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第二十八話 もやもやの正体
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「はーやーと。ごはんだよー」
月歌がドアを開け、部屋に入ってきたので、隼人は驚いて飛びあがった。
「どうしたの?」
月歌が、不思議そうに首を傾げる。そして、机の上のノートに目をやった。何気ない様子だったが、隼人は焦った。
「な、なんでもない!」
大慌てでノートを閉じると、月歌は「そう……?」と頷いた。しかしその表情は思案げで、隼人は汗がわき出るのを感じた。平静を装って、教科書とノートをしまう。
「ありがと、お姉ちゃん。ご飯楽しみだな」
にこ、と笑いかけると月歌は、一拍の沈黙の後「うん」と頷いた。隼人は姉を急かすように、部屋を出た。月歌は隼人の部屋のうちに、どこか後ろ髪を引かれているような様子で、それを追った。
「おいしい!」
ご飯にぱくつきながら、隼人は心のどこかでずっと動揺していた。何に、かはわからない。ノートのことかもしれないし、龍堂のことかもしれない。けど、どちらも後ろめたい気持ちがついてまわっていた。
これからどうしよう。
自分は龍堂に相応しくなりたいのに、これからもこんなことが続いたら――ユーヤに、あんなふうにされたら――考えるだけですごく嫌な気持ちになった。そんなふうに思う自分も、何だか胸が悪い。
龍堂が、マリヤさんが心配してくれた。それだけで嬉しかったはずなのに、どうして今こんなに心がもやもやしているんだろう。
「――隼人?」
呼ばれて我に返る。向かいに座る父が、自分を見ていた。
「どうしたの? ずっと難しい顔をして」
母も不思議そうに見ていた。隼人は首をふり、ことさら明るい声を出す。
「なんでもない! おかわりしようか迷ってたんだ」
「あらそう? 遠慮しなくていいのに」
母は笑って、手を差し出した。「ありがとう」とお茶碗を差し出す。団らんの時間が戻って来る。
月歌だけが、隼人をじっと見ていた。
◇
“
「どうして俺は満足できない? 何が俺の心を波立たせる」
”
その一節を書くと、隼人は空を仰いだ。校舎裏といえど、陽光は明るく、隼人の髪をぽかぽかと温めた。
「俺はどうしたいのかな」
隼人は呟く。
龍堂くんと仲良くなりたい。龍堂くんに相応しくなりたい。ハヤトみたいに。
「でも、今の俺は違うから……焦ってるのかな」
ユーヤが龍堂に、親しげに声をかけるのを見てすごく嫌だった。
単純にユーヤに腹が立っているからというのもあると思う。自分に酷いことをしたやつが、自分の好きな人と仲良くなるなんて――それが悔しいのかもしれない。
「けど、そんなの俺の勝手だよね」
龍堂にユーヤと仲良くしないで、なんて止める権利は自分にはない。というか、たとえ友達であったってないだろう。
でも。隼人の中でぐるぐると何かがずっと渦巻いて、苦しくさせるのだ。
わかっているのに、すごくいやだ――それはたとえ、ユーヤがいいやつでも、変わらないような気さえする。
「妬んでるのかな……」
ユーヤはカッコよくて、堂々と話しかけていて、自分よりずっと、龍堂に相応しい友人に見えた。
――嫌な考えだ。隼人はうなだれた。格好悪い、自分がとても狭量で、恥ずかしかった。またノートを開く。
“
「他人を羨むよりも、俺は俺を磨いていたい。タイチ。お前と並び立つものとして……」
”
「そうだよね」
ハヤトに自分を奮い立たせてもらう。そうだ、卑屈になっても何も変わらない。自分を磨かなければ。
「並び立つために、どうしたらいいかな」
すると思考が詰まってしまい、隼人はまた息をついた。不調だった。
「ハヤトみたいにカッコよくなって。それから、この状態から脱することだよね……」
隼人は唇をかむ。
この状態から脱するため、胸に浮かんだ一つの案。怖いけど、抜け出すにはそれしかない気がする。しかし……
チャイムが鳴る。結局決断できないまま、昼休みが終わった。隼人はため息をつくと、校舎裏を後にした。
月歌がドアを開け、部屋に入ってきたので、隼人は驚いて飛びあがった。
「どうしたの?」
月歌が、不思議そうに首を傾げる。そして、机の上のノートに目をやった。何気ない様子だったが、隼人は焦った。
「な、なんでもない!」
大慌てでノートを閉じると、月歌は「そう……?」と頷いた。しかしその表情は思案げで、隼人は汗がわき出るのを感じた。平静を装って、教科書とノートをしまう。
「ありがと、お姉ちゃん。ご飯楽しみだな」
にこ、と笑いかけると月歌は、一拍の沈黙の後「うん」と頷いた。隼人は姉を急かすように、部屋を出た。月歌は隼人の部屋のうちに、どこか後ろ髪を引かれているような様子で、それを追った。
「おいしい!」
ご飯にぱくつきながら、隼人は心のどこかでずっと動揺していた。何に、かはわからない。ノートのことかもしれないし、龍堂のことかもしれない。けど、どちらも後ろめたい気持ちがついてまわっていた。
これからどうしよう。
自分は龍堂に相応しくなりたいのに、これからもこんなことが続いたら――ユーヤに、あんなふうにされたら――考えるだけですごく嫌な気持ちになった。そんなふうに思う自分も、何だか胸が悪い。
龍堂が、マリヤさんが心配してくれた。それだけで嬉しかったはずなのに、どうして今こんなに心がもやもやしているんだろう。
「――隼人?」
呼ばれて我に返る。向かいに座る父が、自分を見ていた。
「どうしたの? ずっと難しい顔をして」
母も不思議そうに見ていた。隼人は首をふり、ことさら明るい声を出す。
「なんでもない! おかわりしようか迷ってたんだ」
「あらそう? 遠慮しなくていいのに」
母は笑って、手を差し出した。「ありがとう」とお茶碗を差し出す。団らんの時間が戻って来る。
月歌だけが、隼人をじっと見ていた。
◇
“
「どうして俺は満足できない? 何が俺の心を波立たせる」
”
その一節を書くと、隼人は空を仰いだ。校舎裏といえど、陽光は明るく、隼人の髪をぽかぽかと温めた。
「俺はどうしたいのかな」
隼人は呟く。
龍堂くんと仲良くなりたい。龍堂くんに相応しくなりたい。ハヤトみたいに。
「でも、今の俺は違うから……焦ってるのかな」
ユーヤが龍堂に、親しげに声をかけるのを見てすごく嫌だった。
単純にユーヤに腹が立っているからというのもあると思う。自分に酷いことをしたやつが、自分の好きな人と仲良くなるなんて――それが悔しいのかもしれない。
「けど、そんなの俺の勝手だよね」
龍堂にユーヤと仲良くしないで、なんて止める権利は自分にはない。というか、たとえ友達であったってないだろう。
でも。隼人の中でぐるぐると何かがずっと渦巻いて、苦しくさせるのだ。
わかっているのに、すごくいやだ――それはたとえ、ユーヤがいいやつでも、変わらないような気さえする。
「妬んでるのかな……」
ユーヤはカッコよくて、堂々と話しかけていて、自分よりずっと、龍堂に相応しい友人に見えた。
――嫌な考えだ。隼人はうなだれた。格好悪い、自分がとても狭量で、恥ずかしかった。またノートを開く。
“
「他人を羨むよりも、俺は俺を磨いていたい。タイチ。お前と並び立つものとして……」
”
「そうだよね」
ハヤトに自分を奮い立たせてもらう。そうだ、卑屈になっても何も変わらない。自分を磨かなければ。
「並び立つために、どうしたらいいかな」
すると思考が詰まってしまい、隼人はまた息をついた。不調だった。
「ハヤトみたいにカッコよくなって。それから、この状態から脱することだよね……」
隼人は唇をかむ。
この状態から脱するため、胸に浮かんだ一つの案。怖いけど、抜け出すにはそれしかない気がする。しかし……
チャイムが鳴る。結局決断できないまま、昼休みが終わった。隼人はため息をつくと、校舎裏を後にした。
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