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七章
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しおりを挟む「俺が幼い頃は悲恋はジャンルの一つとして、舞台で普通に公演されていた。だが悲恋はさっきフィナが言っていた、心中や身投げ等を描いたものではなかった」
「違うのですか?」
「あぁ。悲恋の王道と言えば、番を見つけられずに幸せになれない事が主題のものだった。当時は今と比べて獣人の血を濃くひくもの達が多かった。それもあってか、番と巡り合うことが当たり前の時代だったんだ。だからこそもしもの話として描けていた。その時代に生きていた者達も、作り物として他の演目と大差なく楽しんでいたんだ」
番がテーマというのはこの国らしいものに思う。でも書物にはその事は書かれていなかった。その理由はセドの言葉から判明する。
「段々と血が薄まりながらも、番は見つかるものという事という概念は消えずにいた。そんな中俺は生まれた。王族というだけあり、血が濃いことは周知の事実だった。だから番の現れを周りは当然のごとく待った。だが、出会うことはなかった」
「あ……」
「フィナ、誤解しないでくれ。今巡り合えたことに本当に感謝してる。ただ、出会えなかった日々が長かっただろう?昔にも言ったかもしれないが、あの時は番を見つけることを諦めつつあったんだ。俺の中でも現実を受け入れていたつもりだし、一人で消化しようと思っていた。でもそうさせてくれないのが世間だった」
王族として生まれ民は番が見つかることを当たり前だと思っていた中、現実は上手く行かなかった。その事に当然民の間でも衝撃が走った。只事ではないと。
そしてその後も見つかることが無いままセドは賢王となっていき、多くの人に慕われるようになった。その時に、世間は悲恋の演目を疑問視する声が上がっていた。
今まではあり得ない事として、楽しまれてきた主題が現実で起きてしまったのだ。しかもお慕いする国王の身に。そんな状況下で、悲恋という演目は存在自体が不敬になるのではないか。そんな考えが浮かぶようになると、そこからは早かった。
番を題材にした悲恋の演目は全て取り止めとなった。存在自体が不敬という事に重きを置いた過激派によって台本もほとんどが燃やされたという。
そこから新しく生まれたのが、番に一切関与しない悲しい結末の演目という事だ。
「申し訳ないことをしたと今でも思う。原因の一つには俺の存在があるのだから」
「セド……」
返す言葉に一瞬詰まるが、すぐに立て直す。
「では私も一因ですね。私がもっと早く生まれれば起きなかったことでもありますから」
「…………参ったな、そんなことを言われるとは。さすが俺の番だな」
「最高の褒め言葉ですね」
だからどうか、思い詰めないでくださいね?と念を押しておいた。
決して貴方だけのせいではありませんよ、セド。
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