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二章第三節.イシハラナツイ、〈続〉〈続〉借金返済の旅
百四十六.掴みはオッケー
しおりを挟む「ナ……ナツイさんは騎士なのに警備兵なんスか!?」
「騎士は副業だしなりたくてやってるわけじゃない。単なるオマケ、玩具についているラムネみたいな存在だ」
「ぇえ……普通逆じゃないっスか……?」
「イシハラきゅん、アタシ警備兵ってよく知らないんだけど……警護兵とは何が違うのかしら?」
「オルスでこれまで見てきた情報から推察するにーー兵士達から選出されて国を護るのが【警護兵】、民間人で成り立つのが【警備兵】だろう」
「あぁ、なるほどね。つまりはふんぞり返ってるのが警護兵ってわけ」
「ちょっ……マズイっスよベティさん……どこで誰が聞いてるかわかんないんスから……」
和気藹々とした感じで俺達は互いに自己紹介したのちーー情報を共有するため休憩して雑談していた。
「大丈夫かオトコの子、疲れていないか?」
「ナツイさん……その『オトコの子』って呼び方やめてくださいっス……僕は普通に男なんスから……それよりもナツイさん。出逢った時は物凄い冷めた眼してたのに急に優しくなったっスね……」
「いやなに、オルスに来て初めてファンタジーファンタジーしてる職業の奴らに出会ったから調子が上がっただけだ」
オルスに来てからこれまで、定番の『騎士』とか『神官』とかを除くと『宇宙パイロット』だ『諜報員』だ『侍』だ『忍者』だ『アパレル店員』だ『役者』だ『執事』だ『メイド』だのーー出会ったのは地球にありそうな職業の奴等ばかりだった。『勇者』だの『白魔導師』だの『魔女』だのはロクな奴等がいなかったしな。
だが、ここへ来て漸(ようや)く【召喚士】と地方闘技大会の王者【格闘王】というドラゴンテイルズファンタジー的な職業に遭遇した、喜びもひとしおというものだ。
こういうのでいいんだよ、何だ『アイドル』とか『行政書師』って。日本でやれ。
「はぁ……よくわからないっスけど……ナツイさんは異界人なんスね、なんで大会に参加しようと思ったんスか?」
「馴れ馴れしいぞオトコの子、馬鹿かお前。何でお前にそんな事話さなきゃならんのだ」
「ぇぇぇぇっ!? さっきまで優しかったのに!? 怖いっスよこの人……!」
「まぁまぁ、それにしても前回は予選までに試験なんてなかったのに急にどうしたのかしら? やっぱり異界から持ち込まれた職業が増えてきたのかしらね……」
「ガチムチおネエは以前も参加していたのか?」
「ええ、そうよ。前回は本選には進めなかったからね……リベンジしに来たのよ」
「ベティさんでも本選に進めなかったんスか!? 僕……お腹痛くなってきたっス……」
「そういうオトコの子は何故来たんだ? 【召喚士】とやらはそんなに待遇が悪いのか?」
「あ、僕は【司書】でエントリーしてるんスよ。掛け持って職業やってる人は結構いて……【召喚士】は既に国のランク付けには左右されないので……大会には参加できないんス」
ふむ、殿堂入りしているとかそんな理由か。
だが掛け持ちをしている場合は、本職(メインジョブ)が何であれ副業(サブ)のランクをアップさせるためなら参加していいと。
「そういう事っス。【司書】はこの武力志向の国ではあまり重宝されてないんス……だから蔑まれている司書仲間のために頑張るっス! そして大会で優勝して必ず司書の重要性を知らしめてやるんスよ!」
成程、どの職業にもそれぞれ色々な思惑や夢があるわけだ。それを知ったところで手加減なぞはしてやらないが、森を抜ける手伝いくらいはしてやるとしよう。
せっかくのファンタジー世界が現実的な職業に侵略されないようにな。
「あら、でも大会では【召喚士】の方の技術(スキル)は封じられて使えないわよ? 大丈夫なのリックきゅん」
「……………ええええっ!? マジっスか!? ………ど……どうしよう…………お腹痛い……」
オトコの子は途端に取り乱して腹を押さえる。
やっぱりダメだこいつ、んなもん少し考えればわかりそうなルールだろ。
という事は俺の【騎士】という肩書きの技術も使えない可能性が高いが……………うん、どうでもいいな。というか使った記憶もあんまないし。
「ま、それよりも先へ進むとしよう。目当てのものは見つけた」
「……え? どういう事っスかナツイさん? なにかしてたんスか? 休憩してただけじゃないんスか?」
オトコの子が幼児のようにはてなマークを多用するが対応が面倒なので無視した。だらだらとはしていたが単に休んでいたわけじゃない。
魔女の塔の麓の森、迷っていたこいつら、出会い頭に通り過ぎたはずのオトコの子の『戻ってきてくれた』発言、試験。
総合するとーー仕掛けがこの森にはあり、そのせいでこいつらは塔にたどり着けない。俺も先へ進んだと思っていたが再びオトコの子の隠れていた場所にいつの間にか戻ってきていたーーというわけだ。
俺は休憩中、作動させていた『3D異界マップ』で見つけた機械にライトセイバーを投げつけた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突風が俺達の間を迸(はし)り抜け、景色が変わる。
やはり森には仕掛けがあった、ニート氷の魔女のいた遺跡と同じ『マフィンフィールド』だ。
目の前には【塔】【仕掛けを突破した参加者達】、そしてさっきいた【シラフ】とかいう妖精みたいな精霊がいて俺達を出迎えるように並んでいた。
シラフの横には緑色の体をした鬼みたいなデカい奴が一緒に宙に浮いて俺達を睨んでいた。
きっと魔女の手下の精霊で次の試験官とかなんかそんなやつだろう。
日本でいう【風神】像そのままのそいつは俺達を一瞥し、見下したように半笑いしながら口を開く。
「ふん、ようやっとたどり着いたようであーるなクソ童どもが、この程度の仕掛けに手間どっておーるとは情けない! そんな実力で」
「おい、魔女に言っておけ。お前らがどんだけ『マフィンフィールド』好きか知らないが芸が無さすぎるし以前に同じ事やったからもう飽きた。ボキャ貧か魔女共。もっと簡単に攻略できて尚且つ目新しい仕掛けを用意しておけ」
「きゃああああっ!? 何アレ緑色の肌したお化けよ!? 薄気味悪いわ! うらぁぁぁぁぁっ!!!」
何か言おうとしていた緑色の奴の言葉は、俺とおネエの言葉に被せられ遮られ、一瞬にして場はカオスになる。
俺はもう飽きたマフィンフィールドに関するクレーム、おネエは緑野郎の肌の色に関するクレーム。自分もLGBTなのに棚に上げて肌色差別をしてるおネエに関しては一旦置いておくとしてーー臆病なあまりに出会い頭に攻撃してしまうという癖を持つらしいガチムチは怯えながら槍を緑色の精霊に投擲(とうてき)した。
グサッ
と、槍は緑色の頭に突き刺さる。試験官のくせにそれくらい避けろよと思ったのも束の間ーー何事もなかったかのように槍を抜いた緑色は額に血管を浮かせ、ビキビキと怒り心頭な様子で俺達に言った。
「……ほほぅ……我が主への暴言……そして不意討ち……ほほ……ほほほ……久方ぶりにホネのありそうな奴等であーる……よいであーろう、わしは魔女ビューラー様の忠実なる風の大精霊【ジンジン】ーー予選の全権を委任された責任者であーる……貴様らには特別待遇(スペシャルマッチ)の舞台を用意してやるであーる……」
責任者だった緑色が言い放つ。なんと、どうやら俺達を特別待遇にしてくれるらしい。予選シードとかか?
やはり初対面の印象というのは大事だな。掴みはバッチリのようだ。
「絶対違う意味っスよ……僕まで巻き込まないで下さいっス……あぁ……お腹いたい……」
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