百物語 厄災

嵐山ノキ

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第九十三話 朝のすれ違い

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 Mさんは会社に行く前に家のゴミを捨てに持って行くことにしていた。
 この日もゴミ袋を1つ持って近所のゴミステーション、つまり小さな集積場まで歩いて行く。
 徐々に近づいていくと、集積場にすでに人がいるのが見えた。
 自分の親ぐらいの年齢と思しきおばさんだ。面識はない。

「そうなのよ、ほんとにねえ」

 近づくにつれておばさんの声が耳に入るようになってくる。朝っぱらから井戸端会議かとも思うが、おばさんたちはこういうときでないと会う機会がないのかもしれない。

「ねえ、何でも今高いでしょう」

 どうってことのない話だ。もうすぐ集積場に付く。
 おばさんがいるからなのか、扉は開いている。さっさとゴミをおいて退散しようとMさんは思った。

「ほんとに、お肉なんか買えなくてねえ」

 Mさんは違和感を覚えた。
 このおばさん、誰と喋っているのだ?
 外から見えたのはおばさん1人だけだった。てっきり集積場の中にもう1人いてその人と喋っているものだと思っていた。
 ところがいざ集積場に入ると、おばさん以外誰もいないではないか。
 朝から不気味なものを見た。これだけならばおばさんがちょっとおかしいというだけの話である。

「おはざいまーす」

 Mさんは一応声をかけながら、ゴミを置くことにする。

「おはようございます」
「おはようございます」

 2つ返事があった。
 ギョッとしたMさんだが、平静を装って集積場から出た。
 出る寸前に中を見回すが、誰もいない。
 直後にそのおばさんとすれ違う。

「あら、見えたのかしら」

 話しかけられたが、何のことかわからない。Mさんは曖昧に頷いておばさんの方を見ずにそそくさと立ち去った。

「妻に相談して、ゴミ出しの時間を変えることにしました」

 対策はしても近所でそのおばさんに会うのではないかと、Mさんは未だにビクビクしながら歩いているという。
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