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三章
28 side シトラウル
しおりを挟む僕にとって兄は絶対的な存在で、憧れと尊敬を抱かずにはいられない自慢の家族だった。
シトラウル・ゼロとしてゼロ国の第二王子へと産まれた。二人目の王子は正直言ってそこまで重要ではなく、兄様に比べれば随分と自由に過ごせたと思う。
兄様が全てにおいて優秀で万能だった上に王としての素質まで持ち合わせていた為に、僕がそれを凌いで次期国王になる可能性は無いに等しかった。
兄様は獣人の血を先祖返り並みに濃く引いていて、番となる女性以外には全く何も感じない体質だった。幼い頃の時点でそれがわかった兄様の為に、父様は番探しに尽力した。
その時はすぐに見つかるだろう、そんな気でいた。しかし、段々と捜索に時間がかかり出すと、雲行きが怪しくなっていった。
国中を探して、探して、探し回った結果、とうとう見つけることができなかった。
兄様にかける声が見つからないまま、城内は暗い雰囲気に包まれていった。
それを打ち破ったのは僕としては嬉しいが素直に喜べない状況だった。それが、僕自身の番がみつかったことだ。
この出来事で城内は少し明るくなり、父様も喜んでいた。当然、僕自身も喜びはした。それでも番がいないとされた兄様の存在が脳裏に残り、申し訳なさと「自分ではなく兄様へ!」そんな思いも生まれていった。
番との交流が少しずつ増えることに比例して、兄様との交流は減っていってしまった。気を遣った結果と言えばそれまでだ。それでも、
複雑な心境を持った僕はどう対応すればいいかわからなかったのだ。
兄様が大好きだから。
兄様は歳を取るに連れ、どんどんと表情と感情が消えていった。何も感じない、人形のような人へなってしまわれた。
そんな兄様を見たくないと強く思ってしまった。だから、何度か取り戻そうと接触した。けど、僕が想像していたよりも遥かに大きな心の穴が兄様には空いてしまっていた。
どうにもならない、そう確信した。
手段がなくなり、交流の回数もさらに減り、何もできないが自分に負い目を感じた僕は、逃げるように結婚して爵位をもらい、任された領地に引っ込んだ。
それからは自分で新しい家族をつくり、そちらへ集中していたこともあり、あまり兄様と会うことはなかった。
もう、二度と兄様とは以前のような関係になれないそう思い過ごしていたある日のことだった。
兄様の番、シーナが現れたのは。
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