45 / 207
序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始
四十一.100人乗っても、大分、丈夫。
しおりを挟むさて、木々に隠れているのも飽きるし何とかしないといけないな。
「イシハラさん、何か……打開する策はありますか…?」
ムセンは相変わらず俺にくっつきながら上目遣いで言う。
「1.このまま帰る。2.ここで寝る。3.とりあえず食事にする、どれがいい?」
「何ですかそのお買い物帰りみたいな選択肢!? スナイパーに狙われてる状況での選択肢じゃありませんよ!?」
まったく、うるさい奴だ。
「じゃあ4.誰かが注意をひいて誰かが倒してくる。それくらいしかないだろう」
「…………確かにそうですね……今のところスナイパーがどこから狙撃しているかもわかりません。もしかしたら位置を変えてしまうかもしれませんし……」
「イシハラ君、さっきエミリちゃんに張った『技術』って全員にできる?」
「無理だな、『安全領域』はどうやらまだ『一人』にしか張れないらしい」
「そっかー、じゃあみんなで倒しに行くのは無理だねー…」
「きゃぁっ!?」
また銃声が聞こえ、ムセンが驚く。銃弾は俺達の隠れている木に命中したようだ、枝葉が少し揺れた。
「ぴぃっ! 見てたのにどこから撃ってきたか全くわからないっぴ!もしかしたら何かの『技術』を使って姿を隠してるかもしれないぴ!」
「ど……どんな技術なのよ!?」
「わからないっぴ! けど魔物には色々な種類の生態系がいるっぴ!その生態に応じて産まれつきに【生態特性技術】ってのを持ってるやつがいるっぴ! 蜘蛛だったら『糸を産み出す』とか蛇の魔物だったら『熱を感知する』とか……産まれつきの『特性技術』を使うやつらがいるっぴ! もしかしたらこの魔物は姿を隠せるような魔物かもしれないっぴ!」
なるほど、じゃあカメレオンみたいな魔物もいるかもしれない。姿を隠しながら狙撃する。そうだとすると滅茶苦茶メンドい、どちゃくそしんどい、メーン。
「……みんな……花は諦めるなのよ、このまま引き返して帰れば狙われずに……戦わずに済むなのよ……」
「……!……それはっ……! でもエミリさんっ……お花をプレゼントするって……!」
「………そうだけど……みんなの命には代えられないなのよ……大丈夫なのよ……何とか誤魔化してみんなは試験に合格できるように言っておくなのよ、だから大丈夫なのよ。だって……今日が最後じゃないんだから」
「………エミリさん……」
「……みんなには……警備兵になってほしいなのよ……一人も死なないで……また、みんなでここに来たいなのよ……だから」
はぁ、まったく阿保らしいな。仕方ない、じゃあ行くとするか。
「「イ……イシハラさん(君)っ!?」」
「!?」
俺は木の影から出て湖に歩く。みんなが驚きながら俺を呼び止めようとした時、再度銃弾が飛んできたがギリギリで俺は避ける。飛んでくる方向は大体わかったが、やはり姿は全く見えないな。
「何やってるなのよイシハラ!! やめるなのよ! いくらあんたでも危険すぎるなのよ!」
「ぴぃっ! そうだっぴ御主人様! 頭や心臓に直撃したら御主人様でも死んじゃうっぴよ!」
「イシハラさんっ!! 戻ってください!」
「断る」
「イシハラ……何で……」
「さっき言っただろ、ガキはガキらしく我が儘放題で育てばいい。魔物なんぞのために我が儘を諦めるなんてアホらしい」
「でもっ……! でもあんたが死んだらっ……何の意味もないなのよ!」
「大丈夫だろ、たぶん。鳥、今のうちに狙撃手の位置を掴め。飛んで探せるだろうお前なら」
「ぴぃっ! 承知しましたっぴ! 御主人様! 死なないでぴぃ!」
「……イシハラっ……!」
「これが俺達の『仕事』だ、依頼人はおとなしく依頼が叶うのを待ってればいい、俺達が『警備』してやるさ」
「……イシハラさん……………っ!」
すると誰かが木の陰から飛び出して俺の所へ走ってきた。
「ムセン君!?」
ムセンだった。ムセンは俺の後ろに張り付いている。
「何やってんだお前?」
「わっ……私もっ……! 戦いますっ! 怖いですけどっ……足手纏いにならないようっ! イシハラさんが負傷したら私がすぐに治しますっ! イシハラさんが倒れたら私が盾になりますっ! だからっ……! 私も一緒に行きますっ!」
俺の背後に張り付きムセンは言う。服を掴むその手は恐怖に震えている、が、しっかりと俺にしがみつく。
ムセン。
邪魔だ。
が、頑張ろうというその意志はわかった。面倒だが、まとめて警備してやるか。
そして、銃弾は再度俺達を何度も襲う。その音は遠くから聞こえているはずなのに俺達の耳元で鳴っているかのようだ。
「ひっ!……っ!」
「ついてくるならしっかり隠れておけ」
「……はいっ!」
中々に状況は厳しいな、だが、鳥が狙撃手を見つけるまで耐えるしかないか。
「すだれおじさん、エミリちゃんの事、お願いするよー」
「……! 任せてください!」
「シューズまで! 何する気なのよ!?」
「誰かが倒しに行かなきゃいけないんでしょ? アタシがやるよー、このままじゃイシハラ君達危ないし」
「一人で行くなのよ!? そっちだって危険かもしれないなのよ!?」
「うん、でもアタシしかいないしー。エミリちゃんを一人にするわけにも連れていくわけにもいかないからねー」
「……シューズッ……!」
銃弾を掻い潜(くぐ)り、俺達はなるべく長く引き付けられるように見易い位置へ移動する。
「イシハラさんっ……平気ですかっ!?」
「大丈夫だ、腹は減ったが」
「本当に平気ですかっ!? 無茶だけはしないでくださいね!? イシハラさんが死んでしまったらっ……私っ……嫌ですからっ!」
お前は俺の母親か。
「いいからお前は自分の心配をしてろ」
「はいっ!」
返事をしたムセンの目にもう怯えや恐怖といった感情は無いように思えた。こいつはどんどん成長していくな。そして、強い。怖がりながらも色々な事に立ち向かっている。大したものだ。
なんて事を考えていると鳥の羽ばたき音みたいなのが近づいてきた。
「ご……御主人様御主人様っ!!」
鳥が血相を変えて戻ってきたのだ。何かあったのだろうか?狙撃手が見つかったのか?
「どうした? 狙撃手を見つけたのか?」
「ぴ! それが………もう大丈夫なんだぴ!」
「「?」」
俺もムセンも、鳥の意味不明な言葉にはてなマークが浮かぶ。大丈夫って何がだ?
だいぶ、じょうぶ(大分、丈夫)で大丈夫って事か?
なるほど、『もう大分、丈夫なんだぴ』。それなら意味が通じるな、冴え渡る推理。
「絶対違いますよ? 通じませんし!……ぴぃさん、もう大丈夫とは一体……?……そういえば……先ほどから銃弾が飛んできませんね……どういう事でしょうか……?」
「いしはらなつい、いー君」
突然、俺を呼ぶ声がした。女の声だ、ムセンの物真似か?
「違いますよっ! 何故私がこの状況でモノマネするんですか!! しかも誰のモノマネですか!」
ムセンから流れるようなツッコミが飛んでくる。こいつ、お笑い芸人でも目指せばいいのに。
すると声のした方から俺達に向け何かが投げられた。
「きゃあっ!?」
見てみるとそれは何かカメレオンっぽい魔物だった。何かピクピク痙攣しながら泡を吹いている。何だこいつ? もしかしたらこいつが『狙撃手』か?
「そう、仕留めた」
湖の方から声がした。声の主は……湖の上を歩いていた。
俺は声の主の女に返答する。
「何だ、『お前』だったのか」
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説


神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~
波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。
アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。
自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。
天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。
その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?
初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。
最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?
目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる