明日、君に会いたい【本編完結】

白崎ぼたん

文字の大きさ
上 下
39 / 90

第三十九話 期待と戸惑い

しおりを挟む
「ふふふ」

 鼻歌が止まらない。あれから龍堂と落ち合って、たくさん話して帰った。月明かりと電灯の光の下で会う龍堂は新鮮で、なんだかどきどきした。
 隼人の家の前でわかれて、龍堂は去っていった。「俺も送る」と言ったら、「それじゃ意味ないだろ」と笑った。どういう意味だろう? わからないけど、なんだか胸がぎゅっとなった。

「夏休みもこうして会えたら嬉しいな」

 龍堂の家は、隼人の家とそう遠くなさそうで、こうして歩きに行けば、休みの間も会えるのではないだろうか。
 ちょっとはしゃぎすぎだろうか、なんて自分を諌めるほど、胸が期待でいっぱいだった。

「フジタカ、おはよー」
「ああ」

 ふいに、マオとヒロイさんの声が、隼人の耳に届いた。あのテストの一件から、二人はオージと親密になった気がする。今まではあくまで、ケンやマオ、ヒロイさんと話していたのはユーヤであって、オージはいつも一歩引いている感じがあったから。
 こうしてわいわいと宿題の話をしていると、不思議な心地がした。
 隼人は視線を戻そうとして、ユーヤが目に入った。ユーヤはひとり、机に突っ伏している。ユーヤは相当苛立っているらしく、指先で何度も机を叩いている。
 結構な音だが、ヒロイさんたちは気にした風もなく、楽しげに話している。
 もしかして、ケンカしてるのかな?
 それこそ、あのテストの一件で。それで隼人は合点がいった。
 それでユーヤは昨日ひとりだったのだ。
 ユーヤが立ち上がる。椅子が大きな音を立て、後ろの机にぶつかった。ユーヤは気にした様子もなく、ずんずんとやってくる。

「痛っ!」
「見てんじゃねーよ! このブタッ!」

 隼人の襟首をつかむと、思い切りぶん投げた。隼人は椅子から転げ落ちる。ユーヤは見向きもせずに教室から出ていった。強く閉められた扉の音は、静かになった教室内に、痛いほどの余韻を残した。
 隼人は困惑しきり、身を起こした。
 オージは、しばらくユーヤを目で追っていたが、ヒロイさんたちに呼ばれると、何事もなかったかのようにまた宿題の話を始めた。
 こんなこともあるんだ。隼人は椅子に座り直しながら、どことなくきまりの悪い気持ちになった。



「お前さぁ、ユーヤのこと、さぞいい気味って思ってんだろーな?」

 音楽の授業のあと、ジャン先生に呼び止められた龍堂を持っていると、ケンがやってきた。けげんに見上げると、隼人は少し驚く。ケンの顔には、いつもの馬鹿にしたような笑みはなく、どことなく気まずそうな、やるせなさそうな気配があった。

「思ってないです」
「どーだか。お前、ユーヤのことムカついてんだろ?」

 隼人は黙る。それから、はっきりケンを見返した。

「たしかに、一ノ瀬くんのことは俺、好きじゃないです」

 ケンが意外そうに目を見開き、それから勝ち誇ったように笑う。

「やっぱりな、」
「でも、いい気味だなんて思いません」

 隼人はぎゅっと、拳を握った。

「一ノ瀬くんには、すごい腹が立ってます。けどそれは俺と一ノ瀬くんの間の問題で、支倉くんたちのことは関係ないです」

 そうだ。自分はスッキリしなかった。隼人は、自分とユーヤの問題は解決したい。けどそれは、ユーヤが不幸になれば解決するわけではないのだ。
 ケンは黙り込んでいた。隼人はこの際だから言いたいことを言うことにした。

「支倉くんだって、話すのは俺じゃないと思う。一ノ瀬くんが気になるなら、話し合って仲直りしたらいいんじゃないかな」

 ケンはどう目し、それならきつく睨んできた。

「ざけんな、龍堂の腰巾着が……何でテメーなんぞに」
「だって支倉くん、楽しくなさそうだから。あと、俺と龍堂くんは友達だから、そんなふうに言わないでほしい」
「テメェ……!」
「お待たせ、中条」

 ケンが気色ばみ、隼人に掴みかかろうとしたとき、ハスキーな低音が二人の間に割って入った。

「龍堂くん、お疲れ様」
「ありがとう」

 行こう。そう言って、守るように促されて隼人は頷いた。隼人と龍堂が、連れ立って歩いていく背を、ケンの視線はずっと刺していた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

『倉津先輩』

すずかけあおい
BL
熱しやすく冷めやすいと有名な倉津先輩を密かに好きな悠莉。 ある日、その倉津先輩に告白されて、一時の夢でもいいと悠莉は頷く。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

片思いの練習台にされていると思っていたら、自分が本命でした

みゅー
BL
オニキスは幼馴染みに思いを寄せていたが、相手には好きな人がいると知り、更に告白の練習台をお願いされ……と言うお話。 今後ハリーsideを書く予定 気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいましたのスピンオフです。 サイデュームの宝石シリーズ番外編なので、今後そのキャラクターが少し関与してきます。 ハリーsideの最後の賭けの部分が変だったので少し改稿しました。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

処理中です...