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第四十六話 仲直りのあとで
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ユーヤとオージが仲直りした。
そのことを、隼人は自分の目でも、目の前で今話しているマリヤさんからも確認していた。
ユーヤはどうやら、夏バテと寝不足、精神的なものだったらしく、オージと仲直りし、午後ゆっくり休んで回復したのだった。
「でもオージくん、心配だからユーヤくんと帰るって……約束なくなっちゃったの」
今日は、一緒にクレープを食べに行く約束をしていたらしい。オージからの誘いで、嬉しかったのに、とマリヤさんは悲しげに目を伏せた。
「もちろん、具合が悪いなら仕方ないけど……ユーヤくん、私のこと『じゃあおつかれ』って、馬鹿にしたみたいに。私、心配してたのに」
「それは……つらかったね」
隼人はほうきを手に、少し遠い目をした。
『オージ、オージ』と肩に掴まって教室を出ていくユーヤ。ついでに尻を蹴飛ばされたので、何となく気持ちはわかる。
「隼人くんは庇ってもらってたよね? 私、『悪い』って言われたきりなんだよ?」
同調すると、マリヤさんにムッと言い返されて隼人は黙り込む。
『ユーヤ、よせ』
たしかに蹴っ飛ばされた時、オージがユーヤを止めてくれたのだった。
無論、オージはユーヤが行き過ぎるといつも止めるのだが、久しぶりだったことと、先の謝罪があったので、より鮮明に残ったのだ。
ユーヤは怒って出ていったが、追いかけたオージを拒絶はしなかった。
本当に二人は仲直りしたんだなあ、としみじみ思う。
「二人が仲直りしたこと、よかったとは思うよ。でも……正直、私、ユーヤくんのこと許せてないの。だってオージ君にあんな酷いこと……」
マリヤさんが悔しそうに唇を歪めた。強い目で隼人を睨むと、はあ、と顔をそらし息をついた。
「でも、オージくんはそれでいいんだよね。……私の心配って、何なんだろう。私を大切にしてくれる人、本当にいないの」
「そんなことないよ」
「やめて。わかってるから」
マリヤさんの落ち込みは激しい。何とか励まそうと試みるが、気分は持ち上がりそうになかった。
そりゃそうだよな、と隼人は思う。マリヤさんが欲しいのは、オージの励ましなのだ。他の誰かではいけない。
「ごめんね、うざいよね」
「ううん。聞くくらいしかできないけど」
「うん……」
マリヤさんが、自嘲気味に笑ったとき、教室の扉があいた。
「何これ? 何で誰もいないの?」
早川先生だった。教室掃除のチェックに来たらしい。掃除をしているのが、隼人以外にいないことに気づき、目くじらを立てる。マリヤさんは、身を縮めるとおもむろに立ち上がり、隼人から離れた。なんでもない風に窓へ向かう。
「中条くん、どういうこと?」
「えっと、皆忙しいみたいで」
「それで帰したの? 掃除は義務だよ? 何で君が決めるの? ちゃんとまとめないと駄目だよね?」
「すみません」
早川先生は苛々したように、持っていたボールペンで柱をコツコツ叩いた。はあ、と長く息をつくと、「仕方ないなあ」と言葉をついだ。
「君だけでいいから来て。今から用具を運ぶから」
「あっ、はい」
隼人は早川先生のもとへ駆け寄る。しかし、早川先生は、隼人に目を眇めた。
「なんでカバンが必要なの?」
「え?」
「邪魔でしょ? 置いていって。早く」
言われて隼人は参ってしまった。逡巡の末、隼人は遠くで黒板消しを掃除しているマリヤさんに声をかけた。
「阿部さん、悪いけどカバン見ててくれない?」
「え」
「お願い」
「うん……」
早川先生の白い目に出迎えられつつ、隼人はマリヤさんに荷物をたくし、教室を後にしたのだった。
そのことを、隼人は自分の目でも、目の前で今話しているマリヤさんからも確認していた。
ユーヤはどうやら、夏バテと寝不足、精神的なものだったらしく、オージと仲直りし、午後ゆっくり休んで回復したのだった。
「でもオージくん、心配だからユーヤくんと帰るって……約束なくなっちゃったの」
今日は、一緒にクレープを食べに行く約束をしていたらしい。オージからの誘いで、嬉しかったのに、とマリヤさんは悲しげに目を伏せた。
「もちろん、具合が悪いなら仕方ないけど……ユーヤくん、私のこと『じゃあおつかれ』って、馬鹿にしたみたいに。私、心配してたのに」
「それは……つらかったね」
隼人はほうきを手に、少し遠い目をした。
『オージ、オージ』と肩に掴まって教室を出ていくユーヤ。ついでに尻を蹴飛ばされたので、何となく気持ちはわかる。
「隼人くんは庇ってもらってたよね? 私、『悪い』って言われたきりなんだよ?」
同調すると、マリヤさんにムッと言い返されて隼人は黙り込む。
『ユーヤ、よせ』
たしかに蹴っ飛ばされた時、オージがユーヤを止めてくれたのだった。
無論、オージはユーヤが行き過ぎるといつも止めるのだが、久しぶりだったことと、先の謝罪があったので、より鮮明に残ったのだ。
ユーヤは怒って出ていったが、追いかけたオージを拒絶はしなかった。
本当に二人は仲直りしたんだなあ、としみじみ思う。
「二人が仲直りしたこと、よかったとは思うよ。でも……正直、私、ユーヤくんのこと許せてないの。だってオージ君にあんな酷いこと……」
マリヤさんが悔しそうに唇を歪めた。強い目で隼人を睨むと、はあ、と顔をそらし息をついた。
「でも、オージくんはそれでいいんだよね。……私の心配って、何なんだろう。私を大切にしてくれる人、本当にいないの」
「そんなことないよ」
「やめて。わかってるから」
マリヤさんの落ち込みは激しい。何とか励まそうと試みるが、気分は持ち上がりそうになかった。
そりゃそうだよな、と隼人は思う。マリヤさんが欲しいのは、オージの励ましなのだ。他の誰かではいけない。
「ごめんね、うざいよね」
「ううん。聞くくらいしかできないけど」
「うん……」
マリヤさんが、自嘲気味に笑ったとき、教室の扉があいた。
「何これ? 何で誰もいないの?」
早川先生だった。教室掃除のチェックに来たらしい。掃除をしているのが、隼人以外にいないことに気づき、目くじらを立てる。マリヤさんは、身を縮めるとおもむろに立ち上がり、隼人から離れた。なんでもない風に窓へ向かう。
「中条くん、どういうこと?」
「えっと、皆忙しいみたいで」
「それで帰したの? 掃除は義務だよ? 何で君が決めるの? ちゃんとまとめないと駄目だよね?」
「すみません」
早川先生は苛々したように、持っていたボールペンで柱をコツコツ叩いた。はあ、と長く息をつくと、「仕方ないなあ」と言葉をついだ。
「君だけでいいから来て。今から用具を運ぶから」
「あっ、はい」
隼人は早川先生のもとへ駆け寄る。しかし、早川先生は、隼人に目を眇めた。
「なんでカバンが必要なの?」
「え?」
「邪魔でしょ? 置いていって。早く」
言われて隼人は参ってしまった。逡巡の末、隼人は遠くで黒板消しを掃除しているマリヤさんに声をかけた。
「阿部さん、悪いけどカバン見ててくれない?」
「え」
「お願い」
「うん……」
早川先生の白い目に出迎えられつつ、隼人はマリヤさんに荷物をたくし、教室を後にしたのだった。
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