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同棲の始まり
プロローグ
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昔から、人魚の血肉を食べれば、永遠の命を得られるという伝説がある。
過去には、そんな眉唾ものの伝説を信じて、実際に人魚狩りが行われていたという話もあるのだから、人間とは何と強欲な生き物なのか。
そもそも、人魚が本当に実在するかどうかもわからないのに。
人魚の歌声は、人を惑わせるとか。
人魚の涙は、宝石になるとか。
人魚のキスは、人の命を奪うとか。
人魚には様々な伝説があったが、人魚なんて所詮、人間の想像上の生き物で、実しやかに伝わるその伝説も、人間の都合のいい作り話であると。
さすがに文明社会が発達した現代となっては、多くの人間がそう思っていた。
けれど、ルカは幼い頃、父から海で人魚を見たという話を聞いた事があった。
誰にも内緒だと、父がこっそり教えてくれたのだ。
嵐の海の中、漁をしていた時、ほんの一瞬だけ人魚を目撃したのだと。
それはとても美しかったと、父は嬉しそうに聞かせてくれた。
しかし、それからまもなくの事。
ルカの父は、漁に出たきり帰って来ることはなかった。
ルカは父から聞いた人魚の話を誰にもする事はなかったが、その時、子供ながらに思ったものだ。
父はきっと、人魚の歌声に惑わされてしまったのだろうと。
「――おい、ルカ。何、ボケっとしてんだ。勤務中だぞ。」
海辺に停車中のパトカーの窓からのんびり海を眺めていたルカの頭を、同僚のショーンが帽子で叩いた。
「・・・おぅ、ショーン。聞き込み、終わったか?」
ニカっと歯を見せてルカが笑えば、ショーンは苦笑して。
次には真面目な顔を作ると、捜査内容をルカへと報告した。
「とりあえず、やっぱあの屋敷の持ち主はクロで間違いなさそうだ。」
「・・・そっか。って事は、あそこをマフィアの活動拠点にするっていうネタは、ガセじゃねぇんだな。」
ルカはそう言うと、鬱陶しげに赤い髪をかき上げた。
ルカが暮らすこの海辺の小さな町には、最近、外からマフィアの手が伸びて来ており、市民の平和な生活が乱される危険が迫っていた。
先日も、あるマフィアがこの町へ進出するための足がかりとして、崖の上に立つ豪邸を買い上げたという情報が入っていたのだ。
その情報を元に、今、ルカはショーンとともに捜査をしている途中だった。
「どうする?州警察の応援を頼んでもいいが――」
思案するショーンを前に、ルカはその瞳を僅かに伏せて。
「――いや。まだ本格的に奴らが乗り込んできたワケでもねぇし。オレ達だけで未然に防げるなら、その方がいいだろ?」
「まぁ、それはそうだが。」
「とりあえず、上にだけ報告はして。今夜にでも、オレ達で行ってみねぇか?そのお屋敷に。」
悪戯を思いついたようなそのルカの笑顔には、ショーンも困ったように微笑むしかない。
ルカの出した提案は結構な危険が伴うのだが、それでも二人ならやってやれない事はないと、ショーンもそう思った。
「まぁ、今のところ、屋敷に出入りしているのは少人数だしな。」
「オレとショーンなら、何とかなるって。お前、銃の腕、オレよりスゲーし。」
おだてられれば、悪い気はしない。
そもそもショーンもルカの提案に乗る気はあったので、にっこりと頷いてやった。
「じゃあ、今夜はまず、様子見からな。ただし、オレ達で手に負えそうもなかったら、とっとと撤退する。いいな?」
「OK!」
ルカがそうウインクして。
ショーンもパトカーに乗り込んだ。
ルカとショーンは警察官として、今まで幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた名コンビである。
今回は、マフィアが相手と言えども、たかが少人数。
いつもどおり何とかなるとなると思っていた。
ルカもショーンも、この時までは――。
過去には、そんな眉唾ものの伝説を信じて、実際に人魚狩りが行われていたという話もあるのだから、人間とは何と強欲な生き物なのか。
そもそも、人魚が本当に実在するかどうかもわからないのに。
人魚の歌声は、人を惑わせるとか。
人魚の涙は、宝石になるとか。
人魚のキスは、人の命を奪うとか。
人魚には様々な伝説があったが、人魚なんて所詮、人間の想像上の生き物で、実しやかに伝わるその伝説も、人間の都合のいい作り話であると。
さすがに文明社会が発達した現代となっては、多くの人間がそう思っていた。
けれど、ルカは幼い頃、父から海で人魚を見たという話を聞いた事があった。
誰にも内緒だと、父がこっそり教えてくれたのだ。
嵐の海の中、漁をしていた時、ほんの一瞬だけ人魚を目撃したのだと。
それはとても美しかったと、父は嬉しそうに聞かせてくれた。
しかし、それからまもなくの事。
ルカの父は、漁に出たきり帰って来ることはなかった。
ルカは父から聞いた人魚の話を誰にもする事はなかったが、その時、子供ながらに思ったものだ。
父はきっと、人魚の歌声に惑わされてしまったのだろうと。
「――おい、ルカ。何、ボケっとしてんだ。勤務中だぞ。」
海辺に停車中のパトカーの窓からのんびり海を眺めていたルカの頭を、同僚のショーンが帽子で叩いた。
「・・・おぅ、ショーン。聞き込み、終わったか?」
ニカっと歯を見せてルカが笑えば、ショーンは苦笑して。
次には真面目な顔を作ると、捜査内容をルカへと報告した。
「とりあえず、やっぱあの屋敷の持ち主はクロで間違いなさそうだ。」
「・・・そっか。って事は、あそこをマフィアの活動拠点にするっていうネタは、ガセじゃねぇんだな。」
ルカはそう言うと、鬱陶しげに赤い髪をかき上げた。
ルカが暮らすこの海辺の小さな町には、最近、外からマフィアの手が伸びて来ており、市民の平和な生活が乱される危険が迫っていた。
先日も、あるマフィアがこの町へ進出するための足がかりとして、崖の上に立つ豪邸を買い上げたという情報が入っていたのだ。
その情報を元に、今、ルカはショーンとともに捜査をしている途中だった。
「どうする?州警察の応援を頼んでもいいが――」
思案するショーンを前に、ルカはその瞳を僅かに伏せて。
「――いや。まだ本格的に奴らが乗り込んできたワケでもねぇし。オレ達だけで未然に防げるなら、その方がいいだろ?」
「まぁ、それはそうだが。」
「とりあえず、上にだけ報告はして。今夜にでも、オレ達で行ってみねぇか?そのお屋敷に。」
悪戯を思いついたようなそのルカの笑顔には、ショーンも困ったように微笑むしかない。
ルカの出した提案は結構な危険が伴うのだが、それでも二人ならやってやれない事はないと、ショーンもそう思った。
「まぁ、今のところ、屋敷に出入りしているのは少人数だしな。」
「オレとショーンなら、何とかなるって。お前、銃の腕、オレよりスゲーし。」
おだてられれば、悪い気はしない。
そもそもショーンもルカの提案に乗る気はあったので、にっこりと頷いてやった。
「じゃあ、今夜はまず、様子見からな。ただし、オレ達で手に負えそうもなかったら、とっとと撤退する。いいな?」
「OK!」
ルカがそうウインクして。
ショーンもパトカーに乗り込んだ。
ルカとショーンは警察官として、今まで幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた名コンビである。
今回は、マフィアが相手と言えども、たかが少人数。
いつもどおり何とかなるとなると思っていた。
ルカもショーンも、この時までは――。
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