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三章
25 side セルネスド
しおりを挟むフィナに無事説明を終えた。姿を変えても俺だと認識してくれたことに喜びを感じながら、あの姿は案外悪くないなと思った。
後は入学式までにシトと仕事の整理と処理をするだけだ。これが尋常じゃない量なのだが。
それでもフィナと学校へ通える日を心待ちにしながら作業を無言で進める日々を過ごした。
そんな日々でもフィナに会うことは決して欠かさず、できる限り時間を取った。フィナに会わなければ俺が持たない。
「……フィナが足りない」
ある日の朝、切羽詰まってきたことから早い時間から仕事を始めていた。中々フィナとの時間をしっかりと取れないまま、城内から感じるフィナの気配を励みに手を動かしていた。
しかし、使用人の話では今日フィナはソムファ侯爵家へ行くという。
「……駄目だ」
離れないでくれ。
そう心から思った。まだ身近に感じられるからこそ、何とか気を保ってやっていれるのだ。それが少しでも遠くへ行ってしまえば、俺のやる気は消滅する。
「……っ」
あまり深く考えずに席を立った。
フィナが乗るであろう馬車を視界に捉え、歩幅を広くする。
「……フィナ」
外用に着飾ったフィナのあまりの可愛さに、外出を止めたい気持ちが高まる。だが、約束を取り止めることはできない。それなら、俺がついていけばいい。
馬車の前に着き、何食わぬ顔でフィナの隣に立つ。
「では行くぞ、フィナ」
「……お仕事は終わったのですか?」
「大丈夫だ。シトに任せてある」
心配するフィナに対し、流れるように嘘をつく。
「本当に?」
「俺を疑うのか?」
駄目だ、そんな目で見つめても俺はついていくぞ。
「………」
勘ぐられる前に馬車に乗ってしまおうか、そう考えているとフィナが口を開いた。
「疑いたくはありませんが、必然的にそうなるような行動をしているのはセドの方でしょう?」
「………………………………………………」
痛いところをつかれる。
「できるだけ早く帰ってきますから」
「……それくらいなら行かないでくれ」
気を遣う姿に喜びを感じるが、そんなフィナが遠くに行くのは耐え難い。そう感じて腕を引き胸に収める。
「困った我が儘ですね……」
「…………」
苦笑いから困っているのが伝わるが、どうしても欲が制御できない。必然と抱き締める腕の力が強くなる。
このまま諦めてくれないか、そう願った時だった。
フィナが顔を上げたかと思えば、首筋に近づけて跡をつけたのだ。
「!!」
「…………いつぞやのお返しです」
突然のことに思考が停止する。
「……消えるまでには帰ってきますから」
フィナは恥を忍んで行ったのか、顔が赤くなっている。
「で、では!いってきますから!!」
「……あ、あぁ……」
動揺を隠せないまま、フィナが出発するのを呆然と見送る。
「…………可愛すぎるっ」
顔を片手で抑えながら、日に日に可愛くなり続けるフィナの行動にこれ以上無い喜びを噛み締めながら書斎へと翻す。
「……おかげで頑張れる」
フィナのつけた跡を早く鏡で見たくて、書斎へ来た時よりも足早へ向かった。
これだから欲が止められないんだ。
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