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第二章 楽園クラフトと最初の標的
#048.SSS迷宮【黒耀石の尖塔】へ入ろう⑥
しおりを挟む〈黒耀石の尖塔 結界前線〉
冒険者達の集いの前に現れた今作戦の統括責任者である賢人の一角──【グラーフ】は挨拶をするでもなく、興味も無さそうにそう呟いたのち……俺達を塔の結界が張られる最前線まで導いた。塔までの距離はまだ約1㎞ほどあるが、ここが入口らしい。
間近に見ると塔の周囲はまるで塔へ入ろうとする冒険者達を迎撃せんばかりに、朽ちた基地のように、風化しそうな建造物があちこちから顔を覗かせている。この塔がどのような目的で、どのような歴史があってここに在るのか未だ定かにはなっていないが……きっと本来の目的も侵入を阻むものだったと想像できる。
塔は俺達が立つ地より更に高台の断崖に鎮座していて、後ろにはすぐ海が存在しているからか微かに潮の匂いが風に乗ってくる。
「総勢108名……ギルド数22……思うてたより多いの……これから魔獣の餌になるかもしれんとゆうに、殊勝な事じゃ……」
お付きの護衛らしき奴に資料を渡され、それを一読したグラーフは面倒そうに白髪頭を掻く。見るに先遣隊の存在に割く時間など無駄だと言わんばかりの態度だ。
「ラインさん……あの方々は……」
「大賢者グラーフとこの大陸きっての兵達だ、今作戦の後発隊に組み込まれたんだろう。個々の戦力はSSSギルドの面子に勝るとも劣らないと聞く」
ギルド連盟を良く思っていないにも関わらず、わざわざこの場に足を運んだのはグラーフの護衛以外にも威圧と牽制の目的があるだろう。周囲にいるギルドの面々も、その実力を肌で感じ取ったのか先ほどより萎縮している様子だ。
そんな中、隣に立つ魔術師らしき格好の女が突然座り込む。見るからに体調が悪そうだ、その身体は砂漠の炎天下にも関わらず微かに震えていた。武者震いや恐怖心からくるもの──ではないように見える。
恐らく、宿が取れなかったことで氷点下に近い環境の中……野ざらしで睡眠を取ったのだろう、気候変動に身体が適応できていない。俺も前ギルド在籍時に同じ症状を何度も経験したからわかる。
塔に近づき濃度の高いマナに当てられてそれが増して我慢できなかったようだ。
そんな事には構いもせず、しばし考えた様子を見せたのちにグラーフが笑みを浮かべながら発言した。
「ふむ、では各ギルドのエメラルドランクの者は同ギルドから一名を選び、前へ出よ」
静聴していた面々が再び騒ぎ出す、各ギルドの長たちが自ギルドの面子から一人を選ぶため各自話し合いの時間となる。
「うちらは今だけライン君たちのギルドの協力者ってことにしといてや~、せやからイルナちゃんとライン君に頼むで~……あんま顔見せたくないねんな」
「すみません……正体が公になると少々厄介事になりかねませんので……お願いします」
どうやらネイアとリンは前に出る気はないらしくフードを目深に被る。こちらもあまり目立ちたくはないのだが……マインを出すわけにも行かないので必然と俺が出るしかなさそうだ。
他のギルドも選出されたようで計44人が代表として前に出る。しかし見た感じ……誰も彼も顔色が優れない。中にはさっき座り込んだ女もいる、もしかしたらエメラルドランクなのだろうか。心配するわけではないが、ふと気になって声をかけてみた。
「おい、大丈夫か?」
「………平気です、ありがとうございます……これくらいの事でギルドを立て直すチャンスを棒に振るう訳にはいきませんから……」
そう言って女は気丈に振る舞う。そうか、とだけ言って再び視界を戻した。どんな事情があるのかなんて少しも興味無いが、そんな状態で塔に踏み入ってもグラーフの言う通りに魔獣の餌になるだけだろう──と余計な世話を感じるのはやはり、俺の中に甘さが残っている証拠だろうか。
「さて……これまでがどうであったかは知らんが、ワシは過去の功績をいつまでも誇るのは好かん。時代は常に動いとる──【バルザック】【レイシェル】前に出よ」
「「はっ!!」」
グラーフに呼ばれ、騎士団と魔術団から一名ずつが俺達と相対するように並んだ。相当の実力者──近くで向かい合うとそれが更に理解できる。
「騎士の【バルザック・フレイガルド】、魔術師の【レイシェル・ブラスター】じゃ……まぁ紹介は不要かの……ギルドなどと言う寄せ集めのおぬしらとは違う本物の兵(つわもの)なわけじゃが……そうじゃな……彼等と手合わせし、認められた者のみが塔への挑戦権を得る……ということで良いじゃろう。構わんかの? バルザック、レイシェル」
「御意」
「仰せのままに」
こちらの言い分や都合など聞く訳もなく、筈もなく──グラーフはその場を二名に任せ、日を遮(さえぎ)る簡易造りの櫓(やぐら)にて文字通り高見の見物を決め込む。試験官ともなった二名は、平静に見せながらも内に闘気を漲(みなぎ)らせている。
(しかし……数時間後には先遣隊は塔に入る手筈なのにここで消耗させる気とは……いくらなんでもあからさますぎるな……仮にこの連中が今の状態で入ってもすぐに全滅するだけなのはわかる筈……)
思案していると、イルナがニヤつきながら小声で話かけてくる。
「ふふ、厄介なことになってしまったな。ライン?」
「微塵もそう思ってもいないくせに人に同意を求めるのはやめろ、俺には心底面倒な審査としか思えない」
「ふふふっ、だがまぁしかしだ……今この場であの二名に太刀打ちできそうなのは私の見立てではキミしかいない」
「自分を勘定に入れ忘れてるぞ、それに忘れてないか? 俺は審査なんか真面目に受けるつもりはない」
俺が最初にイルナに言った計画──それは『塔の結界が解かれてから箱庭を使い侵入する』というものだ。
黒耀石の尖塔には厄介な魔獣を外へと出さないように強力な結界術が常に張られている、それが一時的に解かれるのはこの大規模調査のみでそれが解かれるのはほんの数刻……調査隊が塔へ入るその時のみで結界は再び張り直される。
狙いは審査が終わり結界が解かれた瞬間、箱庭で地下へ潜る事。
故に……あまり目立つ振る舞いは御法度だ。
「だが、ネレイス嬢の手引きがあれば……こそ泥のような真似をせずとも大手を振って堂々入れるのではないかな?」
「お前……あれだけ塔に入るのを躊躇(ためら)ってたくせに……」
「ふふ……いやなに、キミの心の奥底ではこのような仕打ちや嫌がらせをしてくる類のお偉方に一泡吹かせてやりたい、と言っている気がしてね」
「………気のせいだ」
各ギルド──準備が整ったようでバルザックとレイシェルもそれらを迎え討つように臨戦態勢に入った。
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