一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀

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二章第三節.イシハラナツイ、〈続〉〈続〉借金返済の旅

百四十八.イシハラと風天の魔女

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「ぎっ……ぎぎぎぎっ……!! こっ……こんなの認められんであーるっ……!!」

 職場展開を終了し、舞台を荒野に戻して休もうとすると緑色が歯ぎしりをしながら呟くように言った。すかさず俺は早口で反論する。

「え? 『どんな技術の使用も許可する』って言いましたよね? ちなみにスマホ技術で録音して言質は取ってあるんで。あれ? もしかして早めに終わらせると裏にいる貴族達に文句言われるからヤバいんですか? でもそれあなた達の都合ですよね? ポイント稼いでも休んじゃダメなんて言ってませんもんね? だったらあとは何してようがこっちの勝手ですよね? 悔しいってそれあなたの感想ですよね?」

 俺が正論で理論武装砲火をすると、緑色は顔色が変わるくらいに激しく怒り顔をした。
 ちなみに主観だが、赤と緑を混ぜてできる茶黄色みたいな色はあまり好きじゃない。まさにそんな顔色だ。

「……………ぷっ……ふふふっ……いえ失礼。確かにその通りですイシハラナツイ様、他の参加者が許せば寝てていただいても一向に構いません」

 隣にいたシラフが笑ったのち、許可した。こいつの方が上司に向いてるんじゃないだろうか、俺の会社(警備協会)と似通ってるな(局長マルボウ副長アマクダリ)

【へぇ、シラフが笑ったの久しぶりに見たわね。いいわ、イシハラ君は16枠の一人に決定よ。話がしたいから先にこっちへ通して頂戴】

 かつての氷のダメ魔女と同じく、意識の中に直接声が響いた。女の声だ、察するにこの塔の主である魔女とやらだろう。

「おっ……お帰りになられたのであーるますかビューラー様!? し……しかしまだ決着はっーー」
【アタシがいいって言ってんだから良いのよ、なに? 既に現役を退いた身なのにアタシに反論したいの? いひひ、面白いわね。じゃあ一緒にこっちに来て直接意見してご覧なさいな……ぁああ腹立つ腹立つ糞糞糞糞糞精霊が】
「めっ……滅相もないであーるますっ! すぐに送りまーす故にお待ち下さいっ!!」

 ジンジンは上司に怒られて直ぐに俺をマフィンフィールドから離脱させた。今度の魔女は情緒不安定のメンヘラか、面倒くさそうな奴だ。

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--------------

〈ビューラーの塔 最上階〉

 風とやらの技術で吹き抜け型の塔の最上階まで一気に送られた、逆バンジーみたいで中々楽しかった。
 螺旋階段の終点にはラスボスがいるようなどデカい扉が悠然と構えている、だが俺はラスボスと戦いにきたわけじゃないので普通にノックして返事を待たずに扉を開いて入室した。

「いらっしゃい、イシハラナツイ君。大会進出おめでとう。けど入室する時は返事を待ってからにした方がいいわ、減点されるわよ」
「俺は企業面接に来たわけじゃない、呼んだのはお前だろうくるりんまつ毛」
「あら、アタシのチャームポイントを初見で褒めてくれたのは貴方が初めてよ。ここを一番の売りにしてるの」
「それは良かった、別に褒めてないけど」

 扉の先には綺麗な草原がどこまでも続いていた。青空、白い雲、そびえる山々、舞い踊る風。まるで最近英会話に手を出したじいじや車イスの少女達が住む高原のようだ。
 そこにポツンと貴婦人が紅茶を焼菓子を嗜むような椅子とテーブル、魔女も御多分に漏れずそこに座っていた。魔女に促され、俺もそこに座った。

「本当にマフィンフィールドが好きだなお前ら」
「汚い現実を見ないで済むもの、ここにいればね。元々そういう目的で創られた技術みたいだし……そうそう、あの娘は元気にしてたかしら?」
「エミリか? 知らんがたぶん元気だろう。貧乏暮らしは相変わらずだが本人は何も気にせず平和を満喫してるんじゃないか? 知らんけど」
「違うわ、子供には違いないけどアタシが言ったのは氷使いの魔女【ドライ】ちゃんのこと」
「だったらちゃんとそう言え、あの娘なんて曖昧な人称でわかるわけないだろ馬鹿かお前。ニートダメ魔女なら今頃都会の女になってるんじゃないか? 興味ないけど」
「……いひひ、成程。シューズちゃんの思考どうりの人物ね、面白いわ」
「それより用があるんだろ? さっさと言え」
「あら? シューズちゃんの事気にならないの?」
「どうせ匂わせ発言だけして教える気なんか更々ないんだろう? そういう構ってちゃん思考は面倒すぎて嫌いなんだ」
「もう、そこは『シューズを知ってるのか?』とか言ってくれないと話が進まないんだけど?」
「お前のしたい会話が進まない、の間違いだろう。俺は興味無い事は話さない主義だ」
「つれないわね~、興味無いなんて言ったらシューズちゃんが悲しむわよ?」
「どうでもいい、俺は俺の用事を済ませて帰るだけだからな」
「………これはお手上げね、淡白にも程があるわよ貴方。本当に『借りたお金を返すためだけに』シューズちゃんに会いに来たの?」
「その通りだ、シューズと会える立場ならお前に預けたっていい。ほら、ネコハバしたら警察に言うからな」
「………」

 俺は借りた額を魔女に渡そうとするが何か考えているようで受け取らない。

「………いひひ、このお金は直接渡しなさいな。それが義理と言うものよ、そのために大会に参加したんでしょう?」
「それもそうだな、これ以上話が無いなら帰るぞ」
「ええ、構わないわ。本音を言わせてもらうと何か企んでるんじゃないかって疑ってたんだけど嘘はついてないようね、悪かったわ。じゃあまた近いうちに会いましょう。いひひ……」
「場合による」

 魔女みたいな笑い方をする魔女に適当に返事して、俺はマフィンフィールドを出る。

 ふぅ、危ない危ない。何がって?
 あの魔女もニートダメ魔女のように『人の記憶』が読めるからだ、エミリを子供と言い当てたり、会話の節々にその兆候があった。しかもダメ魔女は触れることで対象の記憶を読んだが、あいつは触れることなく、『会話に名称や抽象的な人称を出すことで相手の記憶を掘り起こし読む』能力だ。会話中あいつには一切触れてなかったからな。会話に『触れて』記憶を呼び起こす奴だ。

 別に、普段ならば記憶を読まれようが不利益はないが、今は作戦の真っ只中。しかもあいつは確か敵軍。レジスタンスの存在や目的がバレたら一発でおじゃんだからな、名前が出てこなくて良かった良かった。
 シューズに関しては、俺『だけ』の目的を読み取らせた。本当に俺『だけ』は金を返しに来ただけだからな、シューズを連れ戻したいのはムセンや他の奴等の目的だ。魔女もそこまでは読めなかったらしい。

 だからここに長居は無用だ、俺はあまり隠し事が上手くないし、もうあいつには接触しない方がいいだろう。

 そこで俺は気付く、風の精霊の技術で登ってきたはいいもののーー精霊は既にいない。という事は一階まで徒歩で降りなければならない。
 それは絶対にご面倒なので、魔女に『エレベーターつけろ』と要望を出すために再び接触したのであった。
 
 
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