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同棲の始まり
決死のダイブ
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そうして。
ルカは、唇をぎゅっと噛み締めた。
次に大きな爆発が起こったら、もうこのテラスごと、下に落ちるかもしれない。
そうでなくとも、そこまで迫った炎が身体を焼き尽くすかも。
そのどちらでもなかったとしても、この出血量ではもう。
「・・・爆死に、焼死に、失血死って・・・。どれも何か――」
“嫌だな”と、ルカはそう思った。
そもそも、良い死に方なんてものがあるのかどうかも不明だが。
とにかく、今は炎の熱で肺まで熱い。
せめて、冷たい水でも一杯飲みたいな、などとそんな事をもうよく働かない頭でぼんやりと考えた時。
テラスの手すりの隙間から、月明かりに照らされてキラキラと光る海面が見えた。
「・・・海・・・か。」
唐突に、もう一度泳ぎたかったと、そんな思いがルカの頭を掠めた。
子供の頃から泳ぐのは好きだったのだ。
父が海で死に、いつの頃からか、泳ぐのはもうやめてしまったけれど。
――今、海に飛び込んだら、気持ちいいかもな。
真っ黒な夜の海に飛び込んだところで、最早、助かる事のない命である。
それでも、ほんの一時でも身体を焼くような熱や炎から解放されるなら。
そう思ったら、思わず、ルカはテラスの手すりに足をかけて。
そのまま一気に、はるか下の暗黒の海へとダイブした。
ザブンという水音を聞いた瞬間、ルカの意識は急激に遠ざかる。
最後に脳裏を掠めたのは、遠い昔、いつか聞いた人魚の伝説の一つ。
――そういや、人魚って人間を喰うんだっけ・・・。
一方、海上では。
ぽちゃんと水音を立てて、人魚が水面に顔を出していた。
フィンである。
崖の上に立つ屋敷が、激しい炎で燃え盛るその様子をフィンは興味深げに見ていた。
赤く燃える炎は、海の世界にはないものだ。
決して触れてはならないという危険なものだとはわかっていても、それを見るのをフィンは好きだった。
もう少し近くで見たいと岸へ向けて深い海の中を泳いでいると、海面から何かがゆらゆらと沈んでくるのに気がついた。
何かと思ってそっちへ泳いでみれば、それは。
――赤い髪の人間・・・。
炎と同じ色の髪だと、フィンは珍しそうにその人間の身体を引き寄せた。
海流に血の匂いが混じっている。
見れば、その人間から大量に血が流れ出ているのをフィンは気付いた。
これはもう助からない。
「お前、死ぬのか。」
――こんなに綺麗な“赤”なのに。
フィンは、その赤い髪の人間の顔をじっと見つめ、やがて、その薄く開かれた唇にそっと口づけした。
ルカは、唇をぎゅっと噛み締めた。
次に大きな爆発が起こったら、もうこのテラスごと、下に落ちるかもしれない。
そうでなくとも、そこまで迫った炎が身体を焼き尽くすかも。
そのどちらでもなかったとしても、この出血量ではもう。
「・・・爆死に、焼死に、失血死って・・・。どれも何か――」
“嫌だな”と、ルカはそう思った。
そもそも、良い死に方なんてものがあるのかどうかも不明だが。
とにかく、今は炎の熱で肺まで熱い。
せめて、冷たい水でも一杯飲みたいな、などとそんな事をもうよく働かない頭でぼんやりと考えた時。
テラスの手すりの隙間から、月明かりに照らされてキラキラと光る海面が見えた。
「・・・海・・・か。」
唐突に、もう一度泳ぎたかったと、そんな思いがルカの頭を掠めた。
子供の頃から泳ぐのは好きだったのだ。
父が海で死に、いつの頃からか、泳ぐのはもうやめてしまったけれど。
――今、海に飛び込んだら、気持ちいいかもな。
真っ黒な夜の海に飛び込んだところで、最早、助かる事のない命である。
それでも、ほんの一時でも身体を焼くような熱や炎から解放されるなら。
そう思ったら、思わず、ルカはテラスの手すりに足をかけて。
そのまま一気に、はるか下の暗黒の海へとダイブした。
ザブンという水音を聞いた瞬間、ルカの意識は急激に遠ざかる。
最後に脳裏を掠めたのは、遠い昔、いつか聞いた人魚の伝説の一つ。
――そういや、人魚って人間を喰うんだっけ・・・。
一方、海上では。
ぽちゃんと水音を立てて、人魚が水面に顔を出していた。
フィンである。
崖の上に立つ屋敷が、激しい炎で燃え盛るその様子をフィンは興味深げに見ていた。
赤く燃える炎は、海の世界にはないものだ。
決して触れてはならないという危険なものだとはわかっていても、それを見るのをフィンは好きだった。
もう少し近くで見たいと岸へ向けて深い海の中を泳いでいると、海面から何かがゆらゆらと沈んでくるのに気がついた。
何かと思ってそっちへ泳いでみれば、それは。
――赤い髪の人間・・・。
炎と同じ色の髪だと、フィンは珍しそうにその人間の身体を引き寄せた。
海流に血の匂いが混じっている。
見れば、その人間から大量に血が流れ出ているのをフィンは気付いた。
これはもう助からない。
「お前、死ぬのか。」
――こんなに綺麗な“赤”なのに。
フィンは、その赤い髪の人間の顔をじっと見つめ、やがて、その薄く開かれた唇にそっと口づけした。
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