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俺じゃない男と
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俺はふいに口をひらきかけた彼女の隙を見逃さなかった。
彼女の白い顔を逃がさぬようしっかりと固定し素早く自身の口内に入れた液体を彼女の開きかけた口へ注ぎ込む。
ずっと想い焦がれていた彼女の柔らかな唇。それに触れて俺の頭にビリリと電流が走る。
次の瞬間にゴクっ、と彼女の喉が液体を体内に通過させる音が聞こえた。
☆☆☆☆☆
遡ること7年。15歳だった俺は住んでいた実家の近くに建つひまわり診療内科に通院していた。
その心療内科で重度のうつ病と診断された俺は抗うつ薬を処方されており、当時の俺はそのひどい副作用に悩まさ
れたものだった。症状は様々だったが1番嫌だったのはぶくぶくと太ってしまったことだ。あとは頭痛。
でも薬を飲まないと抑うつ状態だけでなくパニック発作を抑えることができない。
パニック発作の症状は人それぞれだが俺の場合は駅や電車、そのほか人通りの多い場所限定で原因不明の不安に襲われ、それこそ立っていることすらままならなくなる。
そんなわけで日常生活を送るために服用を続けるしかないのだと諦らめた俺は処方箋を貰うためにひまわり診療内科に2週間に1度の頻度で通院をしていた。
当時の受付スタッフが彼女だ。
とくに美人でもない。愛想がいいわけでもない。ただ彼女はいつでも「楽しそう」だった。
医者や他のスタッフに隠れて隙あらば漫画雑誌を読んでいたり、漫画が手元にないときは受付に置いてあるメモ用紙に落書きしたりしていた。
スタッフや他の患者は気付いていない様だったが俺にはバレバレだった。
診療内科で働いているくせに呑気なものだと最初は呆れていたが、気付くと彼女を見つめている自分がいた。彼女が受付にいない日はガッカリしている自分もいた。
もちろん俺が一方的に彼女を見つめているだけだったが、ある時点から彼女も俺の視線に気づいていることに俺は気付いた。彼女は自分が俺に見られていると分かると頬を赤らめてうつむいてしまう。
俺は心の中でガッツポーズをした。
今でこそうつ病で心療内科の患者である自分だが、元来俺は異性にモテるたちだ。
自分でこんなことを思うのが非常に寒いことなのは承知の上だが細面の中性的な顔立ちは異様に女にモテた。
また実際は内向的なだけだったのだが物静かな俺を「どこか影のあるイケメン」「ミステリアス」などと周囲が勝手に付加価値をつけてくれたので更にモテまくった。
小中とバレンタインデーは学年で1番チョコレートを貰っていたし俺のファンクラブなるものもあったらしい。
(まあそのせいで同性からはひどく陰湿ないじめに合うことになったのだがその話はおいおいするとする)
恰好付けるわけではないがそこまでチヤホヤされると欲しいものも欲しくなってしまい、俺は求められれば求められるほどそんな異性たちに「ドン引き」していた。
そうかそうか今まで必要としていなかった俺のモテ力を使うときがきたか!
俺の中のガッツポーズが止まらない。ニヤニヤも止まらなくて俺は受付の長椅子で口元をさりげなく自らの手で隠した。
「ではいつも通り2週間分のお薬をお出しします。お大事になさって下さい」
待合室で番号を呼ばれた俺に事務的に彼女は言った。肩のあたりで切りそろえた艶やかな黒い髪を揺らして俺に軽く頭を下げる。その顔から表情は読み取れなかったが完全に浮かれている俺はニヤつく顔を必死に隠すのが精いっぱいで口角を引き締めながらそっと彼女から処方箋を受け取った。
そして心療内科を後にすると彼女の勤務が終わるまで3時間ほど心療内科の地下にある駐車場の隅で立ち尽くしていた。
彼女が勤務後にこの地下駐車場に降りるのを何度も目撃していたからだ。
彼女は車通勤ではないが駐車場にはバイクや自転車を停めるスペースもあった。
彼女は自転車通勤だった。
恐らくハイに近い状態だったので待ち時間も苦痛ではなく、体感的にはすぐに彼女は出てきた。
ただし俺がよく知った男ともつれ合いながら。
彼女の白い顔を逃がさぬようしっかりと固定し素早く自身の口内に入れた液体を彼女の開きかけた口へ注ぎ込む。
ずっと想い焦がれていた彼女の柔らかな唇。それに触れて俺の頭にビリリと電流が走る。
次の瞬間にゴクっ、と彼女の喉が液体を体内に通過させる音が聞こえた。
☆☆☆☆☆
遡ること7年。15歳だった俺は住んでいた実家の近くに建つひまわり診療内科に通院していた。
その心療内科で重度のうつ病と診断された俺は抗うつ薬を処方されており、当時の俺はそのひどい副作用に悩まさ
れたものだった。症状は様々だったが1番嫌だったのはぶくぶくと太ってしまったことだ。あとは頭痛。
でも薬を飲まないと抑うつ状態だけでなくパニック発作を抑えることができない。
パニック発作の症状は人それぞれだが俺の場合は駅や電車、そのほか人通りの多い場所限定で原因不明の不安に襲われ、それこそ立っていることすらままならなくなる。
そんなわけで日常生活を送るために服用を続けるしかないのだと諦らめた俺は処方箋を貰うためにひまわり診療内科に2週間に1度の頻度で通院をしていた。
当時の受付スタッフが彼女だ。
とくに美人でもない。愛想がいいわけでもない。ただ彼女はいつでも「楽しそう」だった。
医者や他のスタッフに隠れて隙あらば漫画雑誌を読んでいたり、漫画が手元にないときは受付に置いてあるメモ用紙に落書きしたりしていた。
スタッフや他の患者は気付いていない様だったが俺にはバレバレだった。
診療内科で働いているくせに呑気なものだと最初は呆れていたが、気付くと彼女を見つめている自分がいた。彼女が受付にいない日はガッカリしている自分もいた。
もちろん俺が一方的に彼女を見つめているだけだったが、ある時点から彼女も俺の視線に気づいていることに俺は気付いた。彼女は自分が俺に見られていると分かると頬を赤らめてうつむいてしまう。
俺は心の中でガッツポーズをした。
今でこそうつ病で心療内科の患者である自分だが、元来俺は異性にモテるたちだ。
自分でこんなことを思うのが非常に寒いことなのは承知の上だが細面の中性的な顔立ちは異様に女にモテた。
また実際は内向的なだけだったのだが物静かな俺を「どこか影のあるイケメン」「ミステリアス」などと周囲が勝手に付加価値をつけてくれたので更にモテまくった。
小中とバレンタインデーは学年で1番チョコレートを貰っていたし俺のファンクラブなるものもあったらしい。
(まあそのせいで同性からはひどく陰湿ないじめに合うことになったのだがその話はおいおいするとする)
恰好付けるわけではないがそこまでチヤホヤされると欲しいものも欲しくなってしまい、俺は求められれば求められるほどそんな異性たちに「ドン引き」していた。
そうかそうか今まで必要としていなかった俺のモテ力を使うときがきたか!
俺の中のガッツポーズが止まらない。ニヤニヤも止まらなくて俺は受付の長椅子で口元をさりげなく自らの手で隠した。
「ではいつも通り2週間分のお薬をお出しします。お大事になさって下さい」
待合室で番号を呼ばれた俺に事務的に彼女は言った。肩のあたりで切りそろえた艶やかな黒い髪を揺らして俺に軽く頭を下げる。その顔から表情は読み取れなかったが完全に浮かれている俺はニヤつく顔を必死に隠すのが精いっぱいで口角を引き締めながらそっと彼女から処方箋を受け取った。
そして心療内科を後にすると彼女の勤務が終わるまで3時間ほど心療内科の地下にある駐車場の隅で立ち尽くしていた。
彼女が勤務後にこの地下駐車場に降りるのを何度も目撃していたからだ。
彼女は車通勤ではないが駐車場にはバイクや自転車を停めるスペースもあった。
彼女は自転車通勤だった。
恐らくハイに近い状態だったので待ち時間も苦痛ではなく、体感的にはすぐに彼女は出てきた。
ただし俺がよく知った男ともつれ合いながら。
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