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第五十二話 どうしよう
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「そのへんにしておけ」
オージが、ユーヤを後ろから羽交い締めにした。ユーヤは泣きながら「わああああっ」と暴れて、「リュードーが、リュードーが!」と叫んでいる。力ずくで隼人の上からどかされて、せめて自由になる足で、隼人をぼかぼか蹴り飛ばした。
隼人はようやく終わりが見えたこの凶行の隙を逃せず、痛む体をおして身を起こした。ズボンを上げて、ふらふらと教室を出ようとする。目眩がして、まっすぐに歩けない。汚いものを避けるように、生徒たちが避けた。
何とか扉まで来たが、そこで一瞬、力尽きて、隼人は扉の枠に身を預ける。ぜえぜえと息を吐いた。痛い、熱い――それでも、体の奥にある恐怖が、F組へ向かわせていた。
何とか教室から出ようとして、ちょうど室内を隼人は振り返った。
嘲笑するマオ、笑いながらスマホをいじるヒロイさん、遠くを見ているケン。
「わああああ!」
「大丈夫だ、ユーヤ」
泣きわめくユーヤと、あやすオージ。そして、自分を深い嫌悪と軽蔑の目で見る――マリヤさん。
マリヤさんは隼人と目が合うと、化け物を見るように身を震わせ、さっと目をそらした。
呆然と、隼人は廊下に立ち尽くしていた。
チャイムが鳴る。もうすぐ、ホームルームが始まるから、廊下を行く生徒たちは、遅刻組しかいない。
今から、F組に……ぼんやりと隼人は身を動かしたが、不意に自分の姿を見下ろした。
しわくちゃの制服は、薄汚れて、ところどころ血が散っていた。顔にふれてみれば、鼻血と、口元も怪我しているようだ。あちこち熱を持って、もうわからないと思ってたのに触れたら、びりっと痛みが走った。涙の跡がひきつる。
こんなところ、見られたくない。
涙をこらえて、隼人はふらふらと外へ向かった。龍堂に会いたい。会って話したい。でも。
『リュードーだってきめえって言ってたんだからな』
ユーヤの言葉に、マリヤさんの嫌悪の目。それが龍堂の声と眼差しになる。
そんなはずない。けれど。
ひっ、と嗚咽が漏れる。
会いたい。けれど。
「どうしたらいいの……?」
隼人は何とか中庭に転がり出て、影にうずくまった。
ずっと大切に書いてきたハヤトロク。受け入れられがたいものだとは、何となくわかっていた。けれど、ここまで嫌悪されるとは思っていなかった。
勝手にモデルにしたことはよくなかったのかもしれない。けれど。ずたずたに踏み荒らされた心が痛かった。
けれど、龍堂にだけは別だった。
「怖い……」
龍堂と親友で、誰より理解し合っている。そんな話を書いていた自分を、知られるのが心底怖かった。
絶対に気持ち悪いと思われる――気持ち悪いと思われることが辛いんじゃない。龍堂に思われることが辛いのだ。
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
謝りたい。でも、許されないかもしれない。
自己弁護。でも、心の底から、怖かった。
オージが、ユーヤを後ろから羽交い締めにした。ユーヤは泣きながら「わああああっ」と暴れて、「リュードーが、リュードーが!」と叫んでいる。力ずくで隼人の上からどかされて、せめて自由になる足で、隼人をぼかぼか蹴り飛ばした。
隼人はようやく終わりが見えたこの凶行の隙を逃せず、痛む体をおして身を起こした。ズボンを上げて、ふらふらと教室を出ようとする。目眩がして、まっすぐに歩けない。汚いものを避けるように、生徒たちが避けた。
何とか扉まで来たが、そこで一瞬、力尽きて、隼人は扉の枠に身を預ける。ぜえぜえと息を吐いた。痛い、熱い――それでも、体の奥にある恐怖が、F組へ向かわせていた。
何とか教室から出ようとして、ちょうど室内を隼人は振り返った。
嘲笑するマオ、笑いながらスマホをいじるヒロイさん、遠くを見ているケン。
「わああああ!」
「大丈夫だ、ユーヤ」
泣きわめくユーヤと、あやすオージ。そして、自分を深い嫌悪と軽蔑の目で見る――マリヤさん。
マリヤさんは隼人と目が合うと、化け物を見るように身を震わせ、さっと目をそらした。
呆然と、隼人は廊下に立ち尽くしていた。
チャイムが鳴る。もうすぐ、ホームルームが始まるから、廊下を行く生徒たちは、遅刻組しかいない。
今から、F組に……ぼんやりと隼人は身を動かしたが、不意に自分の姿を見下ろした。
しわくちゃの制服は、薄汚れて、ところどころ血が散っていた。顔にふれてみれば、鼻血と、口元も怪我しているようだ。あちこち熱を持って、もうわからないと思ってたのに触れたら、びりっと痛みが走った。涙の跡がひきつる。
こんなところ、見られたくない。
涙をこらえて、隼人はふらふらと外へ向かった。龍堂に会いたい。会って話したい。でも。
『リュードーだってきめえって言ってたんだからな』
ユーヤの言葉に、マリヤさんの嫌悪の目。それが龍堂の声と眼差しになる。
そんなはずない。けれど。
ひっ、と嗚咽が漏れる。
会いたい。けれど。
「どうしたらいいの……?」
隼人は何とか中庭に転がり出て、影にうずくまった。
ずっと大切に書いてきたハヤトロク。受け入れられがたいものだとは、何となくわかっていた。けれど、ここまで嫌悪されるとは思っていなかった。
勝手にモデルにしたことはよくなかったのかもしれない。けれど。ずたずたに踏み荒らされた心が痛かった。
けれど、龍堂にだけは別だった。
「怖い……」
龍堂と親友で、誰より理解し合っている。そんな話を書いていた自分を、知られるのが心底怖かった。
絶対に気持ち悪いと思われる――気持ち悪いと思われることが辛いんじゃない。龍堂に思われることが辛いのだ。
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
謝りたい。でも、許されないかもしれない。
自己弁護。でも、心の底から、怖かった。
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