上 下
42 / 76
第一章 箱使いの悪魔

#024.■課金をしよう⑦『信用』

しおりを挟む

「ーーッ!! あん……た……初めっから……ッわかってたのっ……!?」

 電撃にて身体の自由を囚われたのち、うずくまりながら地面に膝をついたエリーゼは……身体を痙攣(けいれん)させながら苦しそうになんとか声を張り上げる。ソウルはその様子を満足気に眺め、大仰に両手を広げて言った。

「ったりめぇだろ、完璧な演技っつーんならここまでやらなきゃあな。色々と雑すぎなんだよお前さんは。あーあ、土まみれになっちまった」

 悠々と恐れもせず、エリーゼに近づいてくるソウルの後ろで何事もなかったかのようにマインも起き上がった。それを見たエリーゼは唇を噛みしめる──途切れそうな意識を覚醒させるため……そして何よりも術中に嵌(は)まった悔しさで。

「ッ……何でっ……!? 何でバレたのッ……!?」
「なはは、曲がりなりにも魔術師を名乗るだけはある。あれだけもろに電撃を喰らっても意識だけはある……いや、半減耐性を持ってるだけか」
「ソ……ラインさん、未熟なマインも是非お聞かせ願いたいです。何故、この方が演技しているとわかったのですか?」

 エリーゼの疑問に答えてやる義理もないとやり過ごそうとしたソウルだったが、マインの純粋且つ羨望を含む眼差しを向けられ仕方なく応じる事にして話し始めた。

「理由は色々あるが……まず不審に思ったのは出会った時に『肌が綺麗すぎた』ことさ。服は無残にも破かれてたっつーのに剥き出しになった肌は土すらついていなかったし……すり傷も殴打痕(おうだこん)すらなかった。普通は抵抗するなり暴れたりしてもっと汚れるもんだ」
「……なるほど、確かに……」
「そして、助けを求めたのが俺だったっつー点だ。マイン──仮にマインが男に乱暴された後に逃げ出した場合……『見知らぬ』しかも『男』に助けを求めるか? 百歩譲って同性にならわからなくもねぇが」
「マインはラインさん以外にそんな事をされるくらいならその前に舌を噛みきって死にます」
「……いや、そーいうことじゃなくて……少なくとも俺がその女の立場だったらその時点で男は信用しない。見知らぬ俺がその男達と仲間じゃないなんて確信はないわけだしな。だからこいつの行動は嘘臭すぎた」
「──ッ!!!」
「恐らくだが……こいつは俺を視認し駆け寄った時に俺を殺すつもりだったんだろう。『俺の後ろに他に人がいると気づくまでは』。暗がりでよく見えなかったんだろうな、だからマインを見たのちに即座に切り換えて創り話で誘い込むことにした」
「……だからラインさんは後方に敵の気配が無い事をわかっていながらマインにわざと声をかけたのですね。あの一瞬で全て見抜いていたなんて……マインは感服致しました」
 
 エリーゼの唇から血が滲(にじ)む、ソウルの言っていた事がまさしくその通りであったために更に激しく怒りを噛み締めたから。そして──更にはっきりと意識を覚醒させるために。
 この場をどうやって逃げ切るか、こいつらをどうやって始末するか、策を講じるために神経を集中させていたのだ。目の前の男は多少頭がきれるようではあるが……『隠し手はもう一つある』。『それ』を発動させれば状況を一変させられる、そのためには多少時間を稼いでマナと体力の回復を待つ必要がある──そう考えたエリーゼは筋弛(きんし)した身体を少しずつ動かそうと試みていた──

「だが、そんなのは懸念材料に過ぎねぇさ。俺が最初からわかっていた理由なんざシンプルに一つだけだ」

──だが、悪魔が次に放った一言とその表情……瞳を見て思い知らされる。そんな猶予(ゆうよ)などありはしないということを。

「最初から誰一人、信用なんざしてねぇからさ」

 悪魔に冷たく、殺意の込もった瞳を向けられたエリーゼにできる事は……万全ではない状態の下策(げさく)を即座に発動させるしかないことを。

【フロータリア・オン・バグス(迸る電撃)】

バチィッ

 動くことのできないエリーゼが放った弱々しい電撃は地を這(は)い、二人の足下を通り抜けた。無論、このような魔術で抵抗を試みたわけではない。
 この空間内は冒険者達を捕らえるために造ったエリーゼの実験場、勿論、罠が魔法陣だけというわけはない。
 もしもの時のために策は幾重にも用意してはある。

 放った電撃は『とあるスイッチ』を押すための起爆剤。這っていった電撃はエリーゼの用意していた罠を起動させる。この位置では自分自身も巻き添えを喰らう事が明白でありながら……そうせざるを得なかったのだ。
 張られた罠は、地中に埋められた【爆弾】を起爆させるもの。だが、それは爆発により敵を仕留めるといったものではなく……地層を一挙に砕き落下させるためのもの。シンプルに言ってしまえば【落とし穴】に過ぎない。空間内を爆破させれば崩落により自身すらも危険に陥るのを避けたエリーゼの保険のためのもの。
 
ドドドドドドドドドドドドドドドォンッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 爆破にしては派手さのない音と共に、一気に地響きが地中から舞い上がった。計算された配置により地層のみを破壊した爆弾は空間の半分だけを器用に滑落させるに至った。

「きゃっ……!!」
「マイン、掴まれ!」

 苦肉の策ではあったが、それは結果──ソウルとマインを呑み込んだ。足をとられたマインに直ぐに手を伸ばしたソウルにより二人は手を繋がれたまま為す術もなく闇へと呑みこまれる。
 言うまでもなく……身体の動かない自分自身と共に。

 しかし、勝ち誇ったようにエリーゼは叫んだ。

「っ!! あたしの本当の実験場に連れてってあげるわ!!」

----------------------------
--------------
--------


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...