上 下
205 / 268
最終節.女子高生(おっさん)の日常と、いともたやすく創造されしNEW WORLD

190.女子高生(おっさん)の文化祭準備②

しおりを挟む

 kwsk(くわしく)詰め寄ると、校長は詳細を語り始めた。

 なんでも今年度は来客希望者が殺到しているらしく、日程等の確認電話が後を絶たないようで──見込みによると100万人以上が我が校の文化祭に訪れる予測らしい。
 原因を校長は暈(ぼか)していたが、言うまでもないということだろう。

 来場制限や事前予約、警備の増員などで対策を図っているようだが……それでも例年とは比べものにならない人数が押し寄せてくる、と校長は語る。
 そして、その中には名だたる大物達がいるらしい。
 普通、こちらからオファーして初めて来てもらうものなのに……Sランクに該当するような芸能人達が、片田舎の変哲もない高校の文化祭に金を払ってでも来たいと言っているのだ。

 そうなってくると、来場者を音楽にて歓迎する予定である軽音部は必然……矢面に立たされる運命(さだめ)にあり、「培(つちか)ってきた技術を満遍なく披露する絶好の機会だ」──とはならず「芸能人達の前で演奏するなんて絶対無理!」となり、辞退を申し出たと相成ったわけである。

 うん、完全に、おっさんの責任だった。

「──いや、でも、だからって……文化祭って10月の最終週ですよね!? 約二ヶ月で人前で演奏するレベルまで到達しろなんて無理難題じゃないですかね!?」
「あ、アシュナ。私ギターやってるよ」
「アタシ、ヒナに付き合ってドラムやってた時あるよ。ヒマリも……」
「えへへ~、ベースできま~す」

 揃ってた。
 まさかの陽キャ三女傑、神揃い踏みだった。

「やべー……姐さんとヒナ達のガールズバンドなんてもう絶対ヤバいやつじゃん!」
「ふっ……ならば俺達は全力でサポートするのみだ」
「あっ、じゃあぼく照明やるよ!」
「機材に関してはあたし達に任せて」
「ならば……我々はセット造りに励むでござるよ!」

 クラスメイト全員が、ケン達までもが──おっさん達のために一丸とならんと奮い立ってくれた。
 こうなったらもうやるしかないだろう。

「──わかりました、やります」
「じゃあアシュナっ! これからは放課後も休みの日も練習ねっ!」
「仕事の方は大丈夫?」
「あー、うん。小説はもう書き終えてるし……編集長は学業優先にしてくれてるから全然……」

 大丈夫──そう言いかけて、重大な事を見落としていることに気付いた。
 【アオク】との曲作りだ。
 イド様も『学校終わりの空き時間』でスケジュールを組んでくれると言ってくれたのだが……こうなってしまうと朝から夜まで全く時間が無い。
 【アオク】のシングルリリースは11月でもう延期はできない──と、いうか大見栄切った以上……そんなことはさせたくない。

「ごめん、ちょっと電話で確認してくるね」

----------
-----

『──そっか、うん。それは仕方ないよ、学校優先って言ったのは僕だし』
「あっあのっ! 申し訳ないですけど一つ……提案、というかお願いがあるのですがっ──深夜帯にスケジュールを取ってもらう事はできますでしょうか!?」
『……えっ? いや、僕は夜型だし平気だけど……そんな事したら……』
「お願いします! どうしてもやりたい……やらなきゃいけない事なんですっ!」
『……うん、わかった。最初にお願いしたのは僕だ、その方向でスケジュール組み直してみるよ』
「ありがとうございますっ!」

 通話を切る──イド様はこちら都合の無茶な頼みにも一切声色を変えずに了承してくれた。改めて……なんて【神】なのだろう。
 浮世から隔離されたように静かな廊下とは対称的に、教室からは未だに熱が冷めやらぬ盛り上がりの喧騒が微かに聞こえる。

──『おじさん……あんな事言っちゃってどうする気ですか……?』

 阿修凪ちゃんが心配そうに声をかけてきた。

「どうするもこうするも……昼は学校行って、終わったらバンド練習して、深夜はイド様と歌詞づくりだよ」

──『無理に決まってるじゃないですかぁ! ただでさえおじさんは早寝なのに……』

「それは昼間に起きてるからだよ。夜まで寝れば流石に眠くならない……と思う。『夜勤はやめとけ』おじさんだけど一、二ヶ月くらいだったら問題ないよ」

──『……? じゃあ授業中とかに寝るってことですか……? 学業を疎(おろそ)かにしたらイド様も喜ばないと思いますけど……』

「違うよ。寝るのはだけ」

──『……いやいや、だからおじさんが寝るんじゃないですか……身体は一つしか……』

 そう言って、阿修凪ちゃんは閉口する。恐らく、俺が何を言いたいのか察したゆえの反応なのだろう。
 その解答を、容赦なく彼女に突き付ける。

「学校に戻るリハビリみたいなもんだよ。阿修凪ちゃん、キミがバンドで歌うんだ」




しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...