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三章
21 side セルネスド
しおりを挟むゼロ国へと到着した。
フィナがここに来るのは、これで二度目だ。だが以前と異なり、抱えるものや立場が変化した為か、想像以上に緊張しているように見えた。
「…………」
「……フィナ」
「大丈夫です」
「まだ何も聞いていないが……」
緊張のし過ぎと、心配をかけたくないという気持ちから答えに動揺が見える。
「……約束、しましたから。だから……精一杯、頑張ります」
俺を見上げて笑う。
だが、その笑みには大きな不安と負担が隠れている。
フィナが俺とこの国のことを考えてくれるのは、本当に嬉しい。これから先フィナが隣で支え続けてくれるのは、出会う前では想像できなかった未来だ。
でも今はまだ、焦る必要は何もない。
フィナが俺のことを考えてくれる以上に、俺はフィナのことを考えているのだから。
「フィナ、気負わないで大丈夫だ。まだ書類上の婚約者なだけで、正式に発表はしていない。本当は王城に着き次第、すぐにでも国内から他国まで報せを出したいくらいだが生憎それができなくなったのだ」
「……え?」
「フィナ。元々フィナは今年の留学生としてゼロ国へ来ただろう?」
「はい。自ら望んでなりました」
「舞踊を学びたいというフィナの意思を無下になどできない。その上、留学生という立場は取り消せない。決定事項だからな」
「え……その、良いのですか。留学生としていても」
「あぁ。これはイグニード殿と話し合って決めた結果だ」
「父様と……」
この許可が下りたのには、フィナの今までの努力も関係してくる。本来であれば、王妃教育を行わなくてはならないところだが、元々王子の婚約者であったため、必要な教養は終えていた。あとはゼロ国に関する文化等を学ぶ必要があったが、舞踊は我が国の文化だ。これを学ぶのは王妃教育に入ると見なされた為に、専門学校へ学びに行くことが容認された。
だが、王城の外へ出るのであれば肩書きは大切になってくる。ここで今すぐ婚約発表をしてしまえば、危険に侵される可能性が高くなる。元々留学生という立場を全うするためにゼロ国へ来た、ということもありフィナは当分テリジア公爵令嬢として過ごすことになった。
「留学生として役目を果たした後、正式に俺の婚約者として発表させてくれ」
「ありがとう、ございます」
「あぁ。その顔が見たかったんだ」
喜びを噛み締める笑みは、先程とは違ってただ嬉しさのみか溢れていた。
その笑みは俺の気分を高揚させる。抱き締めたい気持ちを抑えて、手に触れるだけにする。
「ただ、婚約を結べたことに関しては国の一部の者にのみ報告させてほしい」
「もちろんです」
「今日国へ戻ることは事前に伝えているから、城で待機しているだろう。そこへ顔を出してくれないか」
「はい。是非挨拶をさせてください」
「あぁ」
前回フィナを城に連れてきたときは、本当に数少ない者にのみにしか番の話をしなかった。
後日、家臣たちは全員、俺に番ができたと知ると自分のことのように喜びだした。あの反応を見ればわかるが、俺に番ができることに反対する者は誰一人としていなかった。
フィナを安心させたいが、余計なことを言って更なる負担にはさせたくないため、言葉を選びながら寄り添う。
「フィナ、緊張せずとも大丈夫だ」
「……はい」
「気軽にいけばいい。フィナが思う程、堅苦しい場にはならぬと思うからな」
「どういうことですか…?」
フィナが疑問を聞くのと同時に扉を開く。
すると、その瞬間に聞こえたのは──。
パンッ!!!
大きな大きなクラッカーの音だった。
「陛下!ご婚約おめでとうございます!!」
そこにいる全ての者が口を揃えて発した。
「えっ…………」
予想外過ぎる展開だからか、素っ頓狂な声がフィナから出る。その声はとても愛らしく、驚くフィナも悪くないと感じてしまう。
「……全く。いい大人が揃いも揃ってサプライズか?」
「これは……一体……」
サプライズをされて呆気に取られるフィナの隣で、俺は苦笑した。
こういったことをされるのはいつぶりか。下手したら初めてかも知れないが、悪くないものだ。
「フィリシーナ・テリジア様。ようこそゼロ国へ。改めて歓迎させていただきます」
弟のシトラウル────シトを筆頭にフィナへの挨拶が始まる。
「あ、ありがとうございます…?」
「…………はぁ。お前達がサプライズなどするからフィナが驚いているだろう」
「ごめんごめん。言い出しっぺは僕だから許してね」
やはりシト、お前か。
「おめでとう、兄様」
そう言って無邪気に笑う姿を見ると、許せなくもないと思う。
だが、シト自身は既に結婚済みで子どももいる。大の大人であり父親にもなった男が一体何をしているんだか……と、少し呆れながらも結局許してしまうのであった。
どんなに歳を取ろうと、シトは弟だな。
△▼△▼△▼
いつも読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
宣伝をさせてください。
新しい長編を始めました。
こちらの更新も怠らないよう、同時並行で頑張ります。
よろしければ、覗いてみてください。
「滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う」
これからもよろしくお願いいたします。
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