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第一章 箱使いの悪魔

#015.■お金を稼ごう②『商会ギルド【花束を君に】』

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<商会連盟【花束を君に】支部 『応接室』>

 ソウルとマインは目的地である商会連盟に到着し、受付を済ませて応接室に案内された。
 冒険者連盟や魔術師連盟とは基礎的な建築法が全く違うと言わんばかりに小綺麗で洒落た造りの建造物は、まるでソウルが以前に知恵の果実を食して得たチキュウの都会にあるカイシャというものによく似ていると彼も感じていた。

(この一年で更に大きくなったのかこのギルド……支部ですらこの有り様だからな)

 【花束を君に】はこのオーバーワールドの経済界を牛耳る五大商会連盟の一つであり、商会連盟としてのランクはSSSにもなる最大大手の商会である。
 主に貿易業を取り仕切りっており、現在でも物々交換での取引を連盟として認可しているのはこの商会だけで前時代の取引法をも容認しているだけに平民階級の人々からは一番信用のある商会で人気も高い。
 ソウルも一年前までの【白銀の羽根】在籍時はよく利用させてもらっていたのだ。
 
 ガチャッ

 応接室の扉が開く、現れたのは中年の細身の男で身なりの整った人物だった。
 しかし、入室するなりソウル達を一瞥(いちべつ)してはあからさまにふてぶてしい、やる気を無くした態度になり、それを隠そうともせず座るソウル達の対面に腰を下ろした。

「……はぁ、それで? 用件は?」

 座った途端、中年男は足組をしながら見下したように吐き捨てる。その態度にソウルは辟易(へきえき)する。

(外れだな……どんな優良な組織にも一定数の【癌(がん)】はいるもんだ……しかも大抵そういった奴に限って上からは支持されるもんだから性質が悪い。しかし……島を出てからロクな人間に会わないのは……やっぱ、俺がそういった奴らを引き寄せでもしているからだろうか?)

 邪念を抱く奴には似たような奴らがよく集まってくる──そういった格言が彼の得た地球にもあり、どんな世界でも似通うところはあるんだな──とソウルは苦笑いしながら言った。

「なはは、大手商会に足を運ぶ理由なんざカネに決まってんだろ。財宝をありったけ換金してほしい」
「……はぁ……珍しいアイテムでも見つけたのか? んなもんはそこいらの道具屋にでも引き渡しな。うちは名だたる大手商会だ、ちまちました取引なんざやってねぇんだよ……ったく。町長が懇意(こんい)にしてるあのエルフの紹介だっつーから渋々応じてやったってのに……時間の無駄使いだぜ……」

 どうやら男はソウル達を値踏みした結果として、このような態度を取っているようだった。
 
(まぁ気持ちはわからなくもない、どう考えても大口取引をするような身なりをしていないからな)

 商会ギルドの人員にもランクが存在する。
 それを決定づけるのもステータスなのだが、勿論、ソウル達が計測したもの【戦闘(バトル)ステータス】とは別のステータスだ。

【生活(ノーマル)ステータス】──調理や鑑定、調合、鍛冶、語学、話術、そして商才……簡単に言えば戦闘に関わらない職業につくための潜在値である。
 人々の生活の根幹を支えるこれらの職業において、冒険者ギルドや魔術師ギルドにおける戦闘能力のように、生活能力がランク付けの指針となっている。

(こいつは恐らく低ランク……もしくは上へのご機嫌取りで中ランクまで登っていった程度の男だろう。言い返してもいいが……この商会とはこれからも長い付き合いになるだろう。下手に噂になっても面倒なだけだな……日を改めるか。ムカつくけどな)

 しかし、ソウルが大人しく帰ろうと席を立とうとしたその瞬間──応接室の扉が開き、新たな人物が入室してきた。
 オーバーワールドでは珍しい黒色の髪をした見た所二十代前半くらいの若い女だった。帽子にゴーグル、長い黒髪を溶け込ませるような真っ黒い細身の服、ワンポイントで胸元には桃色の花の刺繍(ししゅう)。そのマークはこの商会ギルドの身分紋証だった。

(ギルドの人間……見た感じ秘書かなにかか?)


 ドゴォッ!!!

 ソウルがその女を見定めていた瞬間──骨が軋(きし)んだような殴打音が室内に響いた。
 何を思ったか、理知的そうなその女は入室するなり中年男を殴りつけたのだ。

「がはっ!!!」

 中年男は足組の体勢から殴られたからか勢いで壁際まで吹っ飛ぶ。予想すらしていなかった光景に二人は呆気(あっけ)に取られるしかなかった。

「オーダラン、言いましたよね? 商人は金の匂いに敏感であれ、と。少し考えればわかる事でしょう、あの面白味を重んじるハイエルフさんが推した人物であれば只の人間ではないと。喩え今カネにならなくてもこの先わたし達に多大なる利をもたらすだろうと少しは考えなさい──」

 女は静かにそう言いながら倒れている中年男の元まで無表情のまま歩く、そして返事を待たないままに男の胸ぐらを掴み片手で男を宙まで持ち上げた。

「──何より、お客様にその態度。テメェは一体何様なんですか? テメェはそんなに偉いんですか? このギルドの絶対理念は『真心』だと言ったはずです。カネは返ってこなくても信頼は必ず返る、が信条だと何度言ったらわかるんですか? テメェは降格です。一から商売というものを学びなさい」

 ドサッ

 女は中年男を投げ捨てる、せっかくの高説も男には聞こえていたのかいなかったのだろうか……泡を吹いており、意識はもう無さそうに見えた。
 
「お客様、下っ端が大変無礼を働きました。心より謝罪します、どうかお許し願いたく存じます」

 女性はソウル達に向き直り深々と頭を下げた。
 その礼節や、可憐そうな佇(たたず)まいからは中年に向けた先程の言葉が同じ女性の口から出たものだとは信じ難(がた)かった。

「申し遅れました、私はこの連盟支部の頭取を任されております【ワヲン・クサナギ】と申します。お客様がよろしければ今後ともに末長いお付き合いを所望しますので何卒お見知り置きを」

 
 
 

 
 
 

 
 

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