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序章第三節 石原鳴月維、王都警備開始
■番外編五十四裏 『私にできること』※ムセン視点
しおりを挟む「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」
今にも体力が無くなりそうな私は膝から崩れ落ちます。イシハラさんの方はどうなったんでしょうか……あの獅子のような魔物との戦闘をまだ続けているのでしょうか……。戦いながら遠目に行ってしまったのでよく見えません。
凄く気になりますし、本当はイシハラさんの方へ向かいたい。けど、ケガしている人々を放っておけない。
私は予備用の銃を使い、回復技術を使用します。
(まだっ……! まだまだっ……!)
『サンシャイン・キュアライト』
パァァァァァァァァァァァッ……
「傷が治ってく……あの警備兵の子……なんで……あんなに……あそこまでして……」
「ママー! 痛いの治ったよー! ふしぎだねー!」
「……あそこにいる……お姉ちゃんがね、痛いのとんでけってしてくれたのよ」
「そうなんだー! ありがとーお姉ちゃん!……でも、お姉ちゃんがいたそうだよ? いたいの? どうして?」
「………」
『サンシャイン・キュアライト』
ビキビキビキッ……!
「うぁぁぁぁっ!!……はぁっ!……はぁっ!」
ついに全身に鈍い痛みが走るようになりました。もう、腕もあがりません。
けど、だから何なんですか。
『サンシャイン・キュアライト』
ポタッ……ポタッ……
「! 貴女っ……血がっ……」
「……え……?」
私は住民の方の視線を受け、違和感のある鼻を触ります。
(鼻から……血が……)
いつの間にか……息苦しさが消えて……代わりに鼻から少し出血をしていました。それが何を意味するのか私は直感します。
(これ以上技術を使用すれば、本当に……)
「ぅうっ……」
「うぁぁぁぁっ!! 痛いよぉぉっ!」
「た……助けて……」
「………」
目前にはまだ苦しんでいる方々がいます。
(……私……私にできる事は……)
考えるまでもありませんよね? イシハラさん。貴方から教わりました。
『すぐ諦めるから何もできない、考えても無駄なら前へ進め』
『壁を乗り越えようとする、そう思える事自体が強さ』
ありがとう、イシハラさん。私、少し強くなれたでしょうか? 貴方についていきたくて、ついていけたから、こんな事までできるようになりました。
以前の私だったら、ただおろおろして……きっと何もできずに、何もせずに魔物に殺されていました。
貴方に会えてよかった。
伝えたい事がありましたけど……もう言えそうにないです。
パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……
「!! ダメっ! ムセン・アイコムっ!!」
私を魔物から守ってくれていたウテンさんの声がかすかに聞こえます。もう……視界も暗いのでよく見えませんけど……ありがとうございますウテンさん。
これが最後の力……諦めたんじゃありませんよ?
せめてありったけで……ここにいる人達の命を繋ぎます。
私の命を以(もっ)て。
(さようなら、シューズさん、スズさん、エミリさん、ぴぃさん)
イシハラさん。
【大神官技術『奇跡(ヒール)』】
すると、私の回復技術とは違う……更に温かく優しい光が私を包み込みました。私は何が起こったのかわからず呆気にとられます。
「…………………え?」
「よく頑張りましたね、ムセン・アイコム様。人々をお救いくださり、ありがとうございます」
「「「だ……大神官様っ!!!」」」
技術を使おうとして倒れ込んだ私を……女神様が支えてくれました。
いえ、神話の女神様のようにお綺麗ですけど……このお方は……試験場でもお会いした大神官様……。
(この技術は……大神官様の……)
「マルグリーテ、まだケガしている方々の治療を。私はムセン・アイコム様の治療をします」
「わかりました! 大神官様!」
「だい……しんかんさま……」
「貴女様に敬意を表します……と、言いたいところですが些(いささ)か無茶をしすぎですよ。あと一歩遅ければ手遅れでした。貴女はもう少し自愛すべきです、貴女がいなくなれば悲しまれる方もいるでしょう」
【大神官技術『奇跡(ヒール)』】
私の体力はすぐに回復し、痛みも出血も嘘のようになくなります。
(あたたかい……私は……このような安心感を皆さんに与えてあげられたでしょうか……?)
「勿論ですよ、ムセン・アイコム様」
そう言って大神官様は微笑みました。
(あれ? 声に出てましたか……? イシハラさんの癖がうつっちゃいましたかね……?)
それがなんだかおかしくて……私も一緒に微笑みました。
「…………………ちっ、仕方ないのん。あのブス……死んでくれれば良かったのに……いいところで邪魔されたのん、もう出ていくしかないのん」
すると視界の端から一人言のような女の子の呟くような声が聞こえた後、その声の主と思われる方が突然現れました。
見覚えのある姿、その女の子はまるで注目を集めるように大声で名乗ります。
バッ
「もう安心なのん! 異界の【白の魔導師】リィラ・ホワイティアがあんた達のケガを治してやるのんっ!」
「…………あの人……」
私達と住民達の間に見た事のある方が割って入ります。こんな事言ってはあれなんですけど……私の凄く苦手とする女の子。初対面からそれはもう最低な出会いかたをして……少し恐怖の念すら感じている……あの勇者一行の一人。
(ケガの治療に精一杯でしたから気付きませんでしたが……もしかしてあの最低な勇者一行がここに……?)
私は喜んでいいのか微妙な思いで成り行きを見守ります。
(あの人達の性格はともかくとして……とにかくこれで人々は助かるんですよね? しかし、また聞いた事のない職業を聞きましたが……)
「異界の白……魔導師……?」
「はい、リィラ・ホワイティア様もかつて異界召喚にて呼び出された御方なのです。リィラ様の世界では魔法という力を主としていたそうで……その中で回復や治癒魔法を使う者を『白の魔導師』と呼んでいたそうです」
「………あの人も……異界から喚ばれた方だったのですか……」
【異界の白魔導師技術『ショック療法(ケアル)』】
「いたっ!! いてぇっ!! 何だこれ!?」
「リ……リィラ様っ……重傷の方もいらっしゃいますのでもう少し優しく……っ!」
白魔導師の女の子が杖を振るうと白い雷みたいなものが人々に降り注ぎます。それを受けた人々は痛みに顔を歪めながら白魔導師さんに懇願しています。
攻撃でもしているのかと思った私は白魔導師さんに言います。
「なっ、何をしてるんですかあなたは!?」
「アタシの魔法を知らない異界のブスが口出しするななのん。痛みを伴う治療行為だのん、アンタのとってつけた技術なんかよりよっぽど治りが早いのん」
「そ……そうなんですか? 大神官様……?」
「………はい、リィラ様が治癒技術に長けているのは確かです……」
(……大神官様が仰るならそうなんでしょうけど……確かに治癒や治療には痛みというのはつきものかもしれませんけど……)
白魔導師さんは子供にも白い雷を浴びせます。
「ぅわぁぁぁぁんっ! 痛いよぉぉぉっ!」
「うるさいのんっクソガキがっ! 黙って大人しくしてろってのん!」
白魔導師さんは幼い子の治療にも容赦なく、泣いた子供に罵声を浴びせます。私はたまらずその子のもとに駆け寄って抱きしめます。
「何やってるんですかっ!! 安心を与えるのも治療行為をする者の責務ではないんですかっ!! 怖がらせてどうするんですかっ!」
「あぁんっ!? っとにケンカ売んのが好きみたいねんアンタ! 上等だのんっ! 叩きのめしてやるからかかってこいのんっ!」
「ぅあああああんっ!! うああああああっん!!」
私の腕の中で子供は更に大泣きします。
「おらどうした!? かかってこいのんっ! ケンカ売るくせにすぐビビるブスがっ! また涙目になってるのんっ! すぐに何も言えなくなるのはわかってるのんっ!!」
「………」
(……確かに……私はすぐに怖じ気づいちゃって何も言えなくなってしまいますけどっ……! それでもっ……!)
「ぅぁぁぁぁぁんっ! ぅぁぁぁぁぁんっ!」
(……いえ、今はそんな事やってる場合ではありませんね……悔しいですけど……この子を落ちつかせてあげなくちゃ……)
ギュゥッ……
「……大丈夫ですからね、もう痛いのは無くなっちゃいますから……」
私は子供を思いきり抱きしめて技術を使います。
『キュアライト』
「ぐすっ……ぐすっ…………うん……ぐすっ……ありがとう……お姉ちゃん……」
「はっ! 結局何も言えないのんっ! ガキはもう治したってのにバカだのんっ! これに懲りたらそこでずっと子守りでもしてろのんっ! 二度とアタシにツラ見せるなってのんっ!」
「……………」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
周りにいた方々はいつの間にか静かに私達のやりとりを暗い顔をしながら見つめていました。
「あぁん? アンタらも何か文句あるのん!? ケガを治してやったんだからもっと喜べってのん! ……まぁいいのん、これでアンタらにはまた『貸し』ができたのん。魔物退治が終わったらまた勇者一行を丁重にもてなすのんっ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はい……ありがとうございます……リィラ様……」
人々は愛想笑いのような顔をして白魔導師さんに頭を下げます。
(……本当に……この国の……いえ、この世界の人々は……職業による信仰にここまで取り憑かれて……)
でも……私もそれに何も言えません。魔王という世界を脅かす存在に唯一対抗しうる勇者という職業。人々が世界の平和を望んでいるのなら……勇者という職業に頼るしかないんですから……。
異世界から来た私が……それに口出しして……世界を危機にさらすわけにはいかないんですから。
「……? どうしたのお姉ちゃん……?おなかいたいの……?」
「……」
(悔しいなぁ……私も……イシハラさんみたいになれたらなぁ……)
イシハラさんなら……きっと魔王なんかも倒せたりして……勇者一行なんかも簡単に黙らせられるのに。何で私には……そんな力がないんだろう。
(だめですね……また…挫けそう……イシハラさんがいないと……私……やっぱり何もできない……)
私がそう思ったその時、街全体に響き渡るような爆発音が聞こえました。
「「!!?」」
音の方へ向くと火柱が立ち昇っています。
(あれは……あの獅子の魔物の技術っ……!)
「イシハラさっ「「勇者っ!!!」」
爆発音を聞いた白魔導師さんは私の叫びを遮(さえぎ)り、住民の治療を中断してすぐに音の方へ向かいました。
「ムセン・アイコム様、こちらは私に任せて貴女も向かってください。きっと……イシハラ様にも貴女の御力が必要です」
「大神官様……っ! はいっ!」
「こっち、ムセン・アイコム。ついてきて」
私はウテンさんに先導されてイシハラさんのもとへ向かいます。
(……弱音を吐くのも……考えるのも後っ……! イシハラさんっ! 無事でいてくださいっ!)
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