29 / 207
序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始
二十七.だもん
しおりを挟む漫画特有の怒りの擬音が聞こえてきそうなくらい12位騎士は怒り顔をしていた。
ちょっと本音を笑って口にしたくらいで短気なやつだなこいつ。だったらこっちにも偉そうにしなきゃいいのに。イキり散らしていいのはイキり散らされる覚悟のあるやつだけだ。
「……ふっ、ふふふふっ……貴様……今、何と口にした? 何故笑った?」
しかしこれ程怒るってことはやっぱり気にしてるんだな、12位を。
「お、おい! お前っ! アクア様の気になさっている事を! 一体何者だ不届き者がっ!」
横にいた連れのモブ兵士が俺の胸ぐらを掴んだ。
「ああ、俺は警備兵志望のイシハラだ。よろしく」
とりあえず自己紹介をした。
「…………け、警備兵………?………はっ……ははははっ! そうかっ! お前例の異界人か! 身の程知らずとはまさにこの事だ!」
「まったくだ、勇者様達から聞いたとおりだな。随分なめた態度の反抗者らしい」
なんだ、俺の事を知っていたのか。だったら自己紹介するんじゃなかった、エネルギーの無駄遣いだ。
「無知なる異界人ならば仕方あるまい。教えておいてやろう、このお方は王国騎士団の【アクア・マリンセイバー】様。そして、この村の領主も任されている。警備兵ごときが反抗していい相手ではない、わかったのなら今すぐ非礼を詫びて頭を下げろ。今から寛大な心で許して頂けるだろう」
「そうだ、本来ならば即刻処刑であるがアクア様はとても優しいお方だ。詫びさえすれば例え罪人であろうが温情の心を与えてくださるんだ、幸運だったな警備兵。さぁ、地に頭をつけろ」
なんかモブ兵士二人がごちゃごちゃ言っている。滅茶苦茶な話になってるな、俺達は罪人じゃない。故に頭を下げる必要もない。
十二位騎士は偉そうにどや顔しながら、俺が頭を下げるのを待っているようだ。
「断る、俺達は罪人じゃないし。他に用がないなら俺達はもう行くぞ」
俺は十二位騎士達を無視して買い出しに行く事にした。
「ちょっ! 待ってなのよ! イシハラっ!」
「ィ、イシハラ君っ! 置いていかないでくださぃぃ~」
エミリとスズキさんもとことこついてきた。十二位騎士達は呆然といった感じでこちらを見ていたが特に何もしてこなかった。
「な、何てやつだ! 無礼にも程があるぞ!」
「ア、アクア様! い、いいのですか!? 行かせてしまって!」
「……………ふっ、ふふふふっ」
遠くなっても聞こえるくらいに騒いでいる、迷惑な奴等だ。
----------------------------
〈道具屋・『ハッピーサマー』〉
俺達は村にあった道具屋に来た。
何か草とか薬とか色々売っている、地球では売り物に見えないようなものも売っていて見ていて飽きないな。この草なんか雑草にしか見えないが、『体力を回復します』とか紙に書いてある。いわゆる薬草か、RPGっぽくて楽しい。
「………イシハラ……さっきのはまずいなのよ……今すぐ謝ってきた方が良いのよ……」
「何がだ?」
「さっきの騎士なのよ……王国騎士はみんなじゃないけど……横柄なやつが多いのよ……ほぼ全員が騎士の【適職】か【天職】の才を持ってて…だからエリート意識……ていうのか……自尊心の塊みたいなやつらだらけなのよ……」
まぁそれは召喚された時に見てきたからわかる。この国は王が甘いせいか勇者どころか騎士や兵士までもが我が儘放題に育っているようだ。今は魔王とやらとの戦争中で国のために騎士達が必要なのはわかるが質や性格も考慮しないと。
そうなると上に立つ者が優しいってのも考えものだな。
「だから何だ? 別に何も悪い事なんかしてないのに謝る必要なんかない。俺は悪くもないのに謝るのが一番嫌いなんだ」
「けどっ……なのよ……それでこの村の人達が八つ当たりみたいな事をされたらどうするなのよっ!?」
「そんな事知るか。だとしたら八つ当たりなんかする騎士が悪い。故に俺には何も関係ない」
「……っ!」
「ま……まぁまぁ……イシハラ君もエミリ君もその辺で……」
「……みんなが……あんたみたいに……のうのうと……マイペースに……強く生きられるわけじゃないなのよ……とばっちりを食らうあたし達みたいな……弱者はどうすればいいなのよ……」
「強く生きるようにすればいいだけだろ、力がなくても、金がなくても、心はみんな持ってるんだ」
「……? 心……? 意味が……わからないなのよ……」
「わからないならいい。説明がめんどい。それにあの騎士なら大丈夫だろ」
「……? イシハラ君、それは一体どういう……」
話をしていると店の扉が壁に叩きつけられたような音がした。見てみるとさっきの村人Aが何か血相を変えて店に飛び込んできていた。
「おい! 店主逃げろ! 魔物達が村に攻めこんでくる!」
魔物達?
「あ! おいアンタ! 一体領主様に何を言ったんだ!? アンタのせいで兵士達が村を守らないとか言ってるんだぞ!?」
なんか村人Aが俺に向かって言ってきた。何だこいつ、何で俺のせいになる。
「ひぇぇ……ま、魔物!? ど、どうしましょう!? イシハラ君!」
「スズキさん、エミリとムセンとシューズを連れて村人を避難させといてくださいな」
「イ……イシハラはどうするなのよ!?」
「決まってるだろう、村を警備するだけだ。面倒だけど」
----------------------------
俺は店の外に出て轟音がするほうへ歩いていく。
なるほど、これは確かに魔物が攻めいってきてるな。まだ遠目だけど平原の地平線には狼とかスライムとかでかい蜂とかがずらっと並び、土煙を立てながらこちらへ向かってきている。
魔物って意思を持ってるんだっけ? 明らかに別種族の魔物達が示し合わせたように行動するのも変だな。たぶんだけど誰かが操ってるんだろう。噂の魔王軍とかそんなやつらかな? まぁ、どうでもいい。
俺は十二位騎士を探す。
何か騒がしかったから騎士達はすぐに見つかった。十二位騎士と取り巻き兵士は村人達に囲まれ抗議を受けていた。
「ど、どういう事ですか領主様っ! 警備税だって払っているのですよ!? この村を見捨てるおつもりなんですか!?」
「聞いての通りだ! 馬鹿な警備兵のせいで領主様は気分を害された! それに魔物の数が多い! 現在の兵力では無駄に消耗するだけだ! よって戦線を後退させ、城下町からの支援兵と合流しミドリ平原中腹にて魔物達を迎え討つ!」
「そ……そんな……村は……俺達の村はどうなるんですか!?」
「そんな事は知らん。これは領主様の命だ、税収の低いこの村と領主様の命など較べるべくもない。そんなに村が大事なら自分達で守ればいいだろう。それが嫌なら避難する事だな」
「そ……そんな…………」
「…………ふっ」
なんか無茶苦茶言ってるな。件(くだん)の十二位騎士も中央で偉そうに突っ立っている。
まぁどうでもいい、俺は村人の集まりに割り込みーー
「!? あっ……」
「ついてこい」
ーー十二位騎士の手を引いて魔物達の群れへと向かった。
「!? お、お前!! 警備兵! 何をしている!? 領主様をどこへ連れてっ……!?」
「おい! 兵隊さんよ! 話は終わってないぞ! だったら警備税とかいうのを返せ!」
「ちぃっ! 邪魔だ! 通せ!」
モブ兵士二名は村人達に囲まれて身動きが取れなさそうだ。
まぁそんな事はどうでもいい、俺は十二位の手を取りながら魔物の群れの方角へ向かう。
「……ふっ、おい貴様。何をしている? 何の真似だ?」
「騎士は民を守るもんだろう、仕事しろ」
「………ふっ、聞いていただろう。戦線を下げると、あの数では悪戯に体力を消耗するだけだ。この村にそれをするまでの価値はない、だったら……」
「面倒くさいやつだな、いいから『本音』で話せ」
「…………………ふっ、何を言っている?」
「それはお前の取り巻きの兵士が勝手にお前の代弁をしたつもりで決めた事だろ? お前の意思で話せ」
「!!」
「何で騎士のくせに自分の意見を隠して周囲の言いなりになってるんだ? お前の方が偉いんだから堂々としてればいいだろ」
そう、さっき話してみてわかった。こいつはクズのふりをしているだけだ、クズになりきれていない。どういう理由かまでは知らないしどうでもいい事だが。
「………………………………ふっ……何を知った風な口を………」
「だからその演技が面倒だと言っている。いい加減にしろ、お前が何故そんな事をしているかなんてどうでもいいんだ。守る気が本当にないんなら村人達を魔物の群れに放り込むぞ? 別に村人の命なんてどうでもいいんだったら構わないよな?」
「……………っ」
わざと威圧的になり、堅苦しい言葉遣いで話し、冷徹な騎士を演じている。職業差別をして周囲を見下しているのも周りの入れ知恵だろう。肝心の本人はそれを本当は嫌がっているが、積極的には否定しない。
そこがよくわからん。
「………………………………」
十二位騎士は俺に手を引かれながら黙りこむ。何か考えているようだが、その心の内はわからない。
「……………………………………………………………………だって」
やがて、長い間を置いてぼそりと十二位騎士は口を開く。
そして、顔をうつむかせて走りながら十二位騎士はそのキャラには似合わない言葉遣いで声を荒げて言った。
「だって! こうしないと……女の子の騎士なんて認めてもらえないんだもんっ!」
だもん。
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説


神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~
波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。
アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。
自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。
天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。
その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?
初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。
最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?
目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる