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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始
八十三.神経は死んでない
しおりを挟む<ウルベリオン王都貴族区.『ワークショップ』エリア>
俺達は【テレポート】を修得できる職業を探して宝ジャンヌの勧めで『ワークショップ』が並ぶエリアに来ていた。
貴族区には色々な技術の粋(すい)を集めたような綺麗な店が建ち並ぶ、下にある城下町とは造りからしてえらい違いだ。
「このようなエリアがあったんですね……やはり王都は広いです。まだまだ見ていない場所も沢山あるのでしょうね」
「ウルベリオン王都には多種族の方が集まりますし……ウルベリオン王は諸国の中でも『親和の王』と呼ばれ慕われて支持を集めていますから。応じて都も拡大している、と聞いています。ナツイ様とアイコム様が召喚されてからおよそひとつきほどなのでございますよね?まだまだ発見できていない場所もあるかと感じます。……かく言うわたしも外の都の事は全く知らないので……ドキドキがおさえられない、と強く判ぜざるを得ません……!」
「私もですっ! エメラルドさんっ、色々見て回りましょうね!」
ムセンとエメラルドは仲良くはしゃいでいる。ダブルトラブルメイカーは呑気なものだな。
「いー君もトラブルメイカーの一人、というか貴方が一番問題を起こす。もう騎士の一人なんだから大人しくしてて」
建物の隙間の陰からウテンが話しかけてきた。
まったく身に覚えがないので俺は無視した。
歩いていると何やら前方が騒がしい。
「ぅぇーい! 俺についてこいよ! ここらへんは俺の縄張りだから! おい! 平民クラスは近寄るなよ! 俺の服が汚れるだろ!」
前からクソガキの集団みたいなのがぞろぞろとこっちにやって来る。なんか小綺麗な学校の制服みたいなのを着ている、海外の貴族の坊っちゃん共が着るようなやつだ。
見たところ中学生くらいか、修学旅行かなんかか?
「チュールズ君、あまり騒いじゃ駄目だよぉ……」
「うるせーなミント!! 幼なじみだからって弱小貴族が俺に口出しすんなっていつも言ってんだろ! ぅえーい!」
特に騒がしいのが列を率いて先頭に立っている金髪マッシュルーム坊やだ、見るからにバカでクソガキだ。
道を塞いで馬鹿みたいに偉そうに歩き、周囲を牽制している。何故か通行人はそのガキに道を譲るようにして避けていた。
偉い貴族の坊っちゃんかなにかか?
どうでもいいが、昨今、館の使用人やら何やら新キャラが出過ぎだ。
「もう新キャラを覚える気はないのであいつはモブキノコとしよう!! 新キャラ出過ぎ!!」
と、イライラした俺は咆哮した。
「イシハラさん! 声が大きいですよ!? わざとですよね!? 聞こえるように叫ばないでください!」
「何だとぉ!? このオッサン!! 俺が誰かわかってんのか!?」
モブキノコは俺の叫びが聞こえたようで俺に突っかかってきた。
「公道で馬鹿みたいに騒ぐな、お前は誰でもないし単なる社会の歯車にすぎない。その年頃になると『自分は特別』なんて中二病にかかって人とは違う事をする俺カッコいいなんて思い始めるだろうがカッコよくないし迷惑なだけだ。お前は人とは違わない、ただの一般人だ。周囲を威嚇したいのか好きな女子に騒いでアピールしたいのか知らないが道で騒ぐのは恥ずかしい事だと覚えておくんだな。きっと周りは呆れて恥ずかしい思いをしているぞ? やりたいなら迷惑をかけない自分の部屋でやれ。まぁたぶん一人じゃできないんだよな。周りに味方がいてお前は初めて人に喧嘩を売れるタイプだもんなお前は。凄くカッコ悪いぞ? 一人じゃイキがれないなら静かにしておく事だ。公道はお前だけの道じゃない。わかったか? 金色キノコ」
「「「「ブフッ……!」」」」
俺はモブキノコを黙らせるために長文をめっちゃ早口で吐いた。
列を為した修学旅行生達から吹き出すような笑いが聞こえた。
「……………」
モブキノコは顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
言われて嫌なら最初から静かに歩いてろよバカキノコが。
「イシハラさんっ! 可哀想ですよっ! 本当の事だとしても大人げ無さすぎですっ!」
「ナツイ様っ、事実とはいえもう少し柔らかな言い方をしてあげてください、と思います。相手はまだ子供なのですから……」
女子二人から注意された。
迷惑なガキがいたら注意してやるのが大人の役目だろうに。
「こらーっ! またよそ様に迷惑かけてっ! ごめんねぇウチの生徒が何かしたっ!?」
また何か騒々しい新キャラがやって来た。
発言から察するにガキ共を引率している教師かなんかか。
長い髪を綺麗に結い、眼鏡をかけ、スーツっぽいのを来た理知的そうな女だ。
「ごめんねぇ、貴族の坊っちゃんってのはホント扱いずらくてさぁ!こらっ! 騒ぐなって言ったでしょ! まぁー子供だからさっ! これくらいで大目に見てよ? ねっ?」
一見すると清楚で賢そうで大人しそうな女教師は馴れ馴れしく俺の肩をぽんぽん叩いた。
何だこいつ、見た目のイメージと真逆すぎるだろ。
まぁどうでもいいか。
これ以上新キャラの名前を覚える気はない、俺は無視してワークショップへ向かった。
「あっ、イシハラさんっ! 待ってくださいよっ!」
「ナツイ様っ!」
………
………………
……………………
<戦闘技術系ワークショップ『神経は死んでない』>
俺達は数多く並ぶ店の中から主に戦闘技術総合を体験できるというワークショップに入った。
戦闘技術(バトルスキル)総合系ワークショップの他には農作生産技術(アイテムスキル)系、鍛治細工技術(カスタムスキル)系、文字書詠唱技術(スペルスキル)系、他。など色々あって迷ったがどれにもテレポートが含まれていないよう気がしたので戦闘(バトル)系にした。
俺達は受付に話をする。
「騎士イシハラ様ですね? ジャンヌ様より伺っております。どうぞ中へお通りください」
宝ジャンヌが話を通していたようで、すんなりと奥の扉に案内された。ついさっき決めてすぐここにきたのにいつの間に話を通したんだか。
まぁ時間がかからないのは有難い。
俺達は通路奥の変な模様の扉を開いた。
「…………………え?」
扉を開いた先にあった光景にムセンとエメラルドは固まる。
無理もない、そこには室内の風景はなく。
風が通り抜ける草原、澄み渡る青い空、うまい空気。
そして。
「あーっ!! さっきの人! なんでなんで!? 奇遇だねぇ!」
「げっ……?! あのオッサンっ……!?」
もう二度と再会する事はないであろうと思っていた修学旅行生達──さっきのキノコモブ達がいた。
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