ。それには合わないほど華やかなものを作らせててね……まるで結婚式のように」
「そ、それは」
「さすがに着られないと思う。何度も止めたんだけど、流されてしまって」
「お疲れ様です」
「いや、僕が蒔いた種だから」

 苦笑いで困った表情を見せるシトさんに、同情をした。

「最悪ソムファ家に用意してもらって構わない。シーナの判断に任せるから。本当に申し訳ない」
「いえ、取り敢えずセドから受け取った時にもう一度考えますね」
「本当にごめん」
「いえ、謝らないでください。仕方のないことだと思いますから」
「シーナは優しすぎるよ」
「そんなことは」

 何度か謝罪をされた後、話が終わって立ち上がった。すると、いただいた帳簿から紙が落ちてきた。

「あ、ごめん。僕の資料かもしれない」
「みたいですね、どうぞ────」

 ちらりと見えてしまったその資料を見て、体が固まってしまった。

「どうかした、シーナ」
「……あの」

 そこには見覚えのある筆跡があったのだ。

「このサインって誰が」
「これ?これはテオルートのだけど。何かあった?」
「いえ。なんでもありません」

 急ぎ誤魔化してその場を後にするも、衝撃的な事実を知った余韻は少しも消えなかった。





 禁書の文字は、テオルートさんってこと?
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