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BAD BITCH 4
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挙式まであと二ヵ月しかないのにまだ新居が決まらないので、会うときはお互いの家を行き来している。さっさと引っ越してしまいたいけれど、祐介が納得のできるような物件がなかなか見つからない。結婚するにあたって、ふたりで頭金を二百万円ずつ出して、少し広めの中古マンションを買おうとしている。
祐介によると、年初から二月ぐらいに新築の物件が動き始め、それに伴って中古マンションが数多く市場に出るので、その時期まで待ったほうが良い物件を割安で購入できるらしい。新居が決まらないと、家具も揃えられないし、朋子の家から、祐介の家まで、移動に小一時間かかるので、行き来も面倒だけど、不動産のプロの言うことには従ったほうがいいだろうと思い、来年まで待つことにしていた。
「今日は帰るね。明日からまた忙しくなるし」
「なんだ、朋子が観たいって言ってたアシュリーのライブ探しといたのに」
「ちょっとそれ、早く観せてよ」
アシュリーは、朋子の好きな人気上昇中の洋楽アーティストだ。歌唱力があって、おしゃれで可愛いくて、それに何といっても、アシュリー自ら作っている曲のコンセプトがすごくいい。
祐介がスマホでアシュリーのライブ動画を探し出し、再生する。シルバーの衣装に白のブーツを履いて、髪をマリリンモンロー風に巻いたアシュリーがテレビの画面の中央に映し出され、新曲のBAD BITCHを歌い始める。
アイドルであるアシュリーが、ストーカーに追いかけられて掴まってしまうも、アシュリーはストーカーが思い描いていたアシュリーではなくてBAD BITCHだった、ということで捨てられてしまう、というような感じの曲だ。
ダイニングテーブルに戻ってきた祐介がエクレアを袋から出す。
「朋子は食べないの?」
「うん、太るから」
「なんだ、気にしてたのか?」
「あんなこと言われたら、気にならないほうがおかしいよ」
「半分やるよ」
「……ひと口でいい」
テーブルに身を乗り出して、口を開けた。テレビの画面には、バックダンサーの男たちに囲まれるアシュリーの姿が映し出されている。
「こっちにこないとやらないよ」
めんどうなやつ、と思いながらも、椅子を持って、祐介の横に移動した。パソコンのディスプレイは節電モードの黒い画面に変わっている。
「椅子はいいから、ここに座んな、朋子」
エクレア欲しさに言われたとおりに祐介のひざに座り、やっとエクレアをかじらせてもらった。
「今の顔、エロいな」
エロいなんて、言われたことがないので、妙に照れくさい。
「そうかな?」
「帰るとか言うなよ、朋子」
祐介は朋子のウエストのあたりを両手で抱き、ずり落ちそうになっていた朋子の身体を引き寄せた。キスは、チョコカスタードの味だった。
「朋子、ちょっと口でしてみて」
「こんなところじゃいや」
「どこだって同じじゃないか、な、いいだろ」
しょうがないなあ、と思いながら祐介のひざから降り、床にひざ立ちになったときに、肘に何かが当たった。パソコンのマウスだった。振り返るとディスプレイがぱっと明るくなり、画面いっぱいにバナナを咥えた瀬川ななみの画像が表示された。
「やっぱりここじゃやだ」
そのまま帰ろうと思った。でも、こんな画像を見られて、悪びれるそぶりさえ見せない祐介がなんだか可哀そうになった。祐介だって、朋子を逃したらおそらくあとがない。
「なんだ、アシュリーってななたんみたいな格好してる」
さっき見たななみの画像に、似たような衣装をつけているものがあった。それ、元はこっちで、ななみが真似しているだけなんじゃないのか、と言いそうになったけど、やめた。祐介の世界はななみ中心に回っているのだ。
「ベッドならいいんだよね。朋子、帰るなんて言わずに泊まればいいよ」
朋子は、祐介に手を引っ張られて、浮かない足取りで寝室に移動した。
祐介によると、年初から二月ぐらいに新築の物件が動き始め、それに伴って中古マンションが数多く市場に出るので、その時期まで待ったほうが良い物件を割安で購入できるらしい。新居が決まらないと、家具も揃えられないし、朋子の家から、祐介の家まで、移動に小一時間かかるので、行き来も面倒だけど、不動産のプロの言うことには従ったほうがいいだろうと思い、来年まで待つことにしていた。
「今日は帰るね。明日からまた忙しくなるし」
「なんだ、朋子が観たいって言ってたアシュリーのライブ探しといたのに」
「ちょっとそれ、早く観せてよ」
アシュリーは、朋子の好きな人気上昇中の洋楽アーティストだ。歌唱力があって、おしゃれで可愛いくて、それに何といっても、アシュリー自ら作っている曲のコンセプトがすごくいい。
祐介がスマホでアシュリーのライブ動画を探し出し、再生する。シルバーの衣装に白のブーツを履いて、髪をマリリンモンロー風に巻いたアシュリーがテレビの画面の中央に映し出され、新曲のBAD BITCHを歌い始める。
アイドルであるアシュリーが、ストーカーに追いかけられて掴まってしまうも、アシュリーはストーカーが思い描いていたアシュリーではなくてBAD BITCHだった、ということで捨てられてしまう、というような感じの曲だ。
ダイニングテーブルに戻ってきた祐介がエクレアを袋から出す。
「朋子は食べないの?」
「うん、太るから」
「なんだ、気にしてたのか?」
「あんなこと言われたら、気にならないほうがおかしいよ」
「半分やるよ」
「……ひと口でいい」
テーブルに身を乗り出して、口を開けた。テレビの画面には、バックダンサーの男たちに囲まれるアシュリーの姿が映し出されている。
「こっちにこないとやらないよ」
めんどうなやつ、と思いながらも、椅子を持って、祐介の横に移動した。パソコンのディスプレイは節電モードの黒い画面に変わっている。
「椅子はいいから、ここに座んな、朋子」
エクレア欲しさに言われたとおりに祐介のひざに座り、やっとエクレアをかじらせてもらった。
「今の顔、エロいな」
エロいなんて、言われたことがないので、妙に照れくさい。
「そうかな?」
「帰るとか言うなよ、朋子」
祐介は朋子のウエストのあたりを両手で抱き、ずり落ちそうになっていた朋子の身体を引き寄せた。キスは、チョコカスタードの味だった。
「朋子、ちょっと口でしてみて」
「こんなところじゃいや」
「どこだって同じじゃないか、な、いいだろ」
しょうがないなあ、と思いながら祐介のひざから降り、床にひざ立ちになったときに、肘に何かが当たった。パソコンのマウスだった。振り返るとディスプレイがぱっと明るくなり、画面いっぱいにバナナを咥えた瀬川ななみの画像が表示された。
「やっぱりここじゃやだ」
そのまま帰ろうと思った。でも、こんな画像を見られて、悪びれるそぶりさえ見せない祐介がなんだか可哀そうになった。祐介だって、朋子を逃したらおそらくあとがない。
「なんだ、アシュリーってななたんみたいな格好してる」
さっき見たななみの画像に、似たような衣装をつけているものがあった。それ、元はこっちで、ななみが真似しているだけなんじゃないのか、と言いそうになったけど、やめた。祐介の世界はななみ中心に回っているのだ。
「ベッドならいいんだよね。朋子、帰るなんて言わずに泊まればいいよ」
朋子は、祐介に手を引っ張られて、浮かない足取りで寝室に移動した。
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