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二章

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  アンナと話が盛り上がっていると、教室の前の扉から一人の美しい女性が入ってきた。赤みがかった茶色い髪をなびかせ、整った顔は優しく微笑んだ。
 女性は教壇へ立つと、自己紹介を始める。

「まずは皆さん。舞踊学科への入学おめでとう。私は、皆さんの担任のジェシカよ。これからよろしくね」

 私がジェシカ先生からできる女性オーラを強く感じているなか、教室は騒然となっていた。
 どうやらジェシカ先生は、ついこの前まで現役だったゼロ国屈指の舞い手なんだとか。
 
「あの」

「あら。どうしたのかしら」

 一人の学生が発言の許可を求めた。

「ジェシカ様は現役であり、第一線で活動されていらっしゃいますよね。それなのに何故私たちのクラスへ……?」

 その疑問はほぼ全員が抱いていたようで、先生に再び視線が集まった。

「私もここの学校出身ということは皆さんご存知でしょう?卒業した今でこそ、度々教えるがわとして顔を出すのだけれど、その内にしっかりと教えたいって欲がでてきてしまってね。もう自分が満足いくくらい、自分の舞踊は極められたから少し何か違う道を考えた結果として、ここに立ってる」

 立ち姿から放たれるオーラは舞踊を極めたという言葉の説得力を大きく持った。

「そこで是非皆さんが成長する手伝いができたらと思ってね。……というわけでこれからよろしく」

 片目でウィンクしながら微笑む動作さえも優雅に見える。
 ジェシカ先生の答えが終わり「大丈夫かしら?」と周りを見渡すと、新たな話題へ移る。

「皆さんのことも知りたいから、簡単に自己紹介をお願いしようかしら」

 本当に簡単に、名前や出身等を一人ずつ話していった。貴族と平民の割合は半分くらいだった。私が留学生と告げた時か一番ざわついた時間だった。だが変な視線を感じることなく終えられた。 

「では、これからについて説明するわね」

 自己紹介を終えると、舞踊学科の今後の指導について話し始めた。

「さっそく今日は課題を出すわ。基礎の演目を一つ。この課題は皆さんが何を持っているのか私が直接見るためのものよ。だから、この課題は優劣を決めるのではなく自身を表現するものとして捉えてちょうだい」

 出された課題の演目は、ニナ先生に教わったことがあるものだった。
 演目【花、咲く日】:舞い手を夢見る少女がそのスタートラインに立ち、これからの将来に対して夢を見る感情を表現するという簡潔な題材。

「この演目は舞踊の基礎に含まれるから、必ず全員知ってるはず。だから、明日早速見せてもらうわ」

 授業のスタートは個人舞踊からという、少しハードルが高めなもので教室に緊張が走った。
 他には、2日後に必要なものや学園の規則についての確認をした。入学式ということもあり、本日はこれで解散となった。

「いきなり踊るとはね……」

「緊張するわね」

「しかも、あのジェシカ様の前よ!」

 アンナが様付けまでするのだから、ジェシカ先生は私が想像するよりもはるかに有名で実力がある方なのだろう。

「私人前で踊ることに関して緊張したことはないけど、ジェシカ様───ジェシカ先生の前なら話は別になるわ」

「アンナにとってジェシカ先生は憧れなのね」

「私だけではないわ。これから舞踊の道を歩む者にとって、ジェシカ先生の存在は偉大すぎるのよ」

 それからはジェシカ先生が如何に素晴らしいかアンナの熱弁が始まった。周りが教室を出ていくなか、私達は最後まで居続けた。
 アンナの話を要約すると、ジェシカ先生は専門学校を主席で卒業後、数々の賞を総なめにして、国内でヒットする舞台の主演を数多く務めたんだとか。ジェシカ先生の舞踊は唯一無二の繊細さから生まれる、誰にも真似できない美しさが持ち味らしい。

「そこまでアンナが言うのだもの。是非とも直接舞踊を見てみたいわ」

「見ないと損よ!!」

 最後の最後まで熱が引くことのないアンナの語りであった。

「って、そろそろ家に戻って練習しないとじゃない!」

「まだ午前だけど、明日に備えないとね」

「えぇ。それじゃあフィリシーナ、明日は頑張りましょう」

「もちろん。…では、また明日」

 別れた足でセドを探しに、舞台設計専攻の学生がいる建物へと向かう。



 




 セドは周りに馴染めているだろうか。
 
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