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第一章 箱使いの悪魔

#014.■お金を稼ごう①『安い女と金ランク』

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「……はあ? 安っぽいってアタシ達のこと言ってんの!?」

 派手な女達は金切り声を上げてソウルを睨んだ。
 周囲の通行人達も女達が大声を挙げ始めた時からちらちらと様子を伺っていたが……立ち止まり、もはや野次馬と化していた。

 そんな雰囲気に呑まれ、マインは心配そうにソウルを見る。

「ソッ……ラインさん……」
「大丈夫だマイン」

 そう言って、ソウルはマインの頭に手を乗せた。
 不安そうだった顔は緩み、頬を紅潮させ安堵した表情に変わるのを見て再び女達に向き直る。

「他に誰かいるか? 大声張り上げてはしたねぇ女だな、パーティー組みてえようだったから声かけてやっただけじゃねえか。犬みてえに騒ぐんじゃねぇよ。まぁいいさ、実力がなくて困ってたんだろ? 仕方ねえから手ぇ貸してやんよ」
「………あっはははっ! ねえ聞いたぁ?! 石階級のビギナーさんがアタシ達に手ぇ貸してくれるんですって!! しかもあのEランクギルドの魔術師さんがよ!? 笑っちゃうわね!」

 演劇でもしているかのように、大げさに身振りしてわざと周囲の注目を集めながら女達は笑った。それに釣られ、観客と化していた通行人からも徐々に失笑が漏れ出した。

(興味ないからギルドランクの事は聞いちゃいなかったが……【エレクトロブレイブ】が最低ランクのギルド……? あのイルナがいるのに? やっぱりあのギルドとイルナにはなにかあるな……まぁ、俺にはなんの関係もないことだが)

「けど残念ね! ランク違いの人間をパーティーに誘うんだったらそれなりの雇い金が発生しちゃうのよ!? 当然よね!? 金階級はそんなに暇じゃないのよ! せっかくアタシ達から声をかけて格安で金貨3枚で雇われてあげようと思ってたのに損したわね、ムカついたら金貨5枚にするわ!! 払えないわよねぇ? そこのみすぼらしい娘に新しい装備でも新調して出直してくればぁ!?」

 ここぞとばかりに女達は醜悪な笑みを浮かべて喚(わめ)き散らした。
 要するに、こいつらは狩り場に来たビギナー達に声をかけ、法外な相場の値段をふっかけてパーティーを無理矢理組もうとしている連中という事だとソウルは早々に理解した。

(だからこれ見よがしにアホみたいな装飾をつけた装備をしているわけか、金階級(いちにんまえ)というのを誇張するために。本当に金階級の実力があるのか怪しいもんだな)

 ソウルの推論は当たっていた。
 女達が格安と言っていた金貨3枚でも、石(ビギナー)や鉄(みならい)階級には高過ぎる雇い料だった。見習い階級が受けられるクエストで得られる相場はせいぜいが銀貨のみ。そこを、女達は付け狙っているのだ。

(全員がそうではないだろうが……金階級をやたら見かけるのはそれが理由か……やり口が似ている……『あいつ』に……まさかとは思うが)

 ソウルが新たな懸念を感じていると、調子をつけた女達が更になにかを言わんとしていた。
 それがいい加減耳障りになったソウルは【アイテムボックス】からある物を取り出す。

「なはは、そうだな。これはマインに新しい服を買ってやるためのものだしお前さんがたを雇えるカネはなかったな、わりぃわりぃ」
「あはははは! 今更謝ったって───……え?」

 女達はソウルが手に持った物を見て顔色を変えた。同時に、周囲にいた観客達もざわめいている。
 ソウルがネザーの要塞で手に入れた【金のインゴット】をその目にして。

「ソッ……ラインさんっ、いけません。それはラインさんの目的を成し遂げる為の大切な資金で……」
「なはは、そうさ。マイン、お前に好きな事をさせる目的のための資金だ。最初に言っただろ? 『大事ななにかを見つけろ』ってな。カネってのはそれを見つける為の足掛かりだ。遠慮なんかするんじゃねぇ、こんなもん掃いて捨てるほどあんだからよ。マインの大事ななにかを探すのも俺の野望と同じくらい大切な俺の目的だ」
「……ソ……ラインさん……」
「俺に遠慮するな、欲しいものもやりたい声も好きに言え。次に遠慮する素振りを見せたらいらない物でも無理矢理買う、年頃の女の子の欲しいものなんてさっぱりわからねえから物で溢れかえっちまうぞ。だからちゃんと言うんだ」
「……ふふっ、それでもソ……ラインさんには【インベントリ】があるんですから問題ないじゃないですか」

 それもそうだ──とソウルも、マインと同じように微笑んだ。

「ちょっ……! ちょっと待って! さっき【透視(サーチ)】した時には持ってなかったのに一体どこからっ……!!? まさか【収納魔法】っ!!?」

 いい雰囲気に水を差すかのように、女達は若干声色を変えてソウル達に割り込んだ。その言葉を聞いて周囲は更に喧騒を高める。
 何もない空間からアイテムを取り出す仕草は、周りには確かに収納魔法に見えただろう。実質【インベントリ】は収納魔法となんら変わらない。収納魔法はレアな魔術が故に野次馬達の驚きも当然だった。

 それよりも、ソウルには気がかりな点がもう一つあった。
 何故、この女達がソウルとマインの所属連盟と階級を知っていたのか──だが、女達は勝手に自白した。
 【透視(サーチ)】、光魔の一種で対象の所持している物を調べる事ができる魔術だ。
 
「なはは、やっぱり調べてやがったか。紋証は身につけてはいなかったのに俺らの所属と階級を言い当てやがったしな」
「そっ……そんなことはどうでもいいのっ! い……いえっ、いいんですっ……さっき『掃いて捨てるほどある』って……収納魔法にはどれくらいあるん……ですかっ!? あっ……アタシ達とパーティー組みませんかっ!?」

 先ほどとは打って変わって丁寧な口調になった女達は眼を輝かせながらソウルにすり寄ってくる。

「なはは、数えちゃいねえし……んな事テメーらに言う必要あるか? 悪りーが俺達ぁ忙しいんだ。テメーらなんぞに用はねぇ」
「なっ……さっきはアタシ達とパーティー組もうって……! そ、その金塊だけでも充分にアタシ達に払える額以上にっ──」

「【ディエル・ムノ・リアス】」

 必要以上にしつこくソウルに擦り寄ろうとしてきた女達の足は、併(はし)ってきた氷に呑み込まれた。
 術者は言うまでもなくマインだ、険しい顔をして女達を睨んでいた。

「ソウッ……ラインさんに必要以上に近づくのは赦しません。ラインさんはあなた達など相手にしていません離れなさい」
「なはは、そーいうこった。安い女に払うカネはねえっつったんだ。小銭稼ぎをやめて出直してきな」

 周囲の喧騒と何かを叫ぶ金切り声の女達を尻目に、ソウルとマインはその場をあとにした。


 
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