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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#043.SSS迷宮【黒耀石の尖塔】へ入ろう

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〈宿場町カルデア〉→→→→→〈黒耀石の尖塔〉

「ーー成程、とにかく町を守ってくれて感謝する。まさか取り決めを破るほどにあの輩どもが短絡的直情的とは見誤った、自分が情けないよ」
「イルナさんは悪くありません、今回のことは誰が招いたわけでもなく……ただただ悪事を企てた者と実行した者が悪いーーマインはそう思います」

 静かに揺れる荷馬車、遠くから微かに聞こえる滝の音、吹き抜ける新緑の匂い。
 俺達は来たる【黒耀石の尖塔】大規模調査のために大陸の果てへと向かっている。荷車内ではイルナとマインが緊張する様子もなくくつろいでいた。
 馬を御すのはあのワヲンだ。
 今回の大規模調査に於いては多数の冒険者達や傭兵集団、侯爵や伯爵お抱えの私兵団、国の騎士団などが一同に集う。選抜された者達は見込み約一ヶ月ほどの期間をかけて調査にあたらなければならないため、それを支援する者達の協力も必要不可欠だ。
 結界魔術を施す宮廷魔術師団、塔外に設置した拠点で治癒にあたる神教枢団、それに必要物資を手配する商団ーー場所が場所だけに様々な思惑が絡むこの大規模調査は万全を期した体勢が整う。
 SSS商会連盟『花束を君に』の支部頭目であるワヲンもそれに組み込まれているのだ。ワヲンは俺達も審査に参加すると聞いて格安で上等な馬車を手配して送ってくれているのだ。

「ライン様、イルナ様、マイン様。入り用の物などはございませんでしょうか?」
「平気だ、何から何まで済まないなワヲン嬢。支部の方は大丈夫か?」
「ええ、襲撃があってから護衛の傭兵を増員しました。ライン様の【召喚術】もありますので心配には及ばないかと」
「……ふふ、そうだな」
「しかし……ライン様には驚かされてばかりです。まさか【召喚術】の心得があったばかりではなく……あれだけの『使い魔』を更に数体も……一体どのような修練を積めばそのように多数の業(スキル)を会得できるのか是非ご教授願いたいものです。剣士スタイルでありながら魔術を扱い、更には【支援】スキルまで……」
「済まないワヲン嬢、ラインは何やら瞑想しているようだ。集中してるから暫くそっとしておいてやってくれ」
「はっ……これは失礼致しました、では、何かありましたらお申しつけ下さい」

 イルナが気を利かせて話を打ち切る。
 新たに課金を行い、会得した能力の一つがワヲンの言う【召喚術】。こちらは元々、楽園に使用するために課金したつもりだったのだが……先日の件で村の警護体制に不安を感じたため仕方なくフォグとワヲンに召喚術と偽って配置した。
 【召喚術】というのは支援スキルの一つ。
 家畜や魔獣を使役する事のできる【獣使役士(テイマー)】という職業があるのだが……それを更に自身の元へいつでも呼び出せるのが【召喚士(サモナー)】だ。
 テイマーとしての高い実力に加え、マナを使い【門(ゲート)】と呼ばれる魔導門を通じて使役獣を呼び出すというーー魔術スキルと支援スキルを高水準で両立させる感性が必要なために、その戸口は非常に狭く……なれる奴は極稀だ。

(まぁ……俺のは正確に言うと召喚術じゃなく【創作(クラフト)】。0から魔獣を創り出すっていう更にとんでもないものなんだけどな)

 その能力に課金をすると(一回500万コイン)、ランダムで『魔獣の創作方法(レシピ)』が手に入る。今回の課金で出てきたのは幸運な事に、守護にはうってつけの【鉄岩巨人(アイアンゴーレム)】だった。
〔【アイアンゴーレム】レシピ→・鉄ブロック×4 ・くり抜かれたカボチャ×1]
 T字に並べた鉄ブロックの中央にくり抜いたカボチャを置くだけで意思を持つ巨人が産み出されるという冗談みたいな能力。実験したのちに、楽園と町の至るところに配置してきた。これでイルナもワヲンも安心できただろう。

「マイン、ラインは一体何をしているのだ? ずっと書物を読み耽(ふけ)っているようだが……」
「更なる高みへと至るために刻苦勉励しておいでです。現状に満足する事なく、常に能力を研鑽(けんさん)するこの不断の努力こそがラインさんの強さであり魅力の一つでもあり……」
「……マイン、語学勉強の成果が出ていてなによりだが……ラインはもう少し砕けた話し方を望んでいると思う……」

 そして現在、馬車内で俺は本を熟読していた。それは箱庭の【あるチート能力】を理解するためだ。
 以前に課金したエンチャント課金箱の一つ先ーー道の終点にあったその箱は……初めて目にした時は課金額もさる事ながらその時点では理解不能の未知の領域だった。
 だが、ルーン文字を理解した事とそれが地球言語と共通していた事ーー知恵の果実の効果により徐々にその意味を知るに至った。

(ただ、これはまず俺が完全に『この語学』を身につけないと使い様が無い。知恵の果実の情報量は多すぎてまだ全てを修得できていないーー俺が語学を身につけ課金するまでに何もなければいいが……)

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「見えてきました。あれが……【黒耀石の尖塔】です」

 ワヲンが告げる。
 多少の不安と懸念を残したままに、遠景には目的地が姿を現す。砂漠と荒野の先には禍々しいまでな漆黒に包まれた【塔】が曇天雲を貫くかのように鎮座している。
 
(……成程、イルナが言った事も頷けるな……ここからでも伝わってくる、マナの濃度が普通じゃない。大げさでもなんでもなかった……化物達の巣窟だ。物見遊山で立ち入っていい場所じゃないな)

 塔が放つ不気味さと威圧感は、これまでに入ったどんな迷宮よりも圧倒的だった。塔にまつわる逸話ーー【魔獣の王と四人の勇者】が単なるお伽噺ではないと証明しているようだ。

「ワヲン、確か砂漠の村に一度立ち寄るんだったよな?」
「はい、そこで商会の人間と合流する手筈です。拠点作成を待つために既に審査を受けるあらゆる手練や貴族達がいる筈ですのでご注意下さい」
「なはは、要は揉め事は起こすなってことだろ。保証はできないがそんなつもりはない」

 イルナに聞いた話によると、塔への調査は大きくニ陣に分けられている。
 国や貴族のお抱えでその実力はお墨付きの後発隊、こいつらは来るべき時に備えて快適な拠点で英気を養っている。
 そして、今回審査により選抜されるギルド連盟による先遣隊ーー言ってしまえば特攻隊だ。

 大規模調査の目的は未踏である階層調査、魔獣の生態調査、スポナー位置の割り出し、塔の破損率調査など多岐に渡るが……ギルド員達にとってはそんなものは二の次で『レアアイテムや素材』の獲得に尽きる。
 生き残れればレア素材の宝庫の塔は一攫千金の好機、それを狙う連中だーー当然、クセもアクも実力も強い奴等で溢れているだろうからな。
 
(決して目立ちたいわけじゃないからな。連中の態度次第だが……今回ばかりはさすがに案山子に徹してやろう)


 だがーーその目論見と口約束はのちに破棄される事となった。
 俺達の本来の目的ーーその人物【政務官 シルヴァラント】を見つけた瞬間に。

 
 
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