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二章第三節.イシハラナツイ、〈続〉〈続〉借金返済の旅
百四十二.血望する未来
しおりを挟む〈レジスタンスアジト 会議の間〉
「こっちがストレア王都の全体図、こっちが城の見取り図だ。手に入れんのに相当苦労したが……とにかく、これで作戦の本筋を練れる。イシハラと数日話し合って決まった概要はこうだ」
一堂に会したメンバーの前でド=ゴーンが説明を始める。会議の間と称された広々としたその空間には屋根から伸びる木の根が壁一面に張りついていて所々に草が自生している。灰色の壁には彫刻が施され、心なしか日の光がどこかから漏れている錯覚に陥る。注目を集め弁を振るうド=ゴーンが教卓代わりにしている祭壇のようなものから察するに地下の礼拝堂か何かだったのだろうと要らない考察をしてみた。
総勢20人くらいの集まったメンバーの注目を明け渡すようにド=ゴーンは俺の役割を説明し始める。
「本作戦での最重要任務につくのがイシハラだ、6日後に開催される〈プロフェッショナルバトルオリンピア〉に出場し、予選を勝ち抜いて【警備兵】の門戸を開放させる。上級区に入れるようになったムセン嬢達が城へ忍び込んでお友達を救出……もしもイシハラが予選を通過できなければそれだけでご破算になるわけだ」
その場合の予備案(バックアッププラン)はない、それができなければ力ずくの正面突破しかなくなる。というのもストレア王都があまりに閉鎖的で情報が少なすぎるからだ。その原因となっているのが蔓延する職業差別。
【底辺職】の生活圏は非常に狭くーー関われる人間も限られてくる。レジスタンスメンバーが集められる情報は奴隷や悪徳商人からわずかな活動資金で買ったものであり確かなものではない。
上級区以上に入った事のある人間は誰もおらず、真偽など確かめようもない。つまりどうしようもなく閉ざされた道の僅かな隙間から漏れる光明は、向こうから開かれるその扉からしか得られないのだ。
「大会本選は予選の2日後……場所は上級区にある闘技場だ。イシハラが予選を通過すれば【警備兵】は上級区出入り可能になるわけだが……ムセン嬢達はお友達を助ける前にここの『鍵』をどうにかして欲しい」
ド=ゴーンは広げた王都全景の地図を指さす、かなり大雑把な地図のそこには丸印が記されていた。
「この場所は何ですか?」
「地下下水道の入口だ、上級職の奴等が出した生活排水を【底辺地区の最下層】へと流す仕組みが造られていると聞いている場所だが普段は鍵がかけられてるらしい」
「ニャ……酷いにゃ……最下層の人達は汚れた水で生活してるってことかニャ……」
「だが、つまりは繋がっていて侵入できるということだな?」
「あぁそうさ、あたぃらは最下層から侵入して鍵が開くのを待つ。鍵を開けて合流したのちに城のある【特別区】へ入る手筈にかかるわけさ」
「つまりオレらぁ入って鍵を探して開けるだけか、楽勝じゃねーか」
「だが、鍵を持ってるのは恐らく上級区を巡回している区の【衛兵隊長】だ。上級区を任される衛兵はそこらの騎士と実力は遜色ねえと聞いている、はっきり言うがお前らが残り日数で【職業展開】を会得しねぇと勝ち目はゼロだ。どんな方法で鍵を得るかは現場判断に任せるがな」
「「「「…………」」」」
上級区侵入を任されるムセン、猫娘、ヤンキー、爺さんはそれを聞いて真剣とも不安とも取れる顔をする。見かねたシャベリューが声をかけた。
「あっしも嬢さん達と行きますぜ、荷車を引く地竜まで検問に引っ掛かるなんてこたぁねぇでしょう?」
「ああ、馬や地竜は貴族の脚にも必要だからな」
「頼りにならねぇたぁ思いやすが……これでも野良魔物くれぇなら退治できやすからね。乗り掛かった舟っつーことで協力させてもらいやすよ」
「……シャベリューさん……ありがとうございます。とても心強いです」
「それで合流した後は? お前らレジスタンスメンバーはどう動くつもりだ?」
「まずはあたぃが城への侵入経路を探す、整い次第……突入。あんたら警備兵たちはそのままお友達を助け出して地下下水道まで戻って脱出しな」
「……え? ツバキさん達はどうするのですか?」
「お忘れか? 某らはレジスタンス……改革を成さずして帰る場所は無し。だがお主らには関係の無い事……」
「あぁ、そうだ。そっから先はこの国の住民である俺らの仕事だ、安心しな。用が済んだら脱出して近くの村で祝杯だ、おめぇらは先に準備しといてくれ」
ふむ、救出から先は完全に別行動ーーもとい離別するわけだ。俺達はシューズを救えればそれでいいし、レジスタンス達は城へのルートが拓かれればそれでOK。
そこから先、『何をするか』はこいつらの勝手だ。聞かない方がいいだろうし話す気もないだろう、聞いてしまえば反対意見が出て揉めることになるだろうしな。今は内部で二分してる時間などない、特にムセンなんかは100%反対する。
理想論でこの強大な現実がひっくり返るわけはない、血を流さない改革など起きはしないのだ。
と、独白するのを堪(こら)える。危ない危ない、口に出したらこいつらの覚悟が台無しだ。
大まかな作戦発表を終え、皆はチーム毎に別れ個々の役割を頭に叩き込んでいる。
俺とド=ゴーンはそれを眺めながら話しをする。
「首をとるつもりか、玉砕自爆するつもりか、どっちなんだ? これは単なる興味本位の質問だ」
「……ばっはっはっ、珍しく無粋じゃねえか。お前さんのことはたった数日の間でも良ーくわかったつもりだったが……俺の見込み違いか?」
「気になったことは知らなきゃ気が済まない性質もあるからな、その時の気分次第だ」
「なるほど、だったら寝て忘れるこった。明日になりゃあ気にならなくなるさ」
「ガキ達はどうするつもりだ? どんな手段を取るにせよ、一日で国が変わるわけはない。悪くなる可能性だってある、放っておくつもりか?」
「安心しな、ミチュリんは地下下水道に残す。あいつには夢があるからな、たとえ俺らが死んでも国が変わるその日まで諦めたりはしねぇ。ガキ共の事だって面倒見てくれるだろう。お前さんが引き取ってくれるだろうと思ってたりもするんだがな?」
「大層な見込み違いだな」
「ばっはっはっ! 明日になりゃあ気が変わるさ!」
こいつらがただの話し合いをする為に行くわけじゃないと確信する。
考え違いでなければーーいや、その先は言うまい。
「感謝するぜイシハラ、お前さんが来なけりゃあジリ貧だった……何も成せないままに終わっていた。きっと職業神とやらが望みを与えてくれたんだろう、この千載一遇の好機を逃すわけにゃあいかねぇんだ。残り時間は少ねぇが……それまで宜しく頼むぜ」
「わかった」
それだけ返事をしてこの場を去る。
俺がジャンプ主人公じゃなくて良かったなド=ゴーン。正義感溢れる熱血漢だったら邪魔されてるところだったぞ。
この話は墓場まで持っていってやるさ、安心しろ。
ま、気分屋だから明日にはどうなるか保証はしないけどな。
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