ハヤトロク

白崎ぼたん

文字の大きさ
上 下
44 / 64

第四十四話 保健室

しおりを挟む
 理科棟につくと、オージがユーヤを姫抱きにして、ちょうど出てきたところだった。南先生が脇から手を伸ばして、ユーヤの首に氷を当てている。
 そこからは早かった。
 保健室のベッドに寝かされたユーヤの手を、オージはひざまずいて握っていた。

「ユーヤ、すまなかった……」

 その声には深い悔恨がにじむ。祈るように、ユーヤの手を、自らの額に当てた。周りはいっさい見えていないようだ。
 カーテンの隙間から、光が差す。二人の姿は彫刻のように、神聖で美しかった。

「中条くん、あなたも冷やしなさい」

 南先生が、そっと氷を渡してくれた。隼人は礼を言い、首に当てる。脈打つ血が、じんわりと冷えた。

「ん……」

 ユーヤがわずかにうめいた。オージは弾かれたように、ユーヤの顔を覗き込む。出ようとしていた隼人も、思わず振り返った。

「ユーヤ!」
「ぉー、じ……?」
「ああ、俺だ。ユーヤ……」

 オージの確かな声音に、ユーヤは「オージィ」と声を揺らした。くしゃりと幼子のように顔をゆがめる。

「つらかったよお」
「ごめんな……」
「ぼく、ぼくっ、ひっ……ひとりぼっちでっ……つらかったぁ」

 オージはユーヤの手をかきいだき、ユーヤの涙に触れそうな距離で、痛ましげにユーヤを見つめた。

「ごめんな。つらかったな」
「うぇ、も、ひとりにしないれ……」
「ああ、ひとりにしない。二度と離さないから……」
「ひっく、おーじのばかぁ……うわあぁん!」

 オージの手にすり寄る。せきを切ったように、わんわんと泣き出した。
 隼人は、そっとベッドから離れた。今は二人にしてあげたほうがいいだろう。

 保健室から出ると、ちょうどケントマオと行きあった。ふたりとも、隼人を見てバツの悪そうに、顔を渋くした。

「ユーヤは」

 ケンが尋ねる。隼人は答えた。

「今休んでる。大丈夫だと思う」

 隼人の言葉に、二人の肩の力が抜ける。安堵しているのだとわかる様子に、少し気分が浮上した。

「今、藤貴くんがお見舞いしてるよ」

 とりあえずそれだけ伝えて、隼人はその場を後にしようとした。ケンが「おい」と、隼人の背に声をかける。

「何?」
「いや……」

 ケンは何か言いよどんでいる。隼人はその様子に、さっきの怒りが少しぶり返してきた。思わず目に力がこもったのに、反応したのはマオだった。

「ずいぶん正義ぶるじゃん。部外者は引っ込んでろよ」
「マオ」
「ケンもさ、愚痴言う相手くらい選んでよ。格とか下がるじゃん」

 ケンが押し黙る。マオはしっかり、ケンと隼人の言い合いから察していたらしい。隼人も、引く気にはなれなかった。なにぶん、疲れていたのだ。

「ケンカもちゃんとできない人に言われたくないよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

災厄のスライムの見る夢は……

藤雪たすく
BL
偉大なる魔王に仕える『4つの災厄』と恐れられる4体の魔物。そのうちの1つ。北の砦を守り魔王軍一と称えられる、美しさと強さを誇るアルファルドには誰にも言えない秘密があった。 尊敬してやまない魔王様にも言えない秘密……それは……。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...