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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始
九十二.大地さんしょう
しおりを挟む<ウルベリオン王都.北門入口>
俺達はある程度必要な道具を買い込んで馬車に積んだ。
シューズの出身国へは陸路で約5日間、国をまたぎ、港町へ行ってそこから海路で3日ほど、そこから更に5日間というほどの長旅だ。
スズキさん、エミリもいそいそと準備を進めている。
しかし、スズキさんはともかくとしてまだ七歳かそこらのガキをそんな長旅につれ回して良いものだろうか?
仮に親の許可を得ていたところで誘拐事案になったりしないのか?
「今さら何を言ってるなのよ、話だけ聞いて放っておくなんてアタシには出来ないなのよ」
「別にいいけど。母親にはちゃんと言ったのか?」
「…………い……言った……なのよ!」
エミリは目をキョロキョロさせながら言った。ふむ、許可を得たのならいいさ。
「……………すみません……イシハラさん……エミリさんのお母さんにも話そうとしたのですが……エミリさんが話さなくていい、と……」
何だ、という事は許可を得ていないのか。
それじゃあ連れていけないな、依頼人としてならともかく余所さまのガキを勝手に連れ回すわけにはいかない。ましてやこんな世界だ、魔物があちこちにいる以上どんな危険があるかわからないからな。
「で……でも……アタシだってシューズを助けたいなのよ! 役に立たないかもしれないけど……」
「エーミーリー?」
荷積みをしていた俺達の後ろからエミリを呼ぶ声がかかる。エミリは明らかに動揺した様子でおそるおそる振り返った。
「………お……お母さん……なのよ……」
そこには食事会で会ったエミリ母のリムルと、もう一人、スズキさんの奥さん、シャイナさんが険しく微笑みながら立っていた。
まるで漫画みたいに怒りの地鳴りみたいな擬音が聞こえてきそうな感じで。
「シャ……シャイナ…………」
「あなたもよ、何も告げずに一体どこへ行こうとしているのかしら?妻と娘を置いて」
スズキさんも家族に言ってないのか。
「わ……私はぁ皆でまた集まりゅという約束を守るために……」
「それは立派な事ですけど、あなたはまだ職に就いていないでしょう? まずはそこからきちんとするのがあなたの努めではないのですか?」
「エミリ、あんたもよ。あんたがついて行った所で何ができるの? みんなに迷惑をかけるだけでしょう? この前勝手に依頼をした事は済んだ事だからもういいけど、もう隠し事はしないって約束したよね?」
エミリは母親に、スズキさんは奥さんに叱られている。
ふむ、やはり母は強いな。この様子じゃあ一緒に行く事はできなさそうだ。
「けど……けどなのよ……シューズにも恩返ししたいなのよ……シューズは今きっと苦しんでるなのよ………」
「なら、その想いだけを二人に連れて行ってもらいなさい。そして、あなたはシューズちゃんがここに帰ってきた時に笑顔で迎えてあげるの。その居場所を守るのも立派な手助けの方法よ」
「…………シューズが帰ってきた時に……?」
「そう、イシハラ君とムセンちゃんを信じて。二人ならきっとシューズちゃんを助けてあげられるでしょ?その時に帰りを待っていてくれる人がいるのはとても嬉しいものよ」
「……………」
「そうですよ、あなた。あなたは年長者なのですからどんと構えて待っていなければならないんですよ。あなた達が迎えてあげないで他に誰がそれを出来るのですか」
「……………」
そして優しい。まるで母なる海のように、いや、母なんだけど。
一つ気になるんだけど『母なる海』『母なる大地』ってあるけど『母なる空』とはあまり聞かない。
地球の事もマザーアースとか言ったりするよな?
そうなると残った空は何なる空なのだろうか? 母親以外の家族を当てはめるとすると、やはり次は父だろうか?
『父なる空』
では大気圏もそうなのだろうか。
『父なる大気圏』
母に追い込まれた肩身の狭い父の唯一の逃げ場所は空や大気圏しかないよ、という暗喩だろうか?
じゃあ子供はどうだ? 他に残っている場所と言えば深海しかないが。
『深海なる子供』
「ごめんなさい、お二人は悪くないんです……私が安易にお二人に声をかけてしまったからなんです……ごめんなさい……」
ムセンが二人の海(母)に平謝りする。
大気圏(スズキさん)と深海(エミリ)はしょんぼりしていた。
「で、でもなのよっ! イシハラとムセンは異界人で外の国の事を何も知らないなのよ! 心配なのよ……」
「…そうですね……他に誰か協力していただければいいんですが……こちらの世界の方がいいですね……」
大気圏と深海は心配そうにしている。
それもそうだ、パーティー的に回復役をムセンに当てはめるならば必然的に魔物退治するのは俺しかいない。
冗談じゃないな、俺は見守り役がいいんだ。
うっかりしていたな、誰か他に連れていくか。適任なのはヴァイオレットだな、一度館に戻るか。
「はっ! 話は聞いたですわっ!! 仕方ねぇですわねっ! 軍師ジャンヌ様から頼まれたから仕方なく同行するのですわよっ!? 高貴なる貴族であり騎士序列6位!【ツリー・ネイチャーセイバー】が案内役を買って出てやりますですわっ! 大いに感謝するのですわよっ!」
「ムセン、一度館に戻るぞ」
「はぅぅぅんっ!! む、無視するんじゃありませんことよっ! イシハラナツイ!!」
なんかうるさいのが来た。こいつ、確か【ですわ騎士】だったな。
俺は確かですわ騎士とかいう女に適当に挨拶した。
「ああ、久しぶり。俺をかばって死んだのかと思ってたのに奇跡的に生きてたんだな、良かった。ゆっくり療養してろ」
「い、いつわたくしがそんな事したのですのっ?! 適当な事言って煙に巻こうとするんじゃありません事よっ!! わたくしは軍師ジャンヌ様に『イシハラ君の旅の補助をしろ』と頼まれたんですのよっ!ありがたく思うのですわねっ!」
「いや、いらない。帰れ」
「……………ぅっ……ぅっ………ぅぇぇぇんっ……大人しく言う事を聞いてですの~~~っ!」
なんか泣き出して駄々をこねだした。
これまた新たなタイプの面倒くさいやつだ、この世界面倒なやつしかいない。
「……あんたがそれを言うな、なのよ……」
「イシハラさんっ! せっかく協力してくださるんですからっ! 可哀想ですよっ! えっと……あの……ツリーさん、宜しくお願いします。力を貸してください」
ムセンが間をとりもつと、ですわ騎士はドヤ顔をして立ち直った。
「ふ……ふん! 最初からそう言えばいいんですわっ! 警備兵ごときのためにわたくしが動く事を感謝するのですわねっ! ふふっ!」
「………やっぱり可哀想じゃない気がしてきました……」
そして、街の奥からもう一人。これまた見慣れた顔がやって来た、あいつも来る気じゃないだろうな。
「ふっ、その通りだ。私もジャンヌ様から頼まれてな、微力ながら協力させてもらおう。ナツイ」
そう言って、【だもん騎士】は蒼い髪をかきあげた。
「ナツイ達の行こうとしている国へ向かう道中には少々厄介な場所が間々ある、ナツイ達だけでは消耗戦になりかねない。私とツリーが手を貸す、急いだ方が良いし人手は必要だろう?」
「アクアさん、急いだ方が良いって……どういう事ですか?」
「件(くだん)の少女……セーフ・T・シューズはまだ魔物が活発的になる以前にこの国へ来たと聞く。だから放浪もできたのだろうが……ここ数年で『技術』を持つ魔物は急速に数を増した、一人では危険という意味だ。早く追い付いた方がいいだろう」
確かにな、すぐに追い付いて話をしてしまえばそれで済むわけだ。
シューズが消えてから約2日、追い付けないほどの距離にはなっていないはずだ。
「なら、さっさと行くか。シューズを追いかけに」
こうして俺にとってこの世界で初めての冒険譚が幕を開けた。
仕事をしながらだらだらする計画が段々と変な方向へ向かってしまったな。まぁ仕方あるまい、人生は山あり谷ありだ。
これが終わったら、俺、もう、空気になるんだ。
☆PT(パーティー)メンバー
------------------------------------------
・『警備兵』『騎士』 イシハラ ナツイ
・『警備兵』 ムセン・アイコム
・『だもん騎士』 アクア・マリンセイバー
・『ですわ騎士』 ツリー・ネイチャーセイバー
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