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第二章第一節裏 ムセン・アイコムside
sidestory2.ムセンとシューズ其の② ※ムセン視点
しおりを挟む「ムセンちゃんっ!」「シューズさんっ!!」
私とシューズさんはお互いに視認し合い、叫び合いました。
シューズさんが顔を覗かせたその船は港に並ぶ船の中でも一際大きく、私は星を見上げるかのように上を向きます。
数多くの大砲、幾重にも張られたマスト、船体には神々しい彫刻かと見紛うような美しい模様。
帆には何かの象徴のような紋様がまるでその帆船の存在意義を主張するかのように描いてあります。
王の象徴でもある冠のようなものを剣と盾、そして鳥の翼で守るような絵図。
その下には文字が刻まれていて、その紋様とこの帆船がどの国に帰属するものなのかを堂々と表していました。
私は文字を読み上げすぐに理解します。
もう既に、ことは簡単にはいかなくなっていることを。
「……『イルムンストレア』……っ!!」
シューズさんの生まれた国、そして、今まさにシューズさんが戻ろうとしている国。
常勝大国と呼ばれ、ウルベリオンよりも遥かに広大な面積を有している軍事国家。
ウルベリオンやシュヴァルトハイムのように議会や法の元で王が国を支配する体制とは違い、絶対的な王によって全てが支配されているという絶対君主体制の国。
その根本は【絶対的職業差よる信仰】に依るものでウルベリオンとは比べものにならない程の職業差別が蔓延していると聞いています。
「何故この国に……!? シューズさんが国に戻ろうとするこのタイミングで……!?」
シューズさんが迎えを寄越すように連絡を取ったのでしょうか?
しかしスズさんや他の方の話ではシューズさんは御家族から縁切りをされ国を追われたと聞きました。
だとするならば何故それに応じてくれたのでしょうか?
本当はシューズさんを気にかけていてくれたのでしょうか?
「っ!!? ムセンアイコムっ!!!」
そんな疑問を頭に浮かべていると、突然ツリーさんが私を呼ぶ声が耳に響きました。
私はその声により周囲の異変に気づきます。
周囲、というよりその異変は私のすぐ傍、気づいた時には私のすぐ隣にいました。
黒色のフードを目深に被り、禍々しい面、闇に溶けそうな黒装束。
「えっ……?」
一見、視界にしっかりと捉えなければその人はまるでウテンさんと見間違えるほどに服装などが似ていました。
しかし、それがよく似た全くの別人であると思い知らされます。
その方は私の眼に刺さりそうなほどな位置に短刀を近づけ、冷ややかな、とても人が出せるとは思えないほどの殺意を私に向けます。
そして何のためらいもなく、私が思考を巡らせ始めた瞬間に、向けた短刀をそのまま私の眼に刺さんと動きました。
「ぴいっ!? ムセン様っ!!」「ムセンアイコムっ!!!」
ドンッ!!
「痛いっ迂闊っ!?」
ぴぃさんとツリーさんの叫びと、何かが何かにぶつかったような音と、聞き覚えのある声とセリフが同時に巻き起こり一瞬何が何だかわからなくなって私は混乱します。
その光景を目の前で目撃していても情報量が多すぎて把握できませんでした。
しかし、冷静に整理してみると目の前で起きた出来事は凄くシンプルで単純でした。
私は、私を攻撃しようとした謎の人物に向かってどこからか跳んできてぶつかり私を守ってくれた、見知った仲のその方に尋ねます。
「ウテンさんっ!! 来ていたのですか!?」
「痛い……当たり前、ムセンアイコム。それが仕事。今私が跳んでこなければ貴女は死んでた、私のお尻アタックで防いだ」
「嘘ですよね!? 絶対もっと格好良く登場しようとして失敗しましたよね!? でもありがとうございます!」
ウテンさんのお尻に激突された謎の人物はそのままお尻に敷かれて倒れこんで動きませんでした。
しかし、『それ』は突然地面に呑み込まれたかのように消えて無くなります。
「えっ!? な……何ですかこれっ!!」
「……『転身』、いや、『陰転身』。自分の陰を動かす高等技術……私もまだ会得してない」
すると、地面に呑み込まれた陰はそれと同時に四方八方から出現して私とウテンさんを取り囲みました。
「きゃははっ、ぜつめーいっ!」
「「!!」」
それと同時に甲高い女性の声が何処からともなく聞こえます、しかしその姿は港のどこにも見えません。
私とウテンさんを包囲したその陰はジリジリとこちらへ迫ってきます。
その外側にいたツリーさんとぴぃさんはその様子を見てすぐにこちらへと向かってきます。
スタッ……!
「やめなさい『彼岸』、こちらから手を出すなと言ったでしょう? まだ周りには人がいるのよ」
「きゃはは、はーい。すみませんネット様~」
しかし、空から突然現れた新たな登場人物にツリーさん達は阻まれます。
一瞬、シューズさんと見間違えるほどに良く似たその方は船の甲板を見上げながら言います。
「シューズを奥の部屋へ連れていきなさい、決して油断しないよう兵に念押しして。『彼岸』、貴女はそのままその二人を見張りなさい」
「きゃははっ、わっかりました~」
この陰の支配者である『彼岸』と呼ばれる謎の人物は陰達を一定距離に保ったままその動きを止めたようです。
そして、その『彼岸』という人物に『ネット』と呼ばれた長い水色髪の人物はツリーさんを視界に捉えたのちに相対します。
「お初にお目にかかります、貴女はかの『花劇一座』の大元であるシャルロット一族の公女、そして騎士でもあるツリー・フォン・シャルロットさんですね。お会いできて光栄です、私は守護貴族セーフ家が二女のセーフ・T・ネットと申します。以後お見知り置きを」
私はツリーさんに対し丁寧に自己紹介をするその方を知っています。
セーフ・T・ネットさん。
ウテンさんから聞いたシューズさんの過去のお話に密接に関わるシューズさんの実姉で、善き理解者であったと認識しています。
「あら、こちらこそ光栄ですわ。守護貴族の功績はわたくしも聞き及んでいますから。しかし、これは一体どういうおつもりですの? そちらにいるのはわたくしの友人ですのよ? 何の権限を以て我が国の領民に手を出そうとしていますの?」
「はい、重々理解しています。しかし貴女のご友人とやらは我が国所有のガレオン船に不用意に近づき、ましてや技術を使い罪人である妹に何かを伝えようとしていました。政治的意図は無いにせよ、罪人への布告の一切を我々は認めていません。故に阻止させて頂いただけです」
「………罪人……?」
しかし、そんな私の認識を一切覆(くつがえ)すかのようにネットさんはあまりにも冷たく言い放ちます。
「ええ、妹……シューズは恣意的に我が国を危機に晒した挙げ句に逃亡を計った事により、殺人、逃亡及び国家転覆罪により極刑……つまりは死罪です」
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