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チュートリアル

#012.チュートリアル完了

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…………

…………………

………………………………


 俺はこの世の終わりを体現したかと思えるほどの長く、永い爆撃の音とそれにより引き起こされた耳鳴り、そしてその後訪れた久遠の静寂を体感したのちに意識を取り戻す。

(……ここは……また『箱世界』か……? それとも………)

 意識を取り戻したばかりの俺は果たしてこの暗闇が現実の続きか、死の際に見える無限の闇か、やり直しの後に行く箱でできた不可思議な世界か判断がつかなかった。

 そんな俺を現実に引き戻してくれたのは、体全体で感じる絹のような肌触りと指先が沈む弾力……そしてその柔らかい身体の持ち主の切ないような呼び声だった。

「………んっ……ソウルさん………起きてっ………くださいっ……」

 俺の体の下には裸のマインがいた。
 抱き合うようにして重なった俺達ははたから見たらまるで一夜を共にした恋人のようだろう。
 俺の手はマインの胸を直に掴んでいたようだ、慌てて体勢を立て直して謝罪する。

「ごめんっ……そんなつもりはっ……!」
「……いいんです、また……守って頂いたんですよね……? お怪我はございませんでしょうか……?」

 
 そう、俺達は今……地面の中にいる。
 あの時……閃光が走った時、俺はマインの手を掴んで床を連続で『クラフト』して地面を掘り進めて地上から地下へと潜り何とか難を逃れていたのだ。
 地上が今どうなっているかはわからない。
 だが、連続する爆撃音と……掘り進めた地層の中に降ってきた瓦礫や土砂が地上の有り様を物語っている。
 

(……咄嗟だったから考えてなかった……せめて『箱』を蓋にして防ぐべきだったな……まぁ、マインは無事なようだし良かった)

 背中に痛みが走る、だが動けないほどじゃない。
 俺はマインを心配させないように振る舞う。

「大丈夫だ、マインは?」
「……私は……嬉しいような……恥ずかしいような感情で頭がいっぱいです……裸を見せたのも男の方と触れ合うのも初めてなので……どうしたら良いのかわかりません……」

 すぐ耳元で声がする、土に埋もれて暗闇なのでその表情はわからないが……密着して感じる胸の鼓動がマインの今の感情を表している。

(まぁ話した感じは大丈夫そうだ、それより……地上がどうなったか確認しないとな……)

 ここでマインの温もりを感じているのも悪くはないが、このままじゃ窒息死してしまう。
 俺は死んでも大丈夫だがマインはそうはいかない。

 俺は腕をなんとか伸ばし、まず横斜め上の土をクラフトする。
 そしてその下の土をクラフト化してからそれを壊す、それにより俺達の横には箱一つ分の空洞が出来上がった。
 マインと一緒になんとか空洞部分に這いずり出る、俺は同じ要領で更に横に空洞を造り横長のスペースを作った。
 動ける空間さえ作ってしまえば後は問題ない、上にある地層をどんどんクラフト化して壊しながら箱を使って上ればいいだけだ。
 
 十分なスペースを確保したのちに松明に火を灯す、マインも俺も土まみれだ。
 裸では可哀想なので俺は自分の着てくた服を脱いでマインに渡す。

「俺の服も汚れてるけど良ければ着てくれ」
「いけません……ソウルさんが裸になってしまいます……私はこのままで……」
「男なんだから裸で大丈夫だよ、さすがに下は脱げないけど……上だけなら」

 俺はやや強引にマインに服を手渡す。
 マインはそれを大事そうに抱え、顔を赤らめたのちに申し訳なさそうに服を着た。

「地上がどうなっているかわからない……マイン、覚悟はいいか?」
「………はい、行きましょう。ソウルさん」

 そして、俺達は町の地下から抜け出した。

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〈ベルガスの地層〉→→〈港町ベルガス〉


 地上はひどい有り様だった。

 何もかもがその風景を一切無くし、焼き焦土と化している。
 あちこちにまたもや火種が散らばり、港町は更に見る影をなくす。
 野原や森林や土の隆起……自然も、虫や動物達僅かに残った家畜達……生命も、緑や水や森達が創り出す……色すらももう何もない。

 この島に残ったのは聳(そび)え立つ火山、そしてそれを囲う僅かな木々達……それだけだ。
 最早、島はその名の通りに灰の色しか存在していない。

「…………」
「…………」

 俺もマインも言葉を無くす他に、表せる感情が無かった。
 
 燃え続ける森林を鎮火させる手立てはない、二人しかいなくてはどう頑張ったところで焼け石に水だろう。
 この島にはもうすぐ木々すら無くなってしまう、本当に灰の島になってしまうのは時間の問題だ。
 そうなるとどうなるか。
 俺達が島を出る策を労する事もできない、資材が何もない。
 食糧も数日分しかない、新たに調達するのも難しくなってしまう。

 つまり、俺達の生きる望みすらほぼ絶たれたのだ。

「……一体私達が何をしたというのでしょうか?……町の方達は……こんな目に合わなければいけない何かでもしたのでしょうか……?」

 マインが灰に膝をつき、そう呟く。
 町にはもう何もない、俺達が作った墓も……遺体すらも残ってはいないだろう。
 町があった場所は徐々に浸水している、先ほどの爆撃で堤防も無くなり地盤自体が沈下したために海の面積が広がったのだ。

「………」

 マインの疑問に答える事はできなかった。
 あの爆撃を行ったのはきっとサクラが言っていた依頼者達の差し金だろう、『白銀の羽根』が島を掃討したのちに証拠隠滅を図ろうとでもしたのだろうか。

(……サクラが言っていた世界の意志とやらが関係しているのか知らないが……もう終わりだ……もうできる事がなくなった……)

 死ななくてもこの島を出る事ができないのでは意味がない。
 それ以前に……マインを生かす事ができない。
 どうやったって食糧には限りがある、水も確保できない。

(所詮無理な話だったか……俺があいつらに一矢報いようだなんて……)

 視界を灰が包む、それは俺が希望を無くした証でもあった。


<おいおいおい、お前さんまさかチュートリアルで終わらそうなんて気じゃねえよな? せっかく俺が力を与えてやったのによ>

 その様子を見ていたかのようにハコザキから声がかかる。
 しかし、俺は反応する気になれない。
 こいつの正体だとか、【箱庭】の力だとかはもうどうでもよくなった。

 希望は全て絶たれたのだから。

<なはは、情けねぇ野郎だ。どこまでも負け犬根性が染み付きやがって、もう世界の終わりってツラだな。勘違いすんな負け犬野郎>

 ハコザキは言いたいだけ言ったのち、ある言葉を放つ。


<『こっから』始めんだよ。俺がそうしたようにな、【箱庭】の力なめてんじゃねぇぞ?>

 
 俺はハコザキがいつも通りに放つ、憎まれ口のような皮肉の言葉の意味合いを素直に受け取り反応した。

「……………まだ、どうにかできる手段が……あるのか?」

 すると、俺に力を与えた時のようにより一層高らかに、ハコザキは笑った。

<なははははは! たりめーだろーが! 仕方ねぇ! 最後の親切に教えてやらぁ! だが! こっからは地獄の道だ! 今までみたく楽して強くなれっと思うなよ!? それでもその道を選ぶか!? しみったれのお荷物野郎!?>

 
 ハコザキは煽るように、鼓舞するように、そう言った。

 答えるまでもない質問に答えはせずに、ハコザキの言葉が聞こえていないマインに俺が代弁する。

「……マイン、これから何があっても……俺についてこれるか?」

 俺はまだ出会って間もない少女にそう問う。
 すると、マインも俺と同じように当然といった……全てを理解したような表情をして応えた。

「勿論です、ソウルさん」

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 そして、俺達の復讐の物語はこの一年後……

 ハコザキの言うチュートリアルとやらを全て終え……生き残った俺とマインの物語は再びこの島から始まる。

 
                        -『チュートリアル』終了-
  

 

 
 
 

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