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六章
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しおりを挟む遂にこの日が来てしまった。お父様とラドが帰国する日が。
寂しい気持ちが胸いっぱいに広がるのを感じて、自分もまだまだ子どもだなと苦笑してしまう。
「お兄様、また必ず来てください。今度は是非我が家に。いつでも歓迎いたします」
「ありがとうローゼ」
今にも泣き出しそうな叔母様を、お父様が優しく宥めている。
「ラド、自由がきく内に何度でもこちらに来てくれ」
「また会いましょうね、ラド」
「はい。エディ兄様、シン兄様」
「くっ……可愛い」
「兄様ですって!感激よ、ラド!」
従兄弟の別れはどうやら熱狂的なものになりそうだ。
「やはり寂しいか、フィナ」
「そうですね……そうでないと言うのは嘘になりそうです」
「…………」
一瞬、どこか暗い表情を見せるセド。そんなセドに暖かな笑みで言葉を続ける。
「ですが今生の別れではありません。それに私にはセドがいますしね」
「フィナ……!人が居なければ抱き締めている所だ」
「良かったよ、抑えるだけの理性が兄様に残ってて」
「シト、今良いところだ。邪魔をするな」
「いや、それは後でやってね?今はお別れの時間に浸らないと」
「…………くっ」
シトさんの正論に顔を背けるセド。珍しくシトさんの方が年上に見えてくる。
「セドが弟みたい……」
「えっシーナ、それって僕が老けてるってことかな?」
「フィナ、子どもっぽかったか。その……すまない」
「いえ、そんなセドも可愛らしいなぁと」
「!!」
「あ、うん。それじゃあ兄様、イグニード殿に挨拶しに行こうね~」
「ま、あ、フィナ……!」
何かを察したシトさんがセドの背中を無理やり押しながら、お父様の元へと向かった。セドは言葉を発する暇もなく、残念そうにその場を離れた。その姿を私は微笑ましく眺め、二人を見送った。
「何やってんの姉様」
「ラド。挨拶は済んだの?」
「済んだよ。それにしても不思議。想像以上に知り合いができたから」
「昔からラドはどこにいっても可愛がられるわよね」
「そう?」
「うん。相手の間合いを見るのが得意なんじゃない?」
「……否定はしない」
こんなやり取りも当分できなくなるかと思うと、改めて寂しさを感じたがそれを察知したラドが優しく告げた。
「向こうについたらまた書くから、手紙」
「……ありがとう、私も書くね」
「ラド!私にも書いてくれ!」
「やだ、あたしも欲しいわ」
「エディさん、シン」
まだ挨拶終わってなかったのかなと思いながら振り向くと、二人はラドに熱い視線を送っていた。
「まぁ、暇だったらね」
軽くあしらうような言い方にも見えるが、その表情は嬉しそうだ。
「ラドナード君!」
「あ、叔母様」
「うちの息子達が迷惑ばかりかけてごめんなさいね、大丈夫?なにもされてない?」
「大丈夫ですよ」
先ほどまでの泣きそうな少女は消え去り、優しき強き母としての叔母様の姿に戻っていた。
「やぁねお母様、なにもしてないわよ?」
「どうかしら……」
実の息子だというのに不審そうに見つめる叔母様。そんなやり取りを横に、私はお父様の元へ向かった。
「お父様」
「シーナ」
ちょうどセド達の話は終わったようで、こちらに耳を傾けてくれる。
「お体にお気をつけてくださいね。あと、無理はなさらないでください。そして何かあれば必ず連絡をくださいね」
「あぁ、ありがとう」
「フィナもだぞ」
「もちろんです」
別れの挨拶を終えると、最後に二人と抱き締めあった。サン国を旅立つ時ほどの不安は無いために、比較的穏やかな心境で二人を見送る。
「お元気で」
「姉様もね」
「シーナも」
馬車に乗り込むと、セドが後ろから手を回して心配そうに支えてくれる。大丈夫だという意味で笑いかければ、暖かな笑みが返ってきた。
馬車がの姿が小さくなるまで、見送り続けた。
大丈夫、私にはセドがいる。
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