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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#031.準備をしよう②『土地』

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「──ふふふふ、素晴らしいよライン……いや実名は【ソウル】だったか。だが、そんなものは些事たる事だ。ライン、そしてマイン。改めて歓迎しよう、ようこそ『エレクトロ・ブレイブ』へ」

 俺はイルナを協力者たりえると判断しこれまでの事を全て打ち明けた。予想通りに本音なのか虚栄なのか、はたまた演技なのかわからないくらいに嬉しそうにイルナは笑った。

「こんなに面白い事はそうそうない、永く生きてみるものというやつさ。是非ともにラインが得たという伝承の神の力を拝ませて頂きたいものだ」

 イルナは高揚し、頬を染めながら俺に近づいて両手を握る。ハコザキの事を悪魔と呼ばす伝承の神と言ったのはマインへの配慮だろう。しかし、マインはとたんに不機嫌な表情になった。

「イルナさん、信用するとは言いましたがソウル様に近づいていいとは言っていません離れてください」
「(ふ……………達………性……は不可思議……たが謎が解けたよ。な…………ど、確かに………………を崇…………慕の情を………るの………………………得というものだ)」
「(れんっ……!! ………り…………けどっ、ソウル様……は言っ……………メで……………ねっ……!!)」

 二人は耳打ちしながらひそひそ話をしている、マインもやはり同性ならではに気を許せる者ができて心なしか嬉しそうだ。それだけでも価値のある判断だったかもしれない。
 俺は保留にしていたある事柄のついでにイルナに能力を見せる事にした。

「【箱庭(クラフト)】」
「……………ふふふふ、言葉を失うとはまさにこの事だ。一体これはどのような原理で成立するのだろうか……ラインにはまるで重量を感じないのだったな……ふふふふ、面白い」

 インベントリに収納していた【木箱】を取り出すとイルナは我を失ったように妖艶に笑った。まるで淫魔に憑かれたように頬を紅潮させ遠慮なく木箱に触る。凛としたギルドマスターとしての面影はまるでなかった。

「ふふふふ……そうか、成程。耳にした噂話……ウォールレイトに出現したとされる『箱化の魔獣』はラインの仕業だな?」
「そんな噂になっていたのか……だがあれは……」
「わかっているよ、兵士が悪事を全て自白したらしい。そもそも私は『そんな事ができる魔獣の存在なぞ知らない』からそんな眉唾な噂は信じていない、ふふ……そんな答え方が望ましいかな?」
「……なはは、重畳だ」

 俺はギルド内の破損した箇所を箱庭化したのちに分解し、新たなこの木箱を埋め込んでいく。そうする事でたちまちギルド内は新築同然の仕上がりになった。

すると、見計らったかのようにギルドの扉が開き見知った顔が入ってきた。

「ふんふ~ん♪ ってうわぁっ!!? ギルドが凄い綺麗になってますっ!? イルナ様いつの間に業者さん呼んだんですかぁっ!?」

 ルルリラだ。
 彼女は来て早々に静かな空気を一気に盛り上げる。俺はイルナに『ルルリラも協力者に引き入れるべきか』の意味を込めて簡潔に聞いた。

「イルナ、彼女はどうだ?」
「ふふ、君らしくもないなライン。ダメに決まっているだろう、ルルリラには全幅の信頼をおいているが……それとは全く別の話だ」

(……冷静に判断し遠ざけるか、仲間内であろうと引くべき線はきっちりと引く……問題なさそうだな)

 元々イルナがOKと言ったところでそんな気は更々となかった試すような質問だったわけだが──そういう意図を機敏に察知したイルナは意趣返しのようにルルリラに告げる。

「えー、何の話ですかぁ? わたしだけ仲間外れはイヤですよぉ」
「ふふ、そんなつもりはない。ラインとマインの歓迎パーティーをやろうと思っているのだがその際の余興で裸踊りをする役をルルリラにしてはどうか、という話だったのさ」
「ぜったいに嫌ですっ!! ラインさんそれをわたしにやらせようとしたんですか!? えっち!!」

 その後、ルルリラから何度も責め立てられた。やはりイルナは油断ならない存在だ。

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〈商会連盟支部『花束を君に』〉

 その後、俺はワヲンとの商談に入る。
 本来の目的とは別にやる事があり、それには商会の力が必要だった。それを遂げるには膨大な時間と手間が必要であるため……全てを終えてから着手するのでは遅い……復讐と平行してコツコツと進めていかなけばならない事柄だった。

「ど……奴隷を全て買い取りたい……ですか?」
「そうさ、いずれな。だからそいつらを住ませる事のできる広大な土地が欲しい。建築や資材調達に関してはツテがあるからいらねぇ、本当に真っ更な土地だけだ」

 ワヲンは狐につままれたような表情をする。
 オーバーワールドにおいて奴隷商売は横行しており、珍しい事ではない。勿論、人道的な観念から禁じている国や宗派は存在する。
 だが、魔獣が増えてからこの世界で孤児が増えているのもまた事実であり……更には争乱の世となった今ーー『戦える者』とそれを『支援する者』の職業の需要が高まり……それ以外の〈技能(スキル)〉を持つ者は職にあぶれている。
 そんな者達の行き着く果てとして奴隷商売が存在する。低賃金とはいえど身寄りのない孤児や生活能力のない者が身売りをし、斡旋者である奴隷商が働き手を管理・育成して紹介(オークション)にかける。
 それにより行き倒れなどの処理や蔓延病防止の対策案となるので国として認可まではしないものの、所謂知らぬ存ぜぬのグレーゾーンで存在しているのが奴隷業だ。
 確かに気持ちの良いものではないが、綺麗事で生きていく事のできない世界では致し方ないとも言える。

「条件としては農耕に適したバイオーム(気候)の土地が望ましい、まだ気候変動の能力はねえからな」
「……? 畏まりました。当ギルドが紹介できる土地を探します、その他の条件はございますか?」
「いや、大丈夫だ」

 きっと聞きたい事は山程あるのだろうが、全てを呑み込んだ表情をしてワヲンは頷(うなず)く。下手に立ち入らない──優秀さの証だ。

(さて、まずはこの国の奴隷商に会ってみるとするか。それ以外にも色々と適材な人材を探しておこう。あまり目立たずにな)

 
 

 


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