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同棲の始まり
海の主の憂え
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暗い暗い海の底。
人魚の姿に戻ったフィンは、再び、海の主のもとを訪れた。
「あの人間には会えたのかい?」
海の主がそう尋ねれば、フィンは首を縦に下ろす。
何だか少し浮かない顔をしているようで、海の主は気になってフィンに何があったのか話すよう促してみると。
「ルカに正体がバレた。」
あっさりと白状したフィンに、海の主はぎょっと目を剥いた。
人間に人魚の存在がバレるとロクな事がないのだが。
海の平和を護る立場のものとしては、胃が痛い状況である。
「ルカ?それはあの人間の名前だね?正体がバレて、それでお前はどうしたんだい?」
「全部、話した。」
「それで?」
続きを促せば、フィンの目が拗ねたように逸らされて。
「・・・怒っていた。」
「そうかい。その人間は、お前を捕まえようとはしなかったのかい?」
「ルカはそんな事はしない。」
「おやおや、ずいぶんと信用しているんだね。でも用心するに越した事はない。充分に気をつけるんだよ?」
その言葉には、フィンも素直に頷いた。
そうして、ややあってから遙がまた口を開く。
「オレは、ルカに悪い事をしたのか?」
そう尋ねてくるフィンに、海の主は苦笑した。
「さぁ、どうかね。物事の善悪は、簡単には説明のつかない事もある。お前があの人間を善意で助けてやったんだとしても、あの人間にとっては、それが善意と受け取れない事もあるかもしれない。何より、お前はあの人間の運命を変えてしまったからね。」
消えるはずだった命を、七日間だけ蘇らせる人魚の力。
人魚に生かされる事をどう思うのか。
それは、人間次第である。
「お前は、その人間をどうするつもりなんだい?」
殺すのか、殺さないのか。
正体がバレてしまったのなら、安全を期して殺しておく方がいいかもしれない。
海の主がそう思っていると、フィンの応えは。
「どうもしない。オレは、ルカに従うと約束した。」
予想外の返答に海の主が目を瞬いていると、ルカは続けた。
「最初にルカを生き返らせてしまったのは、オレの勝手だ。だから、今度はルカの好きにさせる。アイツの運命だから、アイツが決めればいい。」
「つまり、その人間自身に自分の生死を選ばせるのかい?」
酷な事を、と海の主は思う。
確かにフィンにとっては、それが最善策なのだろう。
けれども、その人間にとってはどうか。
生と死のどちらか好きな方をと言われて、簡単に死を選べる者などいない。
一度、蘇って、生きる事の喜びを噛み締めたのなら、尚更。
――やはり、可哀想な事をしたかもしれないね。
その人間も、あの晩、ちゃんと死んでいたら、こんなに悩むことはなかっただろうに。
とはいえ、おおよそこうなる事がわかっていながら、人間を生き返らせる方法をフィンに教えたのは海の主である。
その人間には気の毒だとは思うが、フィンに気に入られてしまったのが運の尽きだと諦めてもらうしかないと、苦笑するに留まった。
人魚の姿に戻ったフィンは、再び、海の主のもとを訪れた。
「あの人間には会えたのかい?」
海の主がそう尋ねれば、フィンは首を縦に下ろす。
何だか少し浮かない顔をしているようで、海の主は気になってフィンに何があったのか話すよう促してみると。
「ルカに正体がバレた。」
あっさりと白状したフィンに、海の主はぎょっと目を剥いた。
人間に人魚の存在がバレるとロクな事がないのだが。
海の平和を護る立場のものとしては、胃が痛い状況である。
「ルカ?それはあの人間の名前だね?正体がバレて、それでお前はどうしたんだい?」
「全部、話した。」
「それで?」
続きを促せば、フィンの目が拗ねたように逸らされて。
「・・・怒っていた。」
「そうかい。その人間は、お前を捕まえようとはしなかったのかい?」
「ルカはそんな事はしない。」
「おやおや、ずいぶんと信用しているんだね。でも用心するに越した事はない。充分に気をつけるんだよ?」
その言葉には、フィンも素直に頷いた。
そうして、ややあってから遙がまた口を開く。
「オレは、ルカに悪い事をしたのか?」
そう尋ねてくるフィンに、海の主は苦笑した。
「さぁ、どうかね。物事の善悪は、簡単には説明のつかない事もある。お前があの人間を善意で助けてやったんだとしても、あの人間にとっては、それが善意と受け取れない事もあるかもしれない。何より、お前はあの人間の運命を変えてしまったからね。」
消えるはずだった命を、七日間だけ蘇らせる人魚の力。
人魚に生かされる事をどう思うのか。
それは、人間次第である。
「お前は、その人間をどうするつもりなんだい?」
殺すのか、殺さないのか。
正体がバレてしまったのなら、安全を期して殺しておく方がいいかもしれない。
海の主がそう思っていると、フィンの応えは。
「どうもしない。オレは、ルカに従うと約束した。」
予想外の返答に海の主が目を瞬いていると、ルカは続けた。
「最初にルカを生き返らせてしまったのは、オレの勝手だ。だから、今度はルカの好きにさせる。アイツの運命だから、アイツが決めればいい。」
「つまり、その人間自身に自分の生死を選ばせるのかい?」
酷な事を、と海の主は思う。
確かにフィンにとっては、それが最善策なのだろう。
けれども、その人間にとってはどうか。
生と死のどちらか好きな方をと言われて、簡単に死を選べる者などいない。
一度、蘇って、生きる事の喜びを噛み締めたのなら、尚更。
――やはり、可哀想な事をしたかもしれないね。
その人間も、あの晩、ちゃんと死んでいたら、こんなに悩むことはなかっただろうに。
とはいえ、おおよそこうなる事がわかっていながら、人間を生き返らせる方法をフィンに教えたのは海の主である。
その人間には気の毒だとは思うが、フィンに気に入られてしまったのが運の尽きだと諦めてもらうしかないと、苦笑するに留まった。
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