一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀

文字の大きさ
上 下
161 / 207
第二章第一節裏 ムセン・アイコムside

sidestory2.ムセンとシューズ其の② ※ムセン視点

しおりを挟む

「ムセンちゃんっ!」「シューズさんっ!!」

 私とシューズさんはお互いに視認し合い、叫び合いました。
 シューズさんが顔を覗かせたその船は港に並ぶ船の中でも一際大きく、私は星を見上げるかのように上を向きます。
 数多くの大砲、幾重にも張られたマスト、船体には神々しい彫刻かと見紛うような美しい模様。
 帆には何かの象徴のような紋様がまるでその帆船の存在意義を主張するかのように描いてあります。
 王の象徴でもある冠のようなものを剣と盾、そして鳥の翼で守るような絵図。
 その下には文字が刻まれていて、その紋様とこの帆船がどの国に帰属するものなのかを堂々と表していました。
 私は文字を読み上げすぐに理解します。
 もう既に、ことは簡単にはいかなくなっていることを。

「……『イルムンストレア』……っ!!」

 シューズさんの生まれた国、そして、今まさにシューズさんが戻ろうとしている国。
 常勝大国と呼ばれ、ウルベリオンよりも遥かに広大な面積を有している軍事国家。
 ウルベリオンやシュヴァルトハイムのように議会や法の元で王が国を支配する体制とは違い、絶対的な王によって全てが支配されているという絶対君主体制の国。
 その根本は【絶対的職業差よる信仰】に依るものでウルベリオンとは比べものにならない程の職業差別が蔓延していると聞いています。
 
「何故この国に……!? シューズさんが国に戻ろうとするこのタイミングで……!?」

 シューズさんが迎えを寄越すように連絡を取ったのでしょうか?
 しかしスズさんや他の方の話ではシューズさんは御家族から縁切りをされ国を追われたと聞きました。
 だとするならば何故それに応じてくれたのでしょうか? 
 本当はシューズさんを気にかけていてくれたのでしょうか?

「っ!!? ムセンアイコムっ!!!」

 そんな疑問を頭に浮かべていると、突然ツリーさんが私を呼ぶ声が耳に響きました。
 私はその声により周囲の異変に気づきます。
 
 周囲、というよりその異変は私のすぐ傍、気づいた時には私のすぐ隣にいました。
 黒色のフードを目深に被り、禍々しい面、闇に溶けそうな黒装束。

「えっ……?」

 一見、視界にしっかりと捉えなければその人はまるでウテンさんと見間違えるほどに服装などが似ていました。
 しかし、それがよく似た全くの別人であると思い知らされます。
 その方は私の眼に刺さりそうなほどな位置に短刀を近づけ、冷ややかな、とても人が出せるとは思えないほどの殺意を私に向けます。

 そして何のためらいもなく、私が思考を巡らせ始めた瞬間に、向けた短刀をそのまま私の眼に刺さんと動きました。

「ぴいっ!? ムセン様っ!!」「ムセンアイコムっ!!!」

ドンッ!!

「痛いっ迂闊っ!?」

 ぴぃさんとツリーさんの叫びと、何かが何かにぶつかったような音と、聞き覚えのある声とセリフが同時に巻き起こり一瞬何が何だかわからなくなって私は混乱します。
 その光景を目の前で目撃していても情報量が多すぎて把握できませんでした。
 しかし、冷静に整理してみると目の前で起きた出来事は凄くシンプルで単純でした。
 私は、私を攻撃しようとした謎の人物に向かってどこからか跳んできてぶつかり私を守ってくれた、見知った仲のその方に尋ねます。

「ウテンさんっ!! 来ていたのですか!?」
「痛い……当たり前、ムセンアイコム。それが仕事。今私が跳んでこなければ貴女は死んでた、私のお尻アタックで防いだ」
「嘘ですよね!? 絶対もっと格好良く登場しようとして失敗しましたよね!? でもありがとうございます!」

 ウテンさんのお尻に激突された謎の人物はそのままお尻に敷かれて倒れこんで動きませんでした。
 しかし、『それ』は突然地面に呑み込まれたかのように消えて無くなります。
 
「えっ!? な……何ですかこれっ!!」
「……『転身』、いや、『陰転身』。自分の陰を動かす高等技術……私もまだ会得してない」

 すると、地面に呑み込まれた陰はそれと同時に四方八方から出現して私とウテンさんを取り囲みました。
 
「きゃははっ、ぜつめーいっ!」
「「!!」」

 それと同時に甲高い女性の声が何処からともなく聞こえます、しかしその姿は港のどこにも見えません。
 私とウテンさんを包囲したその陰はジリジリとこちらへ迫ってきます。
 その外側にいたツリーさんとぴぃさんはその様子を見てすぐにこちらへと向かってきます。

スタッ……!

「やめなさい『彼岸』、こちらから手を出すなと言ったでしょう? まだ周りには人がいるのよ」
「きゃはは、はーい。すみませんネット様~」

 しかし、空から突然現れた新たな登場人物にツリーさん達は阻まれます。
 一瞬、シューズさんと見間違えるほどに良く似たその方は船の甲板を見上げながら言います。

「シューズを奥の部屋へ連れていきなさい、決して油断しないよう兵に念押しして。『彼岸』、貴女はそのままその二人を見張りなさい」
「きゃははっ、わっかりました~」

 この陰の支配者である『彼岸』と呼ばれる謎の人物は陰達を一定距離に保ったままその動きを止めたようです。
 そして、その『彼岸』という人物に『ネット』と呼ばれた長い水色髪の人物はツリーさんを視界に捉えたのちに相対します。

「お初にお目にかかります、貴女はかの『花劇一座』の大元であるシャルロット一族の公女、そして騎士でもあるツリー・フォン・シャルロットさんですね。お会いできて光栄です、私は守護貴族セーフ家が二女のセーフ・T・ネットと申します。以後お見知り置きを」

 私はツリーさんに対し丁寧に自己紹介をするその方を知っています。
 セーフ・T・ネットさん。
 ウテンさんから聞いたシューズさんの過去のお話に密接に関わるシューズさんの実姉で、善き理解者であったと認識しています。

「あら、こちらこそ光栄ですわ。守護貴族の功績はわたくしも聞き及んでいますから。しかし、これは一体どういうおつもりですの? そちらにいるのはわたくしの友人ですのよ? 何の権限を以て我が国の領民に手を出そうとしていますの?」
「はい、重々理解しています。しかし貴女のご友人とやらは我が国所有のガレオン船に不用意に近づき、ましてや技術を使い罪人である妹に何かを伝えようとしていました。政治的意図は無いにせよ、罪人への布告の一切を我々は認めていません。故に阻止させて頂いただけです」
「………罪人……?」

 しかし、そんな私の認識を一切覆(くつがえ)すかのようにネットさんはあまりにも冷たく言い放ちます。

「ええ、妹……シューズは恣意的に我が国を危機に晒した挙げ句に逃亡を計った事により、殺人、逃亡及び国家転覆罪により極刑……つまりは死罪です」
 
 

 
 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。  アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。  自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。  天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。  その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?  初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。  最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!  果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?  目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...