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序章第一節 警備員 石原鳴月維、異世界に上番しました。

十八.フラグ

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「では続いてセーフ・T・シューズさんの適性武器検査を始めます」
「はーい、でもアタシは一人だけでなの? イシハラ君と一緒がいいなぁ」
「貴女とイシハラさんは現在の総合成績でほぼ満点をおさめられていますからね。故にお一人ずつでもワタクシの相手に足ると判断させて頂きました。むしろあなた方御二人同時では恐らくワタクシの手に余るかと」
「ちぇー、つまんないのー。じゃあ選ぶよー」

 シューズはぶつくさ言って口を尖らせながら無表情で言った。あの女は勝手に一人で何とかするだろう、俺が何も言う必要はないな。

「「イシハラさんっ! ありがとうございました」」

 戻ってきたムセンとスズキさんに何か礼を言われた。
 何が? きっと興奮して礼を言う相手を間違えたのだろう、しっかりしろ。

「そんなわけないじゃないですか……私達が試験を通過できたのはイシハラさんのおかげなんですからお礼したんです」
「俺は何もしてない、通過できたのは自分達が頑張ったからだろ。興奮するのもいい加減にしろ。ちゃんと休め!!」
「ひゃ、ひゃいっ!………お礼を言ったのに何故怒られたのでしょうか……?」
「気にしちゃダメですよスズさん、こういうお人なんです……私もまだ全然性格を掴めてないんですから……」
「……変わったお人なんですねぇ……しかし、ムセン君はそれでも嬉しそうですねぇ…イシハラ君を見る目が他とは違うように感じますよ?……もしかして……」
「!! は、はい!? そんなわけないじゃないですか!……まだ出会ったばかりですし!! そ……そんなことは……」
「はは……すみませぇん……この歳になると若者に余計なお節介を焼きたくなるものでして……大丈夫ですよ、これでも私……以前は人材管理の職についてましてね…若者を見る目は鍛えてきましたから……イシハラ君は貴女の事をちゃんと見ていますよ。いずれ貴女だけを見てくれる時も必ず来ます」
「ほ、本当ですか!?……い、いえ? 私、そんな事気にしてませんから! 本当ですよ!?」

 ムセンとスズキさんはひそひそ話をしていたと思ったら騒ぎだした。まったく、くっそやかましい。試験を通過したからって浮かれすぎだろ、俺はパーリーピーポーみたいなやかましい人種が大嫌いなんだ。

バチィッ!!

「「!!」」

 会場に鳴り響いた爆竹みたいな音に二人共びっくりしていた。ちゃんと見ていないからだ、せっかく面白い勝負をやってるのに。

「中々っ! やりますねっ! 貴女が何故今までっ! 実力者としてっ! 世に出てこなかったのかっ! 不思議でなりませんねっ!」
「うーん、やっぱりこれかなぁ? でもアタシ重いやつ持つの嫌だなぁ、こっちにしよっ♪ ふんふーん♪」

 シューズは色んな武器を引っ換え取っ替えしながら秘書女と互角に渡り合っている。秘書女の鞭とシューズの色んな武器がお互いを弾くたびに光と共に火花が散った。
 あいつには色々なイメージが湧く。しっくりくるのは何でもありの不思議系魔法使いって感じだな、性格も不思議ちゃんっぽいし。

「な……一体何者なんでしょうか? あの子……」
「あのお嬢さんは有名な武家貴族のお嬢様ですよ、幼い頃から武芸を叩き込まれた天才少女と有名だったのです。しかし……何らかの事情で一族を追放され、放浪の旅をしているとか……私も噂程度でしか知らないのですが……すみませぇん……」
「き、貴族出身のお方だったのですか……」

 人は見かけによらない、いい例だ。まぁ貴族だろうが魔法少女だろうがどうでもいい、俺には関係のない事だ。

----------------------------

「……いけませんね、これは試験でしたね。少々血が滾(たぎ)ってしまいました。申し訳ありません、セーフ・T・シューズさんの適性武器は3つ。【杖】【格闘武具】【弓】ですね。文句無しに二次試験通過です、おめでとうございます」
「わーい、やったー」
「ひ、一人で三種も……?」

 ムセン達が驚く。
 すごいもんだ。近接格闘も遠距離攻撃もできる魔法使いなんぞ反則もいいところだな。

「では、最後にイシハラさん。武器を選びこちらへ……」

 やっと俺の番か、まぁ適当に剣でも使ってみるか。

「頑張ってください! イシハラさん!」
「るんば頑張るんば、逆から読んでもるんば頑張るんば」
「真面目にやってください! 全然違いますし! イシハラさんは武器を扱った事あるんですよね!?」
「一つもない」
「えっ……? で、でも以前警備だったって……」
「警備兵ではない、警備員だ。世界が違えば警備の意味も全く違う。俺のいた世界の国では武器を使用しない社会だったからここにある武器なんか触った事もない、まぁそれでもるんば頑張るんば」

 俺は回文を言いながら秘書女の所へ歩いていく。よく考えると『るんば頑張るんば』は全然回文じゃない事に気づいた。

「イ、イシハラ君は本当に大丈夫なんでしょうか……?」
「………だ、大丈夫ですよ! だってイシハラさんは『天職』の警備兵なんですからっ! きっとこの試験だって楽々通過してしまいます!」

 嫌なフラグを立てるもんだ。そんな感じの台詞が出た後は大抵の場合、そいつは失敗に終わるんだ。これ、王道の鉄則。

「まずは剣からですね、では……試験を開始します!」

 俺は剣を手に、秘書女は鞭を手に、向かい合う。秘書女はワクワクしながら嬉しそうにしている。
 離れた場所ではムセン、シューズ、スズキさんが固唾(かたず)を飲んでといった感じで勝負の行方を見守っていた。いい感じにフラグのお膳立てをされてるな、これはきっと俺には適性武器が何もなかった、残念!ってパターンだな。

 まぁどうでもいい事だ。フラグなんて誰が決めたか知らないがその通りに事が運ぶと思ったら大間違いだぞ。
 そう言えば不本意にも地球でフラグに関する渾名(あだな)がついてたっけ俺、何だったっけな?

 まぁそんな事どうでもいいか、とりあえず剣を振ってみよう。

「行きますねっ!!」
「ていっ」

 秘書女が向かってきたから俺は剣を振った。

 すると、何か耳鳴りみたいな音が発生し、それが止んだ瞬間に地震みたいな轟音と爆弾が爆発したみたいな爆音が同時に響いた。
 あまりにも一瞬で全ての音が巻き起こったため、何が起きたのかすぐに理解できた者はいなかったらしい。

「………………………………………………え?」

 唯一、紙一重でそれを躱した秘書女だけがそれでも呆気にとられたような声を漏らして現状を把握しようとしていた。

 俺が適当に振った剣は閃光を放ち、もの凄い轟音と衝撃波と共に会場を切り裂いたのだった。振った剣の軌道上、床にも天井にも壁にも一太刀の切り裂いた後が深々とついていた。
 危ないとこだった、避けてくれたから良かったもののもう少しで秘書女に当たるとこだ。自重自重。

 安堵していると、続けて何か布みたいなものが床に落ちたような音がする。

「………………え?」

 それは切断された服が床に落ちた音だった。

 見てみると秘書女の着ていたスーツと帽子が真っ二つに切られて秘書女が半裸になってしまっていた。どうやら衝撃波は当たってはいないものの、風圧か何かで服だけ切り裂くというラッキースケベ的な事を起こしたらしい。これはまずいな、セクハラで訴えられなきゃいいが。
 しかし秘書女は呆然といった感じで服については何も気にしていないようだ。ムセンもスズキさんも同じような顔をしている、シューズはよくわからない顔をしている。

 あ、そういえば思い出した。地球でのフラグに関する俺の渾名。
 フラグ管理を無視する男『フラグクラッシャー』だ。フラグが立ってもそれを平気で無視して回避するからとかなんとか。

 当たり前だろ、誰かに管理されるなんて真っ平御免だ。俺はマイペースに生きるんだからな。



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