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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#047.SSS迷宮【黒耀石の尖塔】へ入ろう⑤

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〈砂漠地下宿〉→→→〈オアシスの拠点〉

 ネレイス達と情報交換を果たした翌日、砂漠の町バザリアに拠点完成の一報が告げられ、先遣隊として集まった面々はこぞって水辺の拠点にその顔を列ねた。目視でざっと確認しただけでも総勢にして100人近くはいるように思える。
 水源地を囲うように設置された拠点は急拵えとは思えない程にしっかりと造られている、商団のテント以外にも木造小屋による簡易診療所や、物資保管には熱を遮断する石造りの建築物が用意されていた。まるでここだけで一つの町のようだ。

「凄い人ですね……この人達全員が塔の挑戦者なのでしょうか……」
「せやで、マインちゃん。危険度が高いっちゅーんはそんだけ夢も詰まっとるっちゅーわけやからな。地獄であり宝の山でもあるわけや、結界張っとらんかったら後先も実力も弁えてへんアホ共の死体の山が毎日積み上がっとる。この日だけしか入れへん言うたらそら単細胞どもは躍起にもなるで」

 マインもリンも、集まった人種に辟易している様子だ。確かに今日の一団の中に『少しでも魔獣被害を無くす為に~』なんて目的を主とする奴がいないのは姿形(ナリ)をみるだけで明白だ。
 だが、その好奇心と野心を否定はできない。俺だってここに眠る宝を頂きに来たのだから。

 喧騒の中ーー俺は昨夜の話を思い出す。

~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~
~~~

〈昨日 地下宿〉

【政務官シルヴァラントは既にこの地へ赴いている】

 ネレイスの何気なく放った一言は、この王女達の目的など些末な事柄にしか思えなくなる位に俺を動揺させる。しかし、今はそれを悟らせないように冷静を装う、それを見抜きアシストするかのようにイルナが代わりに答えた。

「……あの噂に名高い智将シルヴァラントの事かな? ふふ、虚を衝かれるとは正にこの事だよ。陰謀論の類いでなければ国の英傑が一体どのような企てをしていると踏んだのか是非お聞かせ願いたいものだ」
「……残念ながら確かな証拠は何もありません。彼は御父様以外で唯一、国軍を動かせる立場にいる人間……尻尾を見せるような不手際はしないでしょう。私達が見つけた小さな綻(ほころ)びは単に偶然の産物によるものでした」

 聞けば、それは本当に単なる偶然だった。
 王家が民から徴収する『国政金』ーーそれを記録する帳簿をたまたま目にした事が発端だったらしい。

 ネレイスの話は長く、これからの動向をどうするか思案していた俺は話半分も頭に入ってこなかったが……要は『帳簿を操作し、金を横流ししている人間がいる』というものだった。

「ーーそこで私のお付きの侍女に調べて貰いました。そこでお金は外部へ流れていると判明し、リンに事実を打ち明けて動いてもらいました」
「せや、ほんで色々と動いて突き止めたんやけどな……そっからは察しの良いライン君ならわかるやろ? 流れた金の一部が何処へ向かったのか……」
「……王都【グランベルク】か。そうか……それで……」
「はい、各所を経由し巧妙に隠されていましたが……それはこの地の王都に住む貴族の元へ流れていました。そしてそれは更に『ある人物』を信奉している信者の元へと渡っていました」
「ラインさん……それはもしや……」
「あぁ……【ミランダ】……そして【エリーゼ】だ」
「そうです。それがシルヴァラントを疑うに至ったきっかけです」
「ちょうどそん時にシルヴァラントは『白銀の羽根』との停戦を陛下に進言しとった、叩くべきは今っちゅうタイミングでな。ゆくゆく調べとったら『手足(つかい)』を通じてミランダとシルヴァラントが接触しとるっちゅーのがわかったんや」

 成程、それでこの国にたどり着き、そして手足の流れを追って【カルデア】に行き着いた。ついでに俺の噂を聞いて監視していた、と。

「……それで? 仮にシルヴァラントがそのミランダとやらと通じていたとして……何やら大仰な悪事を企てているとはどういうことかな?」
「……それについては、まだ言えません。確かな証拠を掴んでからではなければ、単なる世迷い言と判断されるだけですので……」

 イルナの問いにネレイスは顔を曇らせる。おおよその推測はついているがまだはっきりとはしていないーーそんな様子だ。確たる物証を得ていないのならば、確かに今は話すべきではないかもしれない。

(ミランダとエリーゼが陰で行っていた『ヒトの魔獣化』に関することだろうか……まぁ、それに関しては後回しにしよう)

 ともかく、シルヴァラントがミランダと通じて何らかの計画を練っていること……更にはこの【塔】に足を踏み入れようとしているのは確かなようだ。
 俺にとっては渡りに舟ーーそして嬉しい誤算。
 労せずにシルヴァラントに接触できる、またとない好機だ。

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~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~

 周囲の喧騒が更に増すのを感じ、俺は思考をその場に移した。どうやら……この地を取り仕切るーーお偉方が到着したようだ。
 現れた一団は、翡翠色(エメラルド)の装飾を施した紋様を刻む鎧をこれでもかという程に冒険者達へと見せつけるかのように威風堂々と闊歩する。風に靡(なび)く外套には荘厳なる王家の紋章が描かれている。

 この大陸随一の王国騎士団【練獄煌戦騎】と【宮廷魔術団】……そして六大賢者と呼ばれる叡智の最高峰の一角ーー【グラーフ・F・チェインノット】。
 今回の調査の全権を握る、オーバーワールドでも有数の権力者たちだ。

「ほほ……さて、では始めるとするかの……」

 
 
 

 
 
 
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