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序章第三節 石原鳴月維、王都警備開始
六十一.オレンジカメレオン
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<城下.ウルベリオン商店通り>
俺とムセンは城下に降りて被害を受けた場所を見てまわった。もう既に復興作業を開始しているようだ、手際がいいな。あちこちから木材を削る音や釘を打つ音が聞こえてくる。
「ここはあまり被害がないようですね、よかったです」
「そうだな」
「……イシハラさんが守ったんですよ、本当に……あなたは凄い人です」
「俺だけじゃない、騎士も門兵も警備兵もお前らも全員が力を尽くしたからこの程度で済んだ。全員の力だ」
「……イシハラさん……」
歩いていると前方を工事の作業員らしきやつらが通る。木材を運んでいるようだ。
「はぁ……はぁ……も……もういやなのん……何でアタシがこんな目に合わないといけないのん……キャリアのやつのせいなのん……」
「ひぃ……ひぃ……も…もうやだ……こいつらについてくんじゃなかった…」
「………はぁ……はぁ……なんか言ったか……リュウジン………あ!……てめぇ……てめぇのせいでこんな目に遭ってんのに……デートとはいい身分じゃねぇか……はぁ……はぁ…」
「イシハラさんは……この先どうするんですか? もし……チキュウに帰る方法が見つかったら……帰るのですか?」
「気分による」
「その……残されてきた方々に会いたいとかはないんですか? ご両親とか……恋人とか……」
「ないな。もう親元からは自立してるし、何よりあっちでは死んだんだから今更帰っても会えないだろう。それに恋人なぞいない」
「そ、そうなんですかっ! お付き合いしている方はいないのですねっ!」
「普通に流れるままだらだら暮らして、ここで死ぬ事になったらここで死ぬ。それだけだ。川の流れのように」
「じゃ……じゃあっ……ここでその……ご結婚とかも……するかもしれないんですか……?」
「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。信じるかどうかはあなた次第」
「てめぇだよオッサン! 普通に無視してんじゃねえぞ!」
何だ? さっきから何かに声をかけられている気がする。
振り返ってみると泥にまみれたさっき見た作業員達が立っていた。
赤いツンツン髪、ブス、長髪チャラ男。復興作業する建築関係の作業員か、精が出るな。
けどなんか既視感がある気がする。
「何ですか? 今デート中です邪魔です」
ムセンが変わりに対応した。何故か初対面のはずの作業員達を睨んでいる。しかしこいつも中々言うようになってきたな。
「ぐっ……!! オッサン! もう一度勝負しろ! 今度は負けねぇ!」
赤髪の作業員はなんかわけわかんない事を言ってきた。何で俺が見知らぬやつと勝負しなきゃならんのだ。
【天職の大工技術『心の大金槌(ピコピコハンマー)』】
------------------------------------------⭐主観によるMEMO
・職業【大工】の一流技術っぽい。精神的にだけダメージを与えるハンマーを発現させる。叩かれると屈辱を感じ、怒りを覚えるっぽい。
------------------------------------------
ゴチンッ!
「痛ぇ!!」
「バカヤローこの野郎おめーらなにサボってんだ!? あぁ!? 元勇者か何かしらねーがイキってんじゃねーぞてめえ!」
因縁をつけてきた赤髪作業員達をボウズ頭にタオルを巻いたおっさんが空中に出現させた巨大な金槌で殴った。あれは親方か何かか。
親方が部下を金槌で殴るなんて今の御時世だとコンプライアンス的に問題になりそうだが、あれは魔法みたいなもんだしファンタジー世界のことだから。うむ、何も問題ないな。
「すいやせんね御仁方……こいつらがデートの邪魔したみたいで……って国を救った英雄さんじゃねえですか! てめーら何してくれてんだ!」
【天職の大工技術『心の大金槌(ピコピコハンマー)』】
ゴチンッ!
「ってーなジジイ!!」
「あぁ!? 何だその口の聞き方ぁ!! しつけが必要だな! かかってこいこの野郎!!」
何かケンカが始まった。
まったく街中でなんて迷惑なやつらだ、赤髪の作業員は親方にボコボコにされている。
「イシハラさん、行きましょう」
「そうだな」
俺達はケンカを無視して散歩の続きをした。
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その後も俺達は復興作業を見てまわった。中には既に店を再開してるやつらもいて、その商魂の逞しさには感心させられた。
俺達の顔は皆に知られており、色んなやつらから声をかけられた。
理容師だのエルフの配達人だの服の仕立て人だの。色んな職業のやつらがいるもんだ。
まぁこいつらには二度と出会う事はないから覚える必要もないだろう。
「そんなのわからないじゃないですか……あ、イシハラさんっ。以前皆で行った高台に行ってみませんか? あそこならゆっくり話せそうですから」
ふむ、スズキさんに教えられて行った公園だか庭園みたいなとこか。確かにあそこならベンチもあるし、ゆっくりできるだろう。
俺達は貴族街にある高台へ向かった。
--------------
「わぁ……いつ見ても素晴らしい景色ですね、気のせいかもしれませんが……以前よりもっと景色が澄んだように見えます」
ムセンは高台から景色を見てそう言った。
気のせいではないだろう、街の人間達が前よりも晴れやかな顔をして活気づいているように見える。ここから顔まで見えないけど、遠くから響く復興作業の音がそれを物語っている。
「イシハラさん、お聞きしたい事があるんですけど……何故、この国を……皆さんを守ろうと思ったんですか?」
ムセンは突然わけわかんない事を言いはじめた。何の話だ一体?
「勇者の名を知らしめる事で他諸国や魔王軍から国や皆さんを守ろうとしたじゃないですか」
?? いつ俺がそんな事したんだ? 時差ボケでもしてるのかこいつ。
「何ですか時差ボケって! では……何故、魔物を退けたのは勇者などと嘘をついたのですか?」
なんだ、その話か。
「何でもくそもない。警備兵が国を救ったなんて話が広まってみろ。きっと警備兵の仕事が倍増する。俺はそこまで忙しく働きたくないんだ」
警備兵が有名になる→警備兵需要が高まる→仕事が忙しくなる→残業や休日出勤が増える→嫌だ。
「毎日暮らしていけるだけの仕事と給料があり、なおかつ定時で帰る。休日は休む。それが俺のだらだら計画だ」
もちろん、あの勇者が魔王軍の強さを知ってもう諦めるなんて言ってたらこの計画は破綻していたけど。魔王軍の強い魔物達を勇者に担当してもらいつつ、雑魚魔物におびやかされている場所を警備兵が守る。そのためには勇者には働いてもらわないと困るのだ。
それをあの王にはしてやられた。思い切りこの国を救ったのは警備兵と宣言されてしまった。
まぁ仕方ない。国の舵取りをするのは王だしな。
とりあえず明日、王にあったら警備兵の仕事を無駄に増やさないように掛け合ってみよう。
「……………」
ムセンは呆れたような、納得したようなわけわかんない顔をしている。何だ? 何か文句があるのか?
「……ふふ、そんなことだろうと思いました。冷静に考えると……国を救おうなんてどう考えてもイシハラさんらしくないなって思いましたから」
なんか軽くディスられてる気がする。
「本当にあなたは……いつでもぶれなくて変わらないお人ですね、イシハラさん。私、新しい目標が出来たんです。何だと思いますか?」
「何だ突然? そんなのわかるわけないだ」
そう言おうとした瞬間。
ムセンは突然、俺に向かって跳んできて抱きつき。
唇を重ねてきた。
何やってんだこいつ? あまりに突然でまったく予知できなかった。
「…………っは………こ、これはっ……あのっ……じっ人口呼吸ですっ……」
「何言ってんだお前」
「すっ……少しは動揺してくださいよっ! ……ぅう……全然動揺してないです……むしろ……私の方がわけわからなくなっちゃいました……」
ムセンは顔を真っ赤にしている。時刻は夕暮れ刻になり、立ち上るオレンジ色の光が辺りを暖色に染める。
ムセンの真っ赤な顔はカメレオンのように夕暮れと同化し、消えていった。
「消えていった。じゃないですよっ! そんなわけないじゃないですか!……あ、あれ? イシハラさん……イシハラさんも耳が……」
「気のせいだ、帰るぞ」
まったく、何を考えているのか知らないが突然にもほどがあるな。
ところでムセンの目標って何だったんだ?
ま、いいか。どうせこいつとは長い付き合いになりそうだ。いつかわかるだろう。
俺は早足で帰路についた。
「速いっ!? いつになく速いですよっ!? ぅ……ぅええんっ待ってくださいぃ~……私、諦めませんから! 必ず……貴方をいつか目一杯驚かせてみせますからっ! 私が一番最初にっ!」
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