78 / 207
序章第三節 石原鳴月維、王都警備開始
六十.バナナ
しおりを挟む-魔王軍との戦争から二日後-
<貴族街・ホテル『バナナ』>
「Zzzz」
「イシハラさん、起きてください? 朝食の用意ができましたよ?」
「至上の喜び」
俺はムセンの言葉にとびおきた。ふむ、ぴったり八時間睡眠。
やはり昨日は寝すぎたな、体を仕事モードにしておかないと朝が辛くなるからさっさと起きよう。
「いー君、おはよう」
「イシハラ君、おはよー」
起きた瞬間にウテンが窓の外から現れ、シューズも部屋に入ってきた。
「おはよう」
「……何故当たり前のようにイシハラさんの起床と同時に姿を現すのですか貴女達は……」
「ムセン・アイコムこそいー君と同じ部屋で寝るなんて不潔、ふしだら」
「えー、ムセンちゃん同じ部屋だったのー? ずるいよー」
「違いますよっ! 私は朝食の準備をしてイシハラさんを起こしに来たんです! 適当な事言わないでくださいウテンさん!」
朝からやかましいな。まぁ八時間睡眠をして起きたら極上の朝食だから気分がいい。許してやろう。
俺達はムセンの作った朝食を食すためにホテルに内設されているレストランへ向かった。
--------------
「イシハラちゃんご一行様、お目覚めはいかかでちょうか?『執事が天職』……【セバス】ちゃんです」
貸し切り状態のレストランで俺達を迎えたのは幼女の執事だった。
王のはからいにより、昨日から甲斐甲斐しく俺達の世話をしてくれている幼女だ。冗談みたいな名前だし冗談みたいな話だが、この幼女、中々に仕事のできる幼女執事だ。
「とても目覚めのいい朝だ、気分がいい」
「それはそれは……ちなみにわたちもムセンちゃんの調理を手伝い、給仕や食材の手配までちまちた。執事が天職、セバスちゃんです」
「はい、ありがとうございますセバスさん」
「ちがいまち、セバスちゃんです」
「わかった、朝食を摂るから喋るな」
「かちこまりまちた、では、ごゆるりとおくつろぎくだちゃい」
俺達は優雅に朝食を摂る。
「だけど……本当にこんな待遇を受けていいんですかね? なにか申し訳ないような……」
「気にしないで、ムセン・アイコム。あなた達は国を救ったんだから当然の権利。本当なら城に招待したかったって王は言ってたけど、今色々とバタバタしてるからホテルで我慢して」
「いえ……とても素敵なホテルですしそれはいいんですけど……」
そう、俺達は魔王軍との戦争に勝利してから英雄扱いされて5日間ほどの休暇をもらった。休暇もクソも俺達はまだ働きもしていないんだけど。
まぁとにかく警備兵試験は無事合格したし、仕事が始まる前に英気を養えってことで貴族街にあるホテルに泊まっていた。
「お金も払わずに……全て無料だなんて逆に気を遣ってしまいます……」
「勇者の私財で賄(まかな)ってるから平気。ゆっくり羽を伸ばして」
とても美味。やはりムセンの作る料理は一級品だ。
「あの……イシハラさん、食事中にすみませんが……後で少しお話があるんです。………二人きりで……お時間いただけますか……?」
「かまわん」
ムセンがひそひそと俺に耳打ちした。
極上の朝食をつくってもらったんだ、何より今日は特に何もないオフだ。明日は王に城に呼ばれてるしな、何の用だか知らないが。
昨日は一日中寝てたし、残りの日にちは仕事の準備が必要だ。
今日はムセンに付き合ってやるか。
すると、扉の向こうからやかましい足音が多く聞こえる。一人や二人の足音の数じゃない。団体客でも来たのか? 貸し切りのはずなのに。
レストランの扉が勢いよく開く。
「イシハラ! ムセン! シューズ! なのよ! 無事でよかったなのよ!」
「こら! エミリ! ちゃんとご挨拶なさい!……初めまして、娘が大変お世話になりました。エミリの母のリムル・ハーネストです」
エミリとその母親がやって来た。どうやらムセンがウテン経由で王に頼んで招待したらしい。
「ひ……ひぇぇ……こ、こんな高そうなホテル入れませぇん……」
「あなた、しっかりして下さい。皆さん……この度は主人がお世話になりました。シャイナ・ロウと言います。こっちは娘のリィナ・ロウです」
「初めまして! お兄ちゃんお姉ちゃん!」
続いてスズキさん一家が入ってきた。奥さんと娘もいるようだ。
「あら、賑やかね。アクア、お目当てのイシハラ君来てるわよ」
「ジャ……ジャンヌ様! 私は別にナツイ目的じゃ……」
なんか宝ジャンヌとだもん騎士まで来た。誰だこいつら呼んだの。
「え……えぇぇ……何故私めなんかがこんな場所に……であります……場違いではありませんか……?」
「アマクダリさん達警備責任者はこれからの国の防衛関連の会議で忙しいんだろ、代表で選ばれたんだからいいじゃねえか」
「そうよぉハクテちゃん。あなたも立派に仕事をやり遂げたんだから胸を張りなさい」
門兵のおっさん、職業案内所の婆さん、なんか知らん見た事ないやつまで来た。
「ぴいっ! 賑やかだっぴ! 御主人様御主人様! 楽しいっぴね!」
「やかましいだけだ、俺は食事中に騒がしいのが世界で一番嫌いなんだ」
「ナツイ! わ、私に……好きって言った事の説明をしなさい! 聞くまで帰らないもん!」
「えー、騎士さん。イシハラ君はアタシと結婚の約束したよー」
「初めまして! 貴方に会えて光栄であります! 私めはハクテと申します!」
「いー君、頬に料理がついてる。とってあげる」
「よぉ兄ちゃん、随分モテモテじゃねぇか! 本命は誰なんだ?」
「イシハラ! そうなのよ! そこらへんをハッキリさせるなのよ!」
「えー? なになにー? お兄ちゃんの好きなひとー? ききたーい♪」
「スズ・キイチ・ロウさんねぇ、あなたは精神力があるから前職の経験も活かして色々と向いてる職業があるわよぉ……それでも警備兵がいいのぉ?」
「……はい、約束しましたから……いずれまた……皆で集まろうと」
「あら、貴女ももしかしてイシハラ君のこと……ふふ、アクアもライバルが多いわね。私もイシハラ君狙っちゃおうかしら」
「だっ! だめですっ! 貴女みたいな綺麗でカッコいい方にはきっと他にお似合いの方がいますっ! だからイシハラさんはだめです!」
各々が料理を摂りながら好き勝手に騒ぐ。マジでうるさい。まったく、俺はパーリーピーポーじゃないんだ。ここはパーティー会場でもバーベキュー会場でもないんだぞ。
まぁ年に一回くらいなら別にかまわんか。
レストランはいつまでも賑わっている。さて、俺は満腹になったし散歩でも行くか。
「ムセン、行くぞ」
「い、いいんですか?……はい、お供させていただきます」
俺とムセンはレストランを抜け出した。
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
田村涼は異世界で物乞いを始めた。
イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界の親が過保護過ぎて最強
みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。
しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。
魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。
狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。
男はこの状況で生き延びることができるのか───?
大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。
☆
第1話~第7話 赤ん坊時代
第8話~第25話 少年時代
第26話~第?話 成人時代
☆
webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました!
本当にありがとうございます!!!
そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦)
♡Thanks♡
イラスト→@ゆお様
あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ!
ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの……
読んで貰えると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる