上 下
40 / 133
二章

20

しおりを挟む


 城下の入り口にはあっという間に着いた。
 以前シンと暮らしていた場所とは反対の部分にいた。

「城下のこちら側に来るのは初めてか?」

「えぇ。以前いた場所とはまた違う雰囲気で…とても素敵」

 こちら側は少しレトロで大人な雰囲気が出ていた。比較的落ち着いた色味の建築物が多い。

「気に入ってくれたならよかった。ここは城下の中でも一番のお気に入りなんだ」

 そんな大切な所に連れてきて貰えたことに小さな喜びを感じる。

「そうなんですね……でも、確かに雰囲気がセドっぽく思います。大人な感じが」

「そうか?フィナに言われると嬉しいな」

 シンと暮らしていた場所はもっと賑やかだった気がする。比べてここは静かで、とても落ち着ける場所だ。

「ではフィナ。歩いて回ろうと思うが、何か気になる事や入ってみたい建物があれば直ぐに言ってくれ」

「わかりました」

 こうしてセドによる城下案内か始まった。セドが長らく治めてきた場所であるが故に凄く細かい所まで知っていた。
 セドは幼い頃、周りの目を盗んでは何度かシトさんと城下へ遊びに来たこともあるようだった。

 仲のよさが見えるエピソードに思わずほっこりした。

 一通り案内を終えると、広場の隅にあるベンチに腰を下ろした。

「学校生活は楽しいか、フィナ」

「えぇ、とても」

「それなら良かった」

 安堵の声色で微笑む反面、どこか寂しさも感じられた。その表情に心当たりがあり、申し訳なさが込み上げてくる。

「セド、その……あまり二人の時間が取れなくてすみません」

 学校内ではセドが配慮してくれたおかげか、不用意に近づくことはしなかった。適切な距離を保ってくれたことで周りから不思議な目を向けられることもなかった。

 だが、舞踊専攻の課題が多く自主練習を含めて、王城に戻ると練習室へこもることが自然と多くなってしまった。セドは気を遣って見守っていてくれたが、それが本心の一部でしかないことは感じている。

「気にするな。元々フィナはまだ、学ぶ歳だろう。留学生としての役目も果たそうと努力が見れる」

 私からすれば、自分は婚約者を放り出して舞踊に打ち込む人間だというのに、セドはいつも美化してくれる。

「それに、今日こうして二人で過ごせた」

 今度は心からの笑みが見られた。
 そう感じて、心が暖かくなる。

 ふと、気づいた。

 セドは私にこんなにもたくさん何かをしてくれているのに、自分は何もしてあげれていないと。

「……セド、何か願いはありませんか!」

「ど、どうしたフィナ」

「いえ、学校生活中は私のわがままにたくさん付き合っていただきました。なので、ここからはセドの番です」

「俺の?」

「はい。私が叶えられるものには限度がありますが、夏休みの間はセドが私をこき使ってください。振り回してくれて一向に構いません!」

「…………本当に、何でも?」

「もちろん!」

「それは……嬉しいな」

 深まるその笑みは、久しぶりにセドの雰囲気に妖艶さを重ねる。ぞくりと背筋が震えるほど美しくも妖しげな笑顔を見て、私は少し後悔した。




 



 そして夏休みに入ると、その後悔は正しいものとなる。
しおりを挟む
感想 298

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。