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同棲の始まり
人魚の提案
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深夜0時。
フィンに言われたとおり、ルカは海岸の岩場に足を運んでいた。
灯台の対岸にあるこの岩場は薄暗く、ひと気もまるでない。
ただ波の音だけが響く、不気味な程、静かな海岸だった。
ルカは月明かりを頼りに、ゴツゴツした岩場に足元を気をつけながら、真っ黒な海へと近づいて行く。
不意に。
ぽちゃんと水音がしたのでそちらへルカが顔を向ければ、海面からフィンが顔を出していた。
海で泳ぐフィンを見て、「やっぱり人魚なのか」とルカは今更ながら思ったりした。
やがて、ルカが佇む大きな一枚岩に、フィンが両腕をつく。
派手な水音とともに海面からフィンの上半身が持ち上がると、そのまま岩場に腰をかける格好になった。
人魚の尾ひれが海面に漂う。
「――ルカ。答えは決まったか?」
青い瞳が真っ直ぐにルカを射抜いた。
ルカはしばらく黙ったままフィンを見つめていたが、ようやく息をつくと。
「・・・正直、どうしたらいいか、わからねぇ。――けど、死ぬのは怖い。」
「オレといれば、お前は死なない。」
あっさりと返答されて、ルカは苦笑する。
「お前と生きるのも、何か怖ぇよ。オレ、お前の事、何も知らねぇし。」
「これから知ればいい。オレもお前の事をもっと知りたい。」
「はは。何だ、それ。」
――口説き文句かよ。
笑った拍子に、目尻から涙が零れた。
頬を伝う透明な雫に、フィンが首を傾げる。
「――何で泣く?」
「・・・知るかよ。」
自然と涙が溢れ出る。
自分が既に死んでいたという絶望。
そして今、こうして生かされている事に対しての不安。
生への執着や、死への恐怖。
全てがごちゃごちゃになって、ルカの胸をかき乱す。
抑えきれない感情が、零れ落ちていくように。
すると、フィンの腕が伸び、ルカの手をぐっと掴む。
そのまま力任せに引き寄せられ、ルカはペタンと岩場に両膝をつく格好になった。
二人の距離が一気に縮まると、フィンはルカの顔へ手を添えて、舌先でぺろりとその涙を舐めた。
「・・・ちょっ!何、すんだっっ?!」
「しょっぱいな。」
「はぁ?人魚は違うのか?」
「さぁ?舐めた事なんかないから、わからない。」
「――そういや、人魚の涙って、宝石になるんだっけか?」
「なるわけないだろ。どこのバカだ?そんな事を言うのは?」
「何だよ、またデマか。」
ルカは泣き濡れたまま、小さく笑う。
――やっぱ、悪いヤツには見えねぇよな。
澄んだ青い瞳を持つ目の前の人魚を、ルカはどうにも憎めなかった。
「・・・悪かった。今朝は、お前に酷い事を言った。お前は――オレを助けてくれたのに。」
“ありがとう”と。
ルカの小さな声が、波音にさらわれて。
伏せた瞳からまた涙が落ちるのを、フィンはじっと見つめていた。
「――ルカ。死を怖がるお前の気持ちは、オレにもどうにもしてやれない。でも、お前が生きたいと願うなら、オレが生かしてやる。何も怖い事はない。」
「・・・そういう単純な話じゃねぇんだよ。さっきも言ったけど、オレはお前の事だって、何にも知らねぇんだ。そんなヤツに、身体を差し出すマネなんかできるかよ。」
フィンの事は、悪いヤツではないとは思う。
けれど、ちょっとやそっと会っただけでは、簡単に信用できるものでもないのだ。
すると、そんなルカの顔をフィンが覗き込んだ。
「生きたくはないのか?」
「・・・そりゃ、死にたくはないけど。」
率直な気持ちを口にしたルカに、フィンは「わかった」と頷いて見せて。
「なら、一つ提案がある。これから七日間、オレはお前とずっと一緒にいる。その間にお前はオレを知ればいい。」
「ずっとって・・・。どうやって?」
「昼も夜も一緒にいるには、オレがお前の部屋に住むしかないな。」
――はぁぁ??!
フィンに言われたとおり、ルカは海岸の岩場に足を運んでいた。
灯台の対岸にあるこの岩場は薄暗く、ひと気もまるでない。
ただ波の音だけが響く、不気味な程、静かな海岸だった。
ルカは月明かりを頼りに、ゴツゴツした岩場に足元を気をつけながら、真っ黒な海へと近づいて行く。
不意に。
ぽちゃんと水音がしたのでそちらへルカが顔を向ければ、海面からフィンが顔を出していた。
海で泳ぐフィンを見て、「やっぱり人魚なのか」とルカは今更ながら思ったりした。
やがて、ルカが佇む大きな一枚岩に、フィンが両腕をつく。
派手な水音とともに海面からフィンの上半身が持ち上がると、そのまま岩場に腰をかける格好になった。
人魚の尾ひれが海面に漂う。
「――ルカ。答えは決まったか?」
青い瞳が真っ直ぐにルカを射抜いた。
ルカはしばらく黙ったままフィンを見つめていたが、ようやく息をつくと。
「・・・正直、どうしたらいいか、わからねぇ。――けど、死ぬのは怖い。」
「オレといれば、お前は死なない。」
あっさりと返答されて、ルカは苦笑する。
「お前と生きるのも、何か怖ぇよ。オレ、お前の事、何も知らねぇし。」
「これから知ればいい。オレもお前の事をもっと知りたい。」
「はは。何だ、それ。」
――口説き文句かよ。
笑った拍子に、目尻から涙が零れた。
頬を伝う透明な雫に、フィンが首を傾げる。
「――何で泣く?」
「・・・知るかよ。」
自然と涙が溢れ出る。
自分が既に死んでいたという絶望。
そして今、こうして生かされている事に対しての不安。
生への執着や、死への恐怖。
全てがごちゃごちゃになって、ルカの胸をかき乱す。
抑えきれない感情が、零れ落ちていくように。
すると、フィンの腕が伸び、ルカの手をぐっと掴む。
そのまま力任せに引き寄せられ、ルカはペタンと岩場に両膝をつく格好になった。
二人の距離が一気に縮まると、フィンはルカの顔へ手を添えて、舌先でぺろりとその涙を舐めた。
「・・・ちょっ!何、すんだっっ?!」
「しょっぱいな。」
「はぁ?人魚は違うのか?」
「さぁ?舐めた事なんかないから、わからない。」
「――そういや、人魚の涙って、宝石になるんだっけか?」
「なるわけないだろ。どこのバカだ?そんな事を言うのは?」
「何だよ、またデマか。」
ルカは泣き濡れたまま、小さく笑う。
――やっぱ、悪いヤツには見えねぇよな。
澄んだ青い瞳を持つ目の前の人魚を、ルカはどうにも憎めなかった。
「・・・悪かった。今朝は、お前に酷い事を言った。お前は――オレを助けてくれたのに。」
“ありがとう”と。
ルカの小さな声が、波音にさらわれて。
伏せた瞳からまた涙が落ちるのを、フィンはじっと見つめていた。
「――ルカ。死を怖がるお前の気持ちは、オレにもどうにもしてやれない。でも、お前が生きたいと願うなら、オレが生かしてやる。何も怖い事はない。」
「・・・そういう単純な話じゃねぇんだよ。さっきも言ったけど、オレはお前の事だって、何にも知らねぇんだ。そんなヤツに、身体を差し出すマネなんかできるかよ。」
フィンの事は、悪いヤツではないとは思う。
けれど、ちょっとやそっと会っただけでは、簡単に信用できるものでもないのだ。
すると、そんなルカの顔をフィンが覗き込んだ。
「生きたくはないのか?」
「・・・そりゃ、死にたくはないけど。」
率直な気持ちを口にしたルカに、フィンは「わかった」と頷いて見せて。
「なら、一つ提案がある。これから七日間、オレはお前とずっと一緒にいる。その間にお前はオレを知ればいい。」
「ずっとって・・・。どうやって?」
「昼も夜も一緒にいるには、オレがお前の部屋に住むしかないな。」
――はぁぁ??!
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