上 下
120 / 207
第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始

■番外編.魔王と勇者 ※【魔王】視点

しおりを挟む


 アタシは噂の警備兵【イシハラナツイ】を一目見るためウルベリオン王都に滞在し、情報を集めた。

「イシハラナツイは国の騎士に選ばれて、自分の家と領土を得た。場所は馬車で二日ほど北東に行ったところにあるソース平原奥地ね」

 王都は止む事のない活気に溢れかえっている。
 まったく、今まさにここにアンタ達を滅ぼしうる存在がいるというのに呑気なものね。どいつもこいつもとるにたらない、木っ端な存在に職業。お気楽に生きて、お気楽に仕事して、お気楽に家族を作り、お気楽に死んでいくのね。

(何て忌々しいのかしら。いっそ、今すぐ全員滅してやろうかしらね)

 まぁ今のアタシは十歳かそこらくらいのただの人間に変身してるからわからないでしょうけど。万が一にでもアタシが魔王ってばれちゃったらだるいからね。
 それに面倒だから今この王都を滅ぼすなんて事はしないけど。アタシは前魔王、パパとは違うのよ。

 さ、それよりもさっさとイシハラのもとへ行きましょう。

【魔王技術『四次元法打ち破り(テレポテーション)』】


----------------------------

<騎士イシハラの領地.『炭鉱の町.カッタルイ町』>

「ふぅ」

 高々と構える山脈の麓にある町のような場所にアタシは降り立つ。

 炭鉱の町ね、なんか男臭いというか何というか。
 あちこちから岩を削る音だとか木材を加工するような音が聞こえてきたやかましいわ。町全体が職人と言われるやつらの仕事場みたいになっている感じね。

「な、何だぁ!? ガキがいきなり空から降ってきたぞ!?」

(ん?)

 後ろから変な声がする、テレポテーションで移動したところを見られたのかしら? ま、どーでもいいけど。

「マクア……あんた疲れてんじゃないのん? アタシももうヘトヘトなんだけど……」
「嘘じゃねーって! それに俺の事は今までどおり『勇者』って呼べっつってんだろリィラ!!」
「だってアンタは今勇者じゃないのん……一時『勇者』のステータスと肩書きは封印されてるのん……アタシもだけど……この忌々しい呪いの『技術』を解かないと何もできないのん……」
「わぁーってるよ! だから炭鉱採掘なんて奴隷職の仕事をしてやってんだろ! くそっ! ウルベリオン王……今に見てろよ! ぜってぇ『勇者』の称号を取り戻して復讐してやる……あの警備兵のオッサンにもな!」

 ギャーギャーうるさいやつらね。けど、こいつ勇者とか何とか言ってるけど……本物かしら?

 そんなわけないわよね。なんかみすぼらしい格好してるし、土まみれだし。
 まぁちょうどいいわ、ここに住んでるやつなら自分の町の領主の館がどこにあるかくらい知ってるわよね。

 イシハラは今どこにいるのかこいつらに聞いてみましょうか。

「ねぇ、アンタ達。イシハラナツイっていう騎士が今どこにいるか知らない?」
「あぁ!? 今俺にそのムカつく名前を聞かせるんじゃねえよ! 誰だこのガキ!」
「アンタらに名乗る名前なんかないわ、それより質問に答えなさい。知ってるの? 知らないの?」
「なんてエラそうなガキなのん……マクア、躾してやった方がいいのん!」
「あぁ、普段なら女のガキを痛めつけるような趣味はねぇけど今は疲れて虫の居どころが悪いんだ! 俺が誰だかお仕置きして教えてやらなきゃな!」


【炭鉱作業員技術『力まかせ』】
------------------------------------------
・力仕事系統の作業員が使える技術。素手の攻撃力を2倍にして力任せに殴りかかる。
------------------------------------------

 赤髪の男はお仕置きと称してアタシに殴りかかってきた。

 一体どうなってるの、人間どもの倫理観って。
 見た目十歳かそこらのかよわき少女に普通殴りかかってくる?

 それほどこーゆー職業に就いてるやつらには余裕がないのかしら?
 余裕っていうかモラルの問題か、変に仕事で筋力だけをつけたやつらにありがちな事ね。
 気だけが大きくなって自信だけが先行するのよね、ろくに戦闘技術もないくせに。

 アタシの魔物配下にもいたわね、確か『オーク』とかいう種族だったっけ? 腕力だけはズバ抜けてるからって偉そうにしてるやつが。
 つまり人間も魔物も特性や職業、生き方によって人格が形成されたりねじ曲がったりする。

(なるほどね、多少勉強になったわ)

【魔王技術『全属性を孕む怠惰なる一撃』】

ペチッ

「っ! うわああああああぁぁぁぁぁぁっ…………」

 アタシは赤髪男の攻撃を適当に避け、平手打ちをして赤髪男を吹き飛ばした。
 人間って軽いわね、小突いただけで山の方まで吹っ飛んでったわ。

「ひっ……!? ひぃぃぃぃぃっ!?」

 傍らにいた女は悲鳴をあげて尻餅をついた。
 あーもー面倒くさいわ、好奇心は猫をも殺すって本当ね。キャリアを連れてくるんだったわ……ま、いっか。
 ここらへんを適当に探せば家なんてすぐ見つかるでしょ。

 けど、その前に【魔王】としての仕事も適当にやっておかなきゃね。面倒くさいけど、一応体裁も保たなきゃ。

 アタシは尻餅をついた女に声をかけた。

「ねぇ、アンタ。その『呪い』……解いたげよっか?」
「ひっ……?な、なんなのんっアンタ!?」

「アタシ? アタシ魔王。魔王【サマエル】、よろしく。」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。 しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。 魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。 狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。 男はこの状況で生き延びることができるのか───? 大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。 ☆ 第1話~第7話 赤ん坊時代 第8話~第25話 少年時代 第26話~第?話 成人時代 ☆ webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました! 本当にありがとうございます!!! そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦) ♡Thanks♡ イラスト→@ゆお様 あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ! ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの…… 読んで貰えると嬉しいです!

追放された貴族の子息はダンジョンマスターとなりハーレムライフを満喫中

佐原
ファンタジー
追放された貴族が力を蓄えて好き放題に生きる。 ある時は馬鹿な貴族をやっつけたり、ある時は隠れて生きる魔族を救ったり、ある時は悪魔と婚約したりと何かと問題は降りかかるがいつも前向きに楽しくやってます。追放した父?そんなの知らんよ、母さん達から疎まれているし、今頃、俺が夜中に討伐していた魔物に殺されているかもね。 俺は沢山の可愛くて美人な婚約者達と仲良くしてるから邪魔しないでくれ

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...