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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#030.準備をしよう①『協力者』

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〈宿場町カルデア 魔術師連盟【エレクトロ・ブレイブ】〉

「──かつてオーバーワールドを支配していた魔獣王【邪悪なる村人の王】は四人の勇者に倒されはしたが……それは魔獣の根絶には至らずに新たなる魔獣の支配権争いを産み出したに過ぎなかった……」
「ふむ、その通りだ。その数年後に台頭してきたのが【最悪の竜 エンダードラゴン】……その厄災は留まる事を知らず、かつての勇者達すらお手上げでそのうち二人は殺され……一人は消息を絶った。そしてエンダードラコンは魔獣達の領域を拡げ『ある島』を丸ごと支配した。その島が今、全ての元凶の大元とされている……冒険者達の……いや、全ての人々の悲願の地【ジ・エンド】。到達も脱出も敵わない災厄の島……古代の災厄をネザーとするならば現代は間違いなくジ・エンドだろう」
「…………」
「悪い、遅くなった。マイン、イルナ」

 僅かに漏れ出てくる声を聞きながら、ノックして入室する。そこでは筆を手にして座るマインにイルナが教鞭を振るっていた。机と椅子の並んだ学問専用の部屋のようだ、この古い建築物に相応しく木構造の内装で彩られた部屋に入ると樹種の匂いが鼻を擽(くすぐ)る。
 ネザーの名を出されたマインは少し顔に影を差している……イルナにはこちらの事情を話していないから致し方ないことではある。マインがネザーに住んでいた、などとは夢にも思っていないだろう。

「お帰りなさいませ、ラインさん」
「ふふ、その様子ではクエストの首尾は上々といった感じかな?」
「聞かなくても魔術でわかってるだろう。仕事はきちんとこなしたさ。そっちはどうなんだ?」
「ふふ、マインは優秀で教え甲斐があるよ。是非とも今後入ってくる新人に指導してもらいたいものだ」
「自分でやれ、そもそもこのギルドに他に人はいないのか?」
「残念な事に私とルルリラだけさ。隣接した冒険者連盟には何名か所属しているが……皆くせ者ばかりで滅多に顔を出さない。遠征から帰っては依頼書だけを持ってすぐに消える」
「……そういえば冒険者ギルドのマスターもやってるんだったか……しかし、よくそれで経営が成り立つな……」
「街周辺で起きる依頼事は全て私一人で事足りる、おかげで忙しなくも有意義な時間を過ごさせてもらっているよ。優秀な人手が増えたおかけで唯一解決できなかった問題の解消までしてもらったたようだし──ね?」

 イルナは微笑みながら俺を見る、『新米狩り』の件を指しているのだろう。
 あれから数日、俺とマインはカルデアを拠点として情報収集と旅立ちの準備にあたっている。ミランダへ繋がる手がかり……【バットランド大国】の王の側近【政務官シルヴァラント】へ接触を試みる下準備だ。
 ちなみにイルナには何も話してはいないが……こいつは【風魔】で人の感情を読み取る。『新米狩り』の件も数日前にカマをかけられ大体を察せられてしまった。全く厄介な女だ。

「ワヲンとはどうだい? 何やら彼女にご執心のようで妬けてしまうよ」
「仕事の話だ、誤解を産む発言は止めろ。それに詮索するなとも言ったはずだ」
「ふふ、すまないね。私は面白そうな事に首を突っ込みだかる性分があるようでね……勿論、性別的には突っ込まれる方であって突っ込むものなど持ち合わせては」
「わかったから黙っててくれ……」

 イルナとの会話は不毛でとても疲労する。とてつもない美人で黙っていれば引く手あまただろうに……理知的そうな言葉遣いの端々にくだらないオヤジギャグのようなものをふんだんに盛り込んでくる。感情の揺らぎを見て面白がっているんだろう。
 そのせいでここ数日、ワヲンやルルリラにはある程度の信用を置くことはできたが……依然この女には気を許せないままだ。

(悪人ではない、だが素性が知れない。向こうからしてみれば俺も同じようなものだろうが……)

 商会のマスター【ワヲン】と数日話し合っていたのは勿論、下準備に必要なものを用意してもらう為だ。流石に大商会ともあってそれらは直ぐに手に入ったーーが、一番必要なものの入手には難航している。何故ならそれらの入手には……【イルナ】の協力が必要不可欠だったからだ。それがあるとないとでは【シルヴァラント】接触への難度が段違いになる。

(もしも接触前にことが露見すれば間違いなくバットランドの総軍を相手にする事態に繋がる。それにバットランドには俺の顔を知っている奴等がいる……EXギルド【紅き砂の神光】……あいつらとの接触はどうあっても避けたい)
 
 そのために正攻法(まっしょうめん)から入国はできない、裏ルートから行く他ない。これは誰の目に触れる事なく行うべき『潜入任務』にしなければならない。幸い──【箱庭】にはそれが容易に行える応用力がある……だが、一国やEXギルドの眼を完璧に欺くためには残り一手間が必要だった。それを可能にする【古代遺物(レジェンダリ)】級のアイテムの入手が絶対不可欠。そして、それを入手するためにはランク【エメラルド】以上の同行者が必要だった。
 それに人手(きょうりょくしゃ)も欲しい……それら二つを一挙に解決できるのはイルナ以外には存在しなかった。

(そのためにワヲンとルルリラからなんとかイルナの素性を聞こうとしてるんだけど……皆一様に口をつぐむ。あの感情を隠せないルルリラですらな……だから見極められない)

【イルナを仲間(きょうりょくしゃ)にしたい、だが、イルナは嘘を見通すゆえに全ての事情を明かさなければならない】──この問題を解決しなければならなかった。

 この場合──イルナが善人か悪人かは問題ではない。俺が『全ての復讐』を終えるまでの間……それを一切口にしないかどうかが重要点だ。喩え敵に囚われようが拷問されようが口を割らないかどうか。もしも計画が【白銀の羽根】の誰かに漏れようものなら復讐劇は即座に幕を閉じるだろう。
 嘘八百の理由を創りあげたところでイルナには通用しない。つまりは真実を全て話し、それに賛同させなければならない。

 そこで俺は見極める判断をマインに委ねることにした。イルナが抱えていたクエストを俺が引き受ける代わりに魔術や語学、情勢、文化等をマインに教えてほしいと頼んだのだ。
 マインには素直に勉強に励む過程のついでにイルナの人となりを見極めてほしいと頼んだ、下手に勘繰る俺よりもマインの素直な直感を信じる事にした。
 
「マイン、ちょっといいか?」
「あ、はい。イルナさん、少し失礼します」

 席を外させ二人で部屋を出る、俺はマインに率直な意見を聞いた。

「嫌な役回りをさせて済まないなマイン」
「いえ、ソウル様のお好きなようにお使い下さい。マインはソウル様の道具なのですから。イルナさんですが……やはり本音を上手く隠している感じは拭えない、といった印象です。踏入ろうとすると煙に巻かれる……天然なだけかもしれませんが……」
「……そうか」
「……ですが、それは敵の捕虜となった場合にも有効かと思われます。決して真実を口にしない……それは下手に口が堅いよりも敵にとっては嫌らしいものになるとマインは判断します…………それに………」
「それに?」
「………恐れ多くもマイン自身の意見を述べさせて頂けるなら……マインはイルナさんを好きか嫌いかで言えば……好意寄り……です」
「なはは、回りくどい言い方しなくていい。それで充分だ」
「で……ですが……マインなどの判断で……」
「決断したのは俺さ、マインは判断材料を与えてくれただけだ。それに最初から決めていた。マインが好きになれるなら信頼に値する奴だ、だから仮に失敗したとしても後悔はしないってな。さ、イルナに話に行くとしようか」

 そして、俺達は再び扉を開ける。
 全てを訳知ったような顔をしてイルナはこちらに向き合った。

「ふふ、審査は終わったかな? 面談など久しくしていないから上手くできていたかどうかはわからないが……好意的に捉えてくれているようで嬉しいよ」
「なはは、そーいうところはマイナス点だけどな。黙って聞いといてくれイルナ、俺達は──」
 

 
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