百物語 厄災

嵐山ノキ

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第三十八話 新築の臭い

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 Zさんは友人の新築の家にお邪魔する機会を得たという。
 玄関、リビングなどを案内してもらって、今後友人が送るであろう生活を想像してみたりした。
 新築特有の臭いを楽しんでいたZさんだったが、寝室に来たときには考えが変わった。
 ダブルベッドと小さな机が置かれているだけで、他の家具は今後揃えていくのだろうと思われた。
 部屋自体はシンプルだったが、それよりももっと注意を引くことがあった。
 悪臭がするのである。

「なんか、ごめんね、気を悪くしないでほしいんだけど、この部屋変な臭いしない?」

 Zさんは気を遣いながら友人に指摘する。

「え、ええっ?」

 友人は気がついていないようで、Zさんの言うことにもピンときていない様子だ。

「臭わない? 何かが腐ったような臭いだよ」

「そう、かなあ?」

 自分の鼻がおかしくなったのかと思いつつも、Zさんは臭いの出所を探す。

「下の方からするよね」

 一見すると新しい部屋にしか思えないのだが、どうも床からの臭いが漂ってきているようだ。さらに辿っていくと、ベッドの方が出所に近い。

「ねえ、気のせいじゃないの?」

 友人は少し気分を害したような口調になった。それでもZさんは気になってしまい止まらない。

「ベッドの下、覗いてもいい?」

「まあ、いいけど何もないよ」

 好きにしてくれといった様子の友人。一方Zさんの鼻を襲う悪臭はいっそう強くなった。
 ハンカチで鼻を押さえながらZさんは腰を落とす。そしてベッドの下を覗き込んだ。

「うえっ、うえええっ!」

 Zさんは猛烈な吐き気を感じた。
 ベッドの下には臓物があった。
 腸、肝臓、心臓……肉屋のメニューをイメージするよりも早く、赤茶色の臓器が目に飛び込んできた。しかも腐ったような悪臭を放っている。

「うおおおあっ」

 新築の家に吐くのだけは避けるべきと判断し、Zさんは口を押さえて涙をこらえながら部屋を出た。
 不思議なことに寝室を出ると、あの悪臭が途端に消え失せる。
 鼻腔への残り香もない。
 Zさんは爽やかな気分にすらなりつつあった。友人が不思議そうな顔でZさんを見ている。

「今、今、変なのがあった」

 はっきり言って再度確認はしたくなかったが、友人には伝えるべきと思いZさんは再び寝室に入った。
 しかし不思議なことに、先ほどまでの悪臭は消え、他の部屋と変わらない香りが漂う。

「あれ……?」

 Zさんは今度は友人と一緒にベッドの下を覗いたが、そこには何もなかったという。
「あれから友人は5年以上その家に暮らしていますが、特に何かがあったとは聞いていませんね」
 未だに納得がいっていない様子でZさんは言う。

「なぜあんなものを見たのか、そしてあんな強烈な臭いがしたのか、まったくわかりません」

 Zさんはこのときの体験から、肉屋でもホルモンは注文しないようにしているそうだ。
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